『おむすび』第53回 また食いすぎてる四ツ木翔也……物語が物語を裏切っていく

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2024年12月11日 21:11  日刊サイゾー

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 以前、登場人物が言っていたことや行動が後になって「なかったこと」になったり、まったく別のことを言いだしたりで、自分の記憶力が逆に恨めしくなってしまうNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』も第53回。

 今日も今日とて、「あれ?」と思っては過去をさかのぼり「やっぱりそうだったよな」「なんでそうなってるんだ?」の繰り返しとなりました。ついでに、ここのところ毎回言っている「真面目にやれよ」なシーンも出てきたね。

 振り返りましょう。

■「食いすぎ」からの「食いすぎ」

 まるで雰囲気ゼロの町中華でいきなり翔也(佐野勇斗)にプロポーズされてしまった結さん(橋本環奈)。雰囲気ゼロなのでプリプリしていますが、内心では大喜びの様子です。

 大喜びなので、さっそく学校で、同じ班のみんなに報告。カスミン(平祐奈)は賛成してくれますが、若い男アレルギーのサッチン(山本舞香)は「絶対反対、あんたフラれたらどうすんの?」「男なんてそういう生き物やろ」などと唐突なことを言いだします。

「あんた、過去に何があったん?」と問いかけるカスミンに、サッチンは「別に」とか言ってます。

 翔也が現れただけでおじさんの背中に隠れて目も合わせられなかったサッチン。あの時点で変だったけど、まあそういう人か、と思っていたら、過去に何かあったことが示唆される。つまりは、昔から目も合わせられないほど若い男が苦手だったわけじゃなく、何かがあってそうなったということです。このドラマが人物の一貫性に無頓着であることはすでに承知していますが、それでもサッチンの過去という時間軸に何か、重いものが宙に浮いた感じがするんですよね。

 おそらく、意図としては結の前で結婚についての賛否両論が交わされ、加えて心ここにあらずなモリモリ(小手伸也)が描ければシーンとしての役割は達成しているんでしょうけれども、それにしてもセリフが場当たり的すぎるので「結婚に賛成」「結婚に反対」という記号を置く以上の意味が生まれてしまっている。こういう小さな違和感が、『おむすび』というドラマへの没入感を削いでいくわけです。

 翔也は社会人野球の星河電器への入社当時、食べ過ぎて調子が出ないという時期がありました。それをきっかけに、結が社食のメニューを組み合わせて栄養バランスが取れる献立を作り、翔也はそれに従うことにしました。

 その結の作った献立はバランスこそ取れているもののカロリー不足で、翔也はさらに調子を落とした。でも、大好きな彼女が作った献立だから、できる限りその指示通りに食事をしたい。

 結はサッチンとの会話からその献立がアスリートに相応しくないことに気付き、サッチンと2人で献立を作り直しています。

 結の翔也への愛情、翔也の優しい性格、結を嫌っていたサッチンとの和解など、さまざまな要素が語られた大きなエピソードです。このエピソードがなかったら、サッチンと結はいまだに口もきいていないはず。2人が和解していなければ炊き出しも成功しないし、炊き出しが成功していなければナベさん(緒形直人)も元気になっていない。いわば、あの献立のエピソードは阪神淡路大震災の被災者の心の回復を描く、その出発点になっていた。

 当然、時間がたった今でも翔也は結とサッチンが作った最適な献立に従って食事をしていると思うわけですよ、見ている側は。だって調子がよくなってるし、来年にはプロにも進もうというのでしょう、食事にうるさいメンディーもいるし、翔也という選手の食事がピッチングの調子と直結していることは糸島編から何度も語られている。それだって、こっちは納得できないものを無理やり納得してきた描写です。それなのに、まさか無視して適当に食ってるとは思わないよね。

 適当に食ってました。翔也くん、またごはん大盛りにして食いすぎて、練習で動けなくなってる。

 メンディーももう、翔也という人には直接何か言っても意味がないと思ったんでしょうね。会社に「栄養士を雇ってくれ」と直談判していました。

 そんなこんなで「就職が決まらない結」と「栄養士を欲しがる星河野球部」という構図を設置して、次回へ。

 ラストでママ(麻生久美子)が「結のやりたいことってなんだっけ?」と問い、結の頭に浮かんだのは専門学校への進学を両親に告げたシーンでした。

「一生懸命向き合っとう人を、支える。そういう仕事が自分に向いとうと思う」

 ここでそっちの回想を使うなら、神戸編であんなに何度も「翔也を支えたいから」って言わせんなよな。

■殺してはいけないエピソードを殺した

 誰がどう見ても、ああ結を星河に就職させたいんだな、というのはわかります。でも、そのきっかけとして今回、翔也が結の献立を無視して大食いしていたというシーンにはほとほとあきれ返りました。

 こうして物語が物語を裏切っていくたびに、過去に描かれたシーンが無価値になっていきます。翔也という人物が愛せなくなっていくし、結とサッチンの関係性の成熟も断ち切られる。ドラマがぶつ切りになって、色を失っていく。

 あとなんだっけ、結が就職が決まらなくてバツが悪いという理由で授業をサボってるシーンね、あそこはシンプルに「やっぱ不真面目かよ」と思って、結という人物がまた愛せなくなりました。

 複雑にも、シンプルにも、愛せない。

 北村有起哉と麻生久美子の若作り仮装コントは、ああいうのは嫌いじゃないよ。嫌いじゃないです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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