画像:日本テレビ『女芸人No.1決定戦 THE W 2024』公式サイトより 12月10日、女性芸人ナンバーワンを決める賞レース『女芸人No.1決定戦 THE W 2024』(日本テレビ系)が放送され、にぼしいわしが8代目女王に輝いた。事務所に所属しないフリーランスの芸人としては、大会史上初の戴冠となったにぼしいわし。ただ、そんな物珍しさ以上に反響が寄せられていることがある。それは最終決戦に残った3組のネタがいずれも下ネタだったことだ。
1番手のにぼしいわしは「アイドルは排泄をするのかどうか?」というテーマで掛け合いをする漫才を披露。次に紺野ぶるまはコント中に「タマキンと呼んで」などのセリフを連発する。そして、忠犬立ハチ高では「官能小説家になりたい」というテーマを軸に「ロケットおっぱい」といったセリフが飛び出す漫才だった。三者三様のネタではあったが、いずれも下ネタが含まれており、「最終決戦にふさわしくない」と落胆する声がSNSに相次いだ。
同大会で決勝進出したエルフ・荒川は同日深夜にhuluで放送された『女芸人No.1決定戦 THE W 2024 最速反省パーティー』に出演した際、「アタシは下ネタ嫌でした!」「賞レースですよ。熱い思いあるからこそ言ってるんですよ。そう思われたくないから言ってんです」と口にしていた。
◆女性芸人の“容姿に関する自虐ネタ”が多かった過去
『THE W』のネタに関しては、以前より大御所からの“苦言”もあった。2018年12月にナイツ・塙宣之は『ナイツのちゃきちゃき大放送』(TBSラジオ)で、「女性があれだけいると、予選の段階から“女性のこと”をネタにする人が多すぎる」「同じだもん。だいたいが『ブスだから』『もてなくて』っていう」と『THE W』の感想を話していた。それだけ、容姿に関する自虐ネタを披露する出場者が目立っていたのだ。
さらには「フリートークと同じことをやってるから、ネタはネタでちゃんと作らないと」「消費する一方なんで。『私、彼がいなくて……』とかは、ひな壇でやってほしい」「やっぱりネタはネタで、ちゃんと作った方がいい」とも語っていた。
塙のこの発言から6年。ルッキズムが問題視されるようになった時代背景もあり、容姿を自虐して笑いをとるフリートークのようなネタは減少傾向にあるように思う。だが、今度はネタに関する違った指摘が多く寄せられた。『THE W』は結果以外が話題を集めやすい賞レースと言えそうだ。
◆視聴者投票と審査員の「大きなズレ」に違和感
また、審査に対する違和感も散見される。『THE W』では6人の芸人審査員(麒麟・川島明、アンガールズ・田中卓志、笑い飯・哲夫、マヂカルラブリー・野田クリスタル、さらば青春の光・森田哲矢、阿佐ヶ谷姉妹・渡辺江里子)に加え、視聴者投票である「国民投票」によって勝敗が決まる。
第1ステージでは、全12組がA、B、Cの3つのブロックに分かれ、各ブロックの4組の中から最終決勝に進出できる1組を決めていく。4組が順番にネタを披露し、2組ごとに「どちらのネタが面白かったのか」を審査員がジャッジする勝ち残り方式である。ただ、Aブロックでは視聴者票を獲得した、ぼる塾、やました、もじゃ、がいずれも敗退。その後も視聴者表と審査結果の乖離(かいり)は続き、第1ステージの投票トータル9回中、視聴者票を得た側が勝ち残ったのは、3回のみだった。
そして迎えた最終決戦。忠犬立ハチ高に視聴者票が集まったものの、芸人の審査員は他の2組に投じていた。素人とプロ、テレビと会場では見方が大きく変わることは言うまでもない。しかし、ここまで解釈が異なると違和感を覚える視聴者が出てきてしまうのも無理もない。
◆視聴者からバッシングも。審査員の立ち回りの難しさ
大会の目玉の一つとして視聴者投票を実施している中で、それと大きく異なる審査結果を出すのであれば、審査員の意見もしっかり聞かせてもらわなければ納得はできない。ネタの良かった点も聞きたいが、視聴者票を獲得した芸人を落とすのなら、悪かった点も明確に答えてもらいたい。ところが、『THE W』ではいずれの審査員も優しく、ネタを評価するコメントだけが目立つのだ。
とはいえ、厳しいコメントができないのは仕方ない部分もある。アンガールズ・田中は2022年10月に『アメトーーク!』(テレビ朝日系)に出演した際、『THE W』で審査員を務めた時にAマッソに票を入れなかったことで、Aマッソのファンから自身のインスタアカウントを執拗に攻撃されたことを告白していた。
同番組に限らずお笑い賞レースでは視聴者が審査員を“審査”する傾向も強く、バッシングに遭いやすい。だからこそ、『THE W』の審査員たちはほどほどのコメントに自重しているのかもしれない。とはいえ、オブラートに包みすぎると、それはそれで批判にさらされかねない。審査員の立ち回りの難しさを感じずにはいられない。
◆今の『THE W』に圧倒的に足りない“存在”は
こうした風向きを変えるためにも、『THE W』には歯に衣着せぬコメントができる審査員が必要なのではないか。審査員がバシッと言ってくれれば、「よくぞ言ってくれた」「そういうところを評価していたのか」 と視聴者の留飲を下げ、ネタや審査に関する不満は減るだろう。また、大会全体の緊張感を生み出すことにもつなげられる。
他のお笑い賞レースでも、審査員が順位が低い出場者に辛口コメントをしたことにより、“おいしく”なったケースは珍しくない。そういった一見厳しいやり取りがドラマを生み、より格式ある大会に成長させてくれる。炎上を厭わない、歯に衣着せぬ審査員の登場を待ちたい。
<文/浅村サルディ>
【浅村サルディ】
芸能ネタ、炎上ネタが主食。好きなホルモンはマキシマム ザ ホルモン。