自殺を装い元社員を殺害か…エムエー建装は「アットホームな職場」だった

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2024年12月11日 16:10  Business Journal

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エムエー建装の公式サイトより(画像内を一部加工)

 東京・小平市の塗装会社「エムエー建装」の社長と従業員4人が、元同社社員の高野修さん(当時56)を線路の踏切内に行くように仕向けて自殺に見せかけて殺害したとして、今月8日に逮捕された事件。容疑者たちによる高野さんへの日常的な暴行や「いじめ」が世間を震撼させているが、この塗装会社が会社HP上で自社について「社員同士仲が良い、アットホームな雰囲気」「協力し合いながら働くことでチームワークの良さが仕事の質に反映されています」などとPRしていたことから、求人募集などでこうした内容を謳う企業には注意すべきなのではないかといった声もあがっている。


 警視庁は8日、エムエー建装の代表、佐々木学容疑者(39)、従業員の島畑明仁、野崎俊太、岩出篤哉の3容疑者を殺人などの疑いで逮捕した。事件が起きたのは昨年12月2日夜〜3日午前0時ごろ。高野さんは東京・板橋区の東武東上線の踏切で電車と衝突して死亡。当初は自殺とみられたが、高野さんが容疑者の車を降りて踏切内に入っていく様子を収めた防犯カメラの映像などから、警視庁は捜査を継続。


 容疑者らのスマホに残された動画からは、以前から高野さんが容疑者らから暴行やいじめを受けていたことがわかっており、事件当日は容疑者らは夜10時ごろに高野さんの自宅アパートを訪問して1時間以上滞在した後に、高野さんを車に乗せて荒川にかかる橋に連れて行ったとみられ、NHKなどの報道によれば、容疑者のスマホに「川は嫌だけど、踏切に行きたいんだって」という音声が残っていたという。その後、容疑者らは高野さんを板橋区の踏切に連れて行き、高野さんが電車にはねられた後に事件現場を去っていた。


 高野さんは2014年頃にエムエー建装に入社して20年に退職し、21年に同社へ再入社して昨年10月に再び退職。退職後は生活保護を受給したり警備員の仕事をしていた。同社は高野さんの在職中、会社が借りたアパートの家賃分を差し引いた給料を高野さんに支払い、給料を現金で支払わずに食料だけを現物支給することもあったという。


 職場のいじめに詳しい産業医はいう。


「中小企業に限らず、大企業も結局は社員は小さな部署単位で働くことになるので、その部署内でいじめの対象になるというケースは珍しくはありません。ただ、日常的に暴力を振るったり、深夜に複数人の社員が自宅を訪問して連れ出すというのは異常であり、いじめの範疇を通り越して犯罪行為です。もし仮に入社した会社がそのような職場だと分かったら、身を守るために極力早く辞めて離れることを考えるべきです。しかも今回被害に遭われた方は、すでに会社を退職していたということなので、容疑者たちは被害者の方の同僚でもなんでもないわけで、合意を得ずに自宅に押し掛けて中に入った上に外に連れ出していたのだとすれば、立派な不法侵入であり監禁です。


 職場での暴力は一人で解決することには限界があるため、映像やLINEの履歴など証拠を保全して、警察や弁護士などに相談すべきです。そして、そのような会社や同僚とは完全に関係を断ち切るという強い意志を持つことも重要です」


バーベキューを楽しむ社員をサイトにのせている会社は要注意?

 そんな「エムエー建装」だが、会社のHPには前述のとおり「社員同士仲が良い、アットホームな雰囲気」という文言とともに、社員同士が笑顔で肩を組み合うイメージ写真なども掲載されている。


「『会社のHPや求人募集ページに社員がバーベキューを楽しむ社員をのせている会社は要注意』『社員の仲が良い点やアットホームな雰囲気をアピールする会社は避けたほうがよい』とよくいわれますが、本当に社員同士の仲が良い会社もあるので、一概に避けるべきとはいえません。たとえば社員数が10〜20人くらいで残業が多くてノルマがきつい営業主体の会社であっても、その会社の残っている社員にとっては良い環境で仲が良いというケースもあり、そういう環境に向かない人にとっては『ブラック企業』ということになります。今回事件を起こした会社も、被害者の方以外の社員は本当に仲が良くてアットホームだった可能性もあるかもしれません。逆に社員同士の関係が濃くなくても、業績も社員の待遇も良い会社というのもあるので、会社選びにおいて『社員同士の仲が良いか』『アットホームな雰囲気かどうか』を重視しすぎると、失敗しかねません。特に社員数が10人以下の小さい会社の場合、そこで働く人たちのキャラクターには共通の特徴・傾向があるかもしれず、面接などを通じて『ここの人たちとは、いまいち肌が合わない』と感じれば避けたほうがよいでしょう。


