JA共済連(全国共済農業協同組合連合会・東京)は、農業の新たな担い手に向けた支援をはじめ、さまざまな農業振興活動に取り組んでいる。このほど、全国の20代男女を対象に農業に対する意識と実態についてアンケート調査を実施。次の社会を担う20代にフォーカスし、“効率重視の現代を生きる若者と農業に対する意識”を探った。
調査は、11月1日〜4日にかけてインターネットを通し、全国の20代男女1万人を対象に実施。その結果、20代の半数は、「タイパ」(「タイムパフォーマンス」の略。短時間で最大の利益や効果を得ることに着目した概念)を重視し過ぎて疲弊してしまう「タイパ疲れ」を経験。一方で、手間をかけることや自給自足の生活に憧れている様子が浮かび上がった。さらに、「タイパ疲れ」を感じている20代の6割が「将来農業をやってみたい」と農業への関心を持っていた。
■効率やタイパを重視する20代、半数以上が「タイパ疲れ」を実感
まず、20代男女1万人に「効率やタイパに対する意識」について質問。「何事にも効率性は重要だと思うか」と聞くと、「そう思う」(27.8%)と「ややそう思う」(47.8%)を合わせて75.6%が、効率性が重要だと思うと答えた。また、「“タイパ”が重要だと思うか」についても、「そう思う」(27.2%)と「ややそう思う」(47.1%)を合わせて74.3%が重要だと答えた。一方、「タイパ疲れを感じるか」と聞くと、半数を超える56.1%(「そう思う(19.0%)と「ややそう思う」(37.1%)を合わせ、56.1%がタイパを重視し過ぎて疲れを感じていた。
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■タイパ疲れを感じる20代は手間を好む? 就農希望は全体の約半数
次に生活価値観について、「20代全体」と「タイパ疲れを感じている5608人」を比較した。「生活の中であえて手間をかけてやっていることがあるか」について「ある」と「そう思う」の合計は、全体では46.6%なのに対し、タイパ疲れの20代では54.6%。また、「自給自足」について「やってみたい」と答えたのは、全体の41.9%に対し、タイパ疲れ20代では49.7%。さらに、「自然の中で働きたい」人は全体の40.9%に対し、タイパ疲れ20代の48.9%、「地方移住しても構わない」人は全体の47.6%、タイパ疲れ20代の53.3%だった。
「将来農業をやってみたいか」については、1万人のうち「そう思う」(21.4%)と、「ややそう思う」(30.6%)を合わせ、約半数の52.1%が「将来農業をやってみたい」と答えているが、タイパ疲れを感じる20代では60.2%と、全体より割合が高かった。これらから、タイパ疲れを感じている20代は、あえて手間をかけて自分の手で生活し、自然の中で暮らしたいという意向が強くなっていることが推測された。
■プロセスに深く関わり、自分の手で創意工夫していく「農業」
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若者の就農意識についてより深く探るために、「将来農業をやってみたい」と答えた20代男女700人(大学生200人、ビジネスパーソン500人)に、農業に対する意識や実態について詳しく聞いた。「農業の魅力」(複数回答)を尋ねたところ、「自然と向き合える」(38.4%)、「自分と向き合える」(30.0%)、「成果や過程が目に見える」(27.6%)が上位3位。次いで、「自分なりの創意工夫ができそう」が25.6%だった。 農業が、自然とも自分自身とも向き合うことができ、結果だけでなくプロセスに深く関わり、自分の手で創意工夫していく仕事であることに魅力を感じているようだ。
さらに対象を絞り、農業をやってみたい20代のうち、大学生200人に質問。卒業後の進路を聞くと、「すぐに農業を始める想定」と答えたのは6.5%。9割以上(93.5%)が「すぐに農業を始めるのではなく、会社などに就職するなど、農業以外のことを職業にする予定」と答えた。同時に、7割近くが「将来就きたい職業を見据えて、ファーストキャリア・セカンドキャリアを選んでいる」(「そう思う」「ややそう思う」の計67.5%)と答えていた。卒業後、社会人としての経験を積み、農業以外の職業につき、安定した収入を得たうえで、就農を考えているようだ。
■「現役のうちに自分のやりたいことを両立しながら」が理想
農業をやってみたい20代のうち、「卒業後すぐには農業を始めない」と答えた大学生187人と、農業以外の職業で働くビジネスパーソン500人の計687人に、「何歳ぐらいで農業を始めたいか」を聞いた。その結果、40代までに始めたい人が合計で約4割(41.5%)。社会人生活をリタイアしてからではなく、比較的若いうちから農業を始めたいと考える人が多かった。
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目指したい農業スタイル(複数回答)は、「農業と自分のしたいことを両立したい」(33.0%)、「別の仕事をしながら農業をする半農半X的な働き方をしたい」「家族や仲間と協力しながら、家庭的な農業を楽しみたい」(ともに28.6%)、「地域と連携しながら、コミュニティーに貢献する農業を行いたい」(22.7%)など。効率や生産性よりも、社会や人とのつながりを重視する持続可能なスタイルで、自分がしたいことと「複業」する農業を理想とする20代が多いようだ。
■農業志向の20代の半数以上が準備スタート
将来的に農業を始めることに備えては、全体の約半数(56.0%)が何らかの準備を始めていた。具体的には「農業に関する情報収集」(32.7%)や「資金を貯めている」(30.4%)、「農業をしている人や農業を始めた人からの話を聞く」(28.6%)、「農業や農業をしている人のブログや動画、SNSなどの定期的な閲覧」(26.8%)などが挙がった(複数回答)。身近で取り組みやすいことから始めているようだ。
農業キャリアコンサルタント AKUSYU(アクシュ)代表の深瀬貴範さんは、若い世代に農業が人気の理由について、あえて手間をかけて自然の中で働き、作った野菜を「おいしい」と言ってもらえるなど、自分の介在価値をじかに確認できる仕事である農業が、“タイパ疲れ”を感じている若い世代に注目されているのではないかと分析。ネットでさまざまな情報収集をしやすいことも、農業を身近な存在にしていると見ている。副業・兼業、転職が当たり前になった社会の環境もネクスト・キャリアとしての農業選択を後押しする要因に挙げている。また、初心者でも農業を始めやすい形として、まずは農業法人で知識や技術を吸収し、その後独立することも勧めている。