今年でデビュー27年を迎えた漫画家の小田原ドラゴン先生。そんな巨匠が今年9月より週プレNEWS(集英社)で新連載『堀田エボリューション』を開始! というわけで、小田原先生がどんな道のりを経て、本作品にたどり着いたのかをジックリ語っていきます。
新連載第2回は初めての愛車について。
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1989年、商業高校を卒業した僕は無職の実家暮らしに......。要は堀田正一(新作『堀田エボリューション』の主人公)と同じ自宅警備員です。当然、夢も希望もありません。
しかし、世の中的にはバブルど真ん中。500万円台の日産の高級車(シーマ)が飛ぶように売れ、同年代の大学生は映画『私をスキーに連れてって』を地で行くトレンディさ。
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一方の僕はというと、相変わらずの人見知りで、人付き合いも苦手。恋人はもちろん、友達すらおらず、自分が何をやりたいのかさえもわからない。アルバイトを始めたり辞めたりの日々を過ごすだけで、出口はどこにも見当たりません。
そんなある日、僕の世界に少し変化が。中古車店の片隅にあったホンダの軽トゥデイを手に入れたのです。完全なひと目惚れでした。ボディカラーは紺色。サンルーフ付きのマニュアルトランスミッション車です。金額は諸費用コミコミで総額60万円ちょい。現金一括払いで購入しました。
実は当時、僕はホンダのVT250スパーダというバイクに乗っていたんです。ところが、あるとき信号待ちで止まっていると、店から出てきたクルマに突っ込まれてしまった。その保険金をトゥデイの購入に充てたんです。
トゥデイを手に入れた僕は毎晩のように、ヘッドライトの光りを頼りに真っ暗な道をあてもなく走りました。明るい未来が見えない僕にとって運転は唯一の楽しみでした。
トゥデイはマニュアル車だったので、速度に応じてギアを手動で選んでチェンジできる。逆に言うと、自分が走りやすいと感じるギアを選べる。それも良かった。とはいえ、無職の僕にとってガソリン代の負担は大きく、自宅近くを2時間前後うろうろするだけでしたが......。
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トゥデイを運転するときのお供もありました。ラジオ番組を録音したカセットテープです。お気に入りは浅草キッドの番組。芸能界の誰がカツラだとか、風俗の話だとか......コンプラに厳しい令和では考えられないひどい内容でした。
でも、僕はトゥデイに乗るたびにそのカセットテープを流す。そして、しっかり前を見て、ギアを上げたり下げたりする。そんな日々を送っていたら、最初はあてもなく徘徊していた僕が、いつの間にか道を覚え、目的地に向かってトゥデイを走らせていたのです。
確かにクルマの運転という楽しみは手にしましたが、友達も恋人もいない無職という現実は何ひとつとして変わりません。何より僕が途方に暮れていたのは、自分が本当に打ち込みたいものが全く見つからないこと。毎日、自分自身に絶望していました。そうこうするうちに僕はハタチを超えて......。
《つづく》
撮影/山本佳吾
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