元テレ東の赤平アナ、発達障害の息子を塾なしで名門・麻布中学に合格させた“メソッド”を語る

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2024年12月14日 10:00  週刊女性PRIME

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赤平大さん 撮影/齋藤周造

 発達障害の長男が、わずか2か月の受験勉強で難関中学に合格。その秘訣は、経営学を学んでいたことと、息子へのたゆまぬ愛情だった。こう語るのは、元テレビ東京アナウンサーの赤平大さん。他者理解にもなる、発達障害の人とのベストなコミュニケーションの取り方とは? 経験者の見地から語ってもらった。

息子を理解しようと必死でした」

 本業である声の仕事をする傍ら、発達障害の動画メディア『インクルボックス』を運営するなど、発達障害に理解ある社会をつくるために精力的に活動しているのが、元テレビ東京のアナウンサーの赤平大さんだ。

 活動のきっかけは、息子さんに発達障害があることだった。発達障害がある人は、総じて生きづらさを抱えやすい。息子さんも成長するにつれて、生活の中でさまざまな困難に直面するように。

 そこで赤平さんは、発達障害に関して猛勉強し、息子さんが自立した生活を送れるよう全面的にサポート。勉強面でも塾に通うことができなかったため、本人の特性に合わせて努力を重ねた。

 息子さんは早くから発達障害に理解のある中学進学への準備をしていたが、小学6年の12月に急きょ、東京の難関中学である麻布中学の受験を決意し合格。

 その経験をもとに、このたび初の著書『たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。』(飛鳥新社)を上梓した。

 そんな赤平さんに、本を通して伝えたかったこと、発達障害に対する思いなどを聞いた。

 テレ東を退社後、MBA(経営学修士)取得を目指し、ビジネススクールに通っていた赤平さん。息子さんの発達障害がわかったのは、ちょうどそのころだった。

MBAの勉強と並行して、発達障害の勉強も始めました。あたった論文は500本以上。息子を理解しようと必死でしたし、いまも必死に勉強しています」(赤平さん、以下同)

 勉強していくうちに、赤平さんはあることに気づく。MBAで学んだ経営学が、発達障害支援にも応用が可能であるということだ。

例えば、息子のようなタイプの発達障害の教育では、『早修』と『拡充』が重要だといわれています。簡単に言うと、先取り学習と、習い事など学校外での学習。これは、経営学でいうところの『両利きの経営』とよく似ているんです。近年、世界的に支持されている経営の戦略論が、発達障害の息子をサポートするヒントになりました

 ほかにも『仮説思考』『差別化集中戦略』といった経営学の考えは、息子さんの学習に役立ち、麻布中学合格への道しるべとなる。しかし、「この本は、受験のハウツー本ではありません」ときっぱり。

良い関係を築きたいなら、相手を理解することは必須」

そもそも私は受験に詳しいわけではないんです。ただ、僕の趣味が“息子”なだけで(笑)。彼が生きやすいように整えた結果がたまたま今回の中学合格につながった。タイトルから受験にフォーカスされがちですが、私が本当に伝えたかったのは、他者理解についてなんです

 というのも、発達障害を学ぶことで、息子さんを理解できるようになると同時に、赤平さん自身にも、ある変化が起きたのだという。

人間関係が良好になり、それまで以上に人のことを理解できるようになりました。でもそれは自然なことで、発達障害を理解することはすなわち、他者理解を深めることでもあるのです

 発達障害はいわゆるグレーゾーンも含めると、人口の20%いるといわれている。同じ部屋に5人いたら、そのうちの1人は該当するということだ。また、ひと口に発達障害といっても、ADHD、ASD、LDなど、いくつかの障害を併せ持つことがほとんど

 重症度も人によって異なり、日常的にサポートが必要な人もいれば、「ちょっと変わった人」という場合もあるのだ。

発達障害を理解するということは、その人がどんな個性を持つのかを知ること。でもそれは、社会生活を送るうえで、誰しもがやっていることなんですよね。仕事も家庭も恋愛も、良い関係を築きたいなら、相手を理解することは必須です

 本書の内容は、職場での人間関係に悩む人の手助けにもなる。タイトルにMBAという言葉を入れたのは、赤平さんのこだわりで、「MBAと発達障害理解は親和性があるので、ビジネスパーソンに特に興味を持ってもらいたい」という思いから。