 それよりも、しっかりと柱となる事業を持っているか、業務内容が自分のスキルややりたいこととマッチするか、法定時間外労働に対する時間外割増賃金率がしっかり守られているかなど、より具体的な事項をチェックすべきです。たとえば、固定残業代は原則として45時間が上限と考えるのが妥当となっていますが、見込み残業が60時間などとなっていれば『ちょっとこの会社はコンプラが緩い』と考えるべきでしょう」


募集要項で入社避けるべき企業の特徴の真偽

 当サイトは23年7月31日付記事『募集要項で入社避けるべき企業の特徴の真偽…年間休日116日、固定残業代30時間』を掲載していたが、以下に再掲載する。


――以下再掲載――


 転職が当たり前になりつつある昨今。後悔しない転職のためには、入念な情報収集が重要だ。SNS上には転職に関するノウハウがあふれているが、7月にTwitter上に投稿された「マジで避けるべき会社の特徴」という以下のツイートが話題となっている。


<【マジで避けるべき会社の特徴】
・HPにBBQ写真がある
・年間休日が116日以下
・平均年齢が28歳以下
・固定残業代30時間以上
・3年後離職率が30%以上
・面接官があくびをしてる
・OpenWorkの口コミ3.0以下
・面接に平気で遅刻してくる
・Googleマップの口コミが最悪>


 これに対し賛同する声や、ほかにも避けるべき会社の特徴について指摘する声などがあがっているが、投稿内容の信ぴょう性がどれくらいのものなのかが気になるところ。転職するにあたって大事な要素や、自分に合う会社はどのように見極めるべきなのか。主に20代のキャリア支援を行う「UZUZ」を経営する川畑翔太郎氏に聞いた。


「転職」に対するネガティブなイメージが刷新されて増加傾向

 まず、転職の実情はどうなっているのか、データを基に確認してみよう。マイナビが2022年に転職した20〜50代の男女1500名を対象に行った調査「転職動向調査2023年版」によると、2022年の正社員転職率は7.6%で、2016年以降で最も高い水準を更新。また、転職理由については、「給与が低かった」や「職場の人間関係が悪かった」などが上位を占めた。転職者が増加している背景は何か。


「転職へのイメージがネガティブなものからポジティブなものへと変化したことが要因でしょう。給与が低いことや職場の人間関係が悪いことなど、ネガティブな理由による転職はいまだに多いのですが、自己実現や次なるキャリアを見据えた、ポジティブな転職も増えつつあります。転職に対するイメージが刷新されたことで、より幅広く自分のキャリアを考えたい方が増えたのではないでしょうか」(川畑氏)


 では、ここからは今回話題となったツイートの「マジで避けるべき会社の特徴」についてみていこう。まず1つ目の特徴「会社のホームページにBBQの写真が載っている」はどうか。


「これはおそらく社員の見た目が派手、華やかな雰囲気がある会社に多い特徴ではないでしょうか。社員同士の仲のよさをアピールする会社というのは、スタートアップやノルマが厳しい営業会社など、労働時間が比較的長い会社によく見られます。会社のセールスポイントとして商材やビジネスモデルだけでは印象が薄く、かつ労働環境が厳しい場合、社員の仲のよさや収入面の期待の大きさなど、仕事以外の内容を強調しがちな傾向があります。もちろんBBQの写真が公開されているだけで避ける必要はありませんし、こうした社員同士の交流が多いこと自体はプラス要素ですが、ひとつの傾向として頭の片隅には入れておいてもいいかもしれません」(同)


固定残業代に関する誤解、離職率30%はそこまで高くない

 続いては2つ目の特徴「年間休日が116日以下」、3つ目の特徴「平均年齢が28歳以下」、4つ目の特徴「固定残業代30時間以上」について。


「年間休日は、120日が平均的な日数ですので、休みが少ないという点で避けるべき会社の特徴としては妥当かと思われます。次の平均年齢が28歳以下という特徴については、若手が多いとなると、それだけ独り身の社員が多い傾向にあります。したがって、育児や出産などライフステージに合わせた労働環境が整備されていないことも珍しくはありません。たとえば、20代しかいない立ち上げたばかりのベンチャー企業では、そうした傾向はよく見受けられるので注意したほうがよいでしょう。


 固定残業代30時間以上という特徴に関しては、誤解している方も多いので注意してください。固定残業代があるからといって労働時間が長いというわけではなく、例えば30時間以下の残業だったとしても30時間分の給与が払われるので、被雇用者が得をする場合もあるのです。勤怠時間をしっかり管理するとなると、管理コストがかかってしまうので、むしろ先に固定時間分の残業代を支払うかたちのほうが、企業としても効率がいいのです。固定残業代があるかないかで労働環境を判断するのではなく、固定残業代を含めた年収を労働時間で割って『仮の時給』を出してみて、それが平均より高いのか低いのかを判断するべきでしょう」(同)


 5つ目の特徴「3年後の離職率が30%以上」についてはどうか。


「30%という数字は、平均より少し高い程度で、特に避けるべき会社の特徴として挙げるほどのものではないと思います。新卒の3年以内離職率は、直近20年以上大体30%程度を推移しています。離職が多い業界だと、3年以内の離職率は50%となるところもあります。そもそもの話ですが、ポジティブな理由で転職する方が増えつつある今、そこまで離職率を注意深く見る必要性はないかもしれません。また、離職率が低いという職場は、社内でしか通用しないスキルを持った人材が長く勤めているような、いわゆる『ゆるい職場』も多いので、一概に離職率が低いことがプラスの要素だとも断言はできません」(同)


口コミは参考程度に、よい転職をするために心がけるべきこと

 6つ目「面接官があくびをしている」と、ひとつ飛んで8つ目「面接に平気で面接官が遅刻してくる」は、面接時のチェックポイント。


「あくびに関してはおそらく、2つの意味合いが含まれていると思います。あくびをするくらい忙しい労働環境だと推測できるから避けた方がよい会社であることと、面接官が面談に来た人を下に見ているような会社には入らない方がいいということです。面接官が遅刻してくるという特徴も、後者の理由と同じで、上から目線の人事であるというイメージからでしょう。ビジネスパーソンとして信用に足らない社員が表に立っているのは、たしかによいイメージは浮かびません。この2つの特徴に関しては、あくびや遅刻という行為に対して、面接官がきちんと謝罪をするなどして、面接者に対して対等な立場で臨んでくれるのかという点で判断するべきだと思います。


 とはいえ、面接官の態度が好印象だったということを主な理由にして、入社を決断することは、実は非常に危険なんです。一般的には、愛想や印象のいい社員を面接官や人事に据えるので、会社全体を人事の人柄だけで判断することはできません。仕事内容や社内制度など、しっかり会社の中身を見るように意識することが大切です」(同)


 そして7つ目「OpenWorkの口コミ3.0以下」と、ひとつ飛んで9つ目「Googleマップの口コミが最悪」という、会社の口コミに関する特徴についてはどうか。


「まず口コミというのは、基本的に悪い点が多く書かれているということを考慮し、そのうえで、口コミの件数が多いか少ないかで、会社の評価材料として使えるか判断するべきです。口コミが少ない会社は、やはり評価の判断材料としては弱いですし、逆に不自然なくらいいい点ばかりが口コミで書かれているようなところはサクラを使っている可能性があり、企業ぐるみででっち上げを行っている可能性もあります。あくまで口コミは参考程度に考えるべきでしょう」(同)


 最後に、転職するにあたって大事な価値観や、気を付けるべきことについて聞いた。


「世間でいわれているブラック企業の特徴に惑わされずに、しっかり“自分にとってのブラック企業”を把握することが重要です。例えば、労働時間が長くても高収入を得られる会社が好都合であると主張する方もいますし、給与は平均的でいいので残業がまったくない会社を希望したいという方もいます。個々人で“ブラックだと思う(都合が悪い)要素”は違ってくるので、働き方や仕事内容、環境など、さまざまな点から自己分析を行い、譲れないポイントをリストアップしていくと、自分に合う会社を選ぶことができます。


 もうひとつ気を付けるべきこととして、感情に流されすぎないようにすることは重要です。『会社説明会での人事の印象がよかった』『社長の話に感動した』などといった人の印象や、一時の感情で直感的に会社の評価を決めて入社を決断してしまうことはリスクが大きいと思っています。感情だけに流されず、自己分析で洗い出した要件を満たすかどうかを客観的な事実を元に判断することが、転職成功のカギです」(同)


 9項目あった「マジで避けるべき会社の特徴」は、的を射ているものもあれば、鵜呑みにしないほうがいいものもあるようだ。転職時の参考にしていただければ幸いである。


(文=Business Journal編集部)



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