例えば職場で、何度も同じミスをする部下がいたとします。それを『あの人は仕事ができない』で終わらせたら、職場環境はいつまでたっても変わりません。そうではなく、あの人の個性を把握した上で、どうしたら覚えられるんだろう?と意識を変えてみるのです

 メモにして渡す、メールで指示するなど、その人の個性に合わせたやり方を模索していけば、どれかはヒットするかもしれない。他者理解は、仕事を円滑に進めるためのカギでもあるのだ。

 アナウンサーとして20年以上のキャリアを持つ赤平さん。息子さんへの声かけも、

あらゆるバリエーションを試せるので、その点では自分のスキルが生きていると思います

 という一方で、“話す”と“伝える”は、まったく別物だということも実感する。

私はきちんと話したつもりで、息子も理解してくれたと思っても、実際には伝わっていなかったことが、ときどきあります。アンミカさんの『白は200色ある』という発言が、面白話としてよくピックアップされますが、まさにそれです。こちらが白と言っても、相手が違う白を想像していたら、会話がすれ違うのは当然です

曖昧な言葉での指示はトラブルの原因

 伝え方については、本書でも繰り返し触れられている。例えば、「ちゃんとしなさい」といった声かけは、NGワード。

親が子どもに対して『ちゃんとしなさい』『しっかりしなさい』という声かけをすることがあると思いますが、いずれも具体的ではありません。発達障害の人にとっては、特に伝わりにくい言葉とされています。私たち大人も、曖昧な言葉での指示はトラブルの原因です

 コミュニケーションエラーを防ぐためには、どの状態が「ちゃんとする」なのか説明し相手の理解度を確認する必要がある。時間の解釈についても同様。家庭でよく耳にする「ゲームはあと10分で終わり」という声かけにも落とし穴が。

10分ギリギリまでゲームをして、それから電源を切ればいいと考える人もいれば、10分後には後片づけまで終わった状態であるべきだと考える人もいます。どちらもその人にとっての正解です。親子で、認識をすり合わせることが重要です

 そこで赤平さんの家ではホワイトボードを活用。息子さんのその日の予定を時間とともに“見える化”して、本人の行動を促すようにしている。

 発達障害の影響で「目からの情報が脳に伝わりやすい」傾向を持つ息子さんにとっては、話すよりも、見えたほうが認識しやすいのだ。

 このように、本書では発達障害がある息子さんが、効率よく生活・学習するための具体例が紹介されている。しかし赤平さんいわく、「私の息子に効果があったことが、ほかの人にも当てはまるとは限りません」と注意を促す。

発達障害は人によって症状も重症度もさまざま。ご家庭ごとに、本人に適した方法を見つけることが大事です

 赤平さん自身、息子さんを理解するために、いくつものトライ・アンド・エラーを重ねた。一つやって、うまくいかなかったと落ち込むのではなく、「これがダメなら、こっちをやってみよう」と、トライを続ける。

 そして最も大切なことは、トライするための知識と情報の量を増やすこと。『インクルボックス』を始めた理由は、誰でもすぐに知見が手に入り、息子さんが大人になる前に社会の発達障害理解が進んでほしいためだという。

睡眠は来世に預けました(笑)。私は趣味が息子ですから、今の生活に不満はないです。ただ、私の健康を心配してくれる友人から、『健康診断に行かなかったら二度と会わない』と強く言われてしまったので、明日10年以上ぶりに健康診断に行きます。私としては別に行かなくてもいいんですけど、診断書を送る約束になっているので、これは行かなきゃダメですね(笑)

『たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。』(飛鳥新社・税込み1760円)
発達障害のわが子を麻布中学合格に導いた著者が、MBAで学んだ「3つの基本戦略」をもとに6年間かけて実践した「学校」「日常生活」「家庭学習」「中学受験」の“環境づくり”を初公開。具体的な勉強法や生活のルールづくり、伝え方までもわかりやすく解説。

取材・文/中村未来 

あかひら・まさる 1978年、岩手県出身。2001年、テレビ東京入社。報道番組『速ホゥ!』メインキャスターをはじめ、バラエティー番組ナレーションやボクシング実況などを担当。2009年、退社しフリーアナウンサー・ナレーターとして『井上尚弥 世界戦』など担当。2017年、早稲田大学大学院商学研究科(MBA)修了。発達障害と高IQを持つ息子の支援のため起業し、発達障害の動画メディア『インクルボックス』を運営。学校や企業での講演も行っている。発達障害学習支援シニアサポーターなどの資格を保有。

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