「われわれはエンタープライズを支えるAIを提供していく」
「AIエージェント」の進化形とは? 富士通のテクノロジー戦略から探る“企業を支えるAI戦略”
富士通 執行役員副社長でCTO(最高技術責任者)とCPO(最高製品責任者)を務めるヴィヴェック・マハジャン氏は、同社が2024年12月12日に研究開発拠点のある川崎工場(神奈川県川崎市中原区)で開いたテクノロジー戦略説明会でこう切り出し、AI技術における同社の研究開発の最前線を明らかにした。
その中で、エンタープライズを支えるAIの要とも言える「AIエージェント」の進化形に言及する内容があった。この内容を紹介するとともに、AIエージェントを活用するために企業が取り組むべきことを考察する。
●「AIエージェント」の進化形とは?
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会見では、マハジャン氏とともに、執行役員 EVPで富士通研究所 所長の岡本青史氏、執行役員 EVPでCDXO(最高デジタル変革責任者)とCIO(最高情報責任者)を務める福田 譲氏が説明役を担った。
マハジャン氏はまず、富士通のAI戦略として、冒頭で紹介した発言にある「エンタープライズを支えるAI」をキーワードに、「多様で大規模な企業データに対応」「変化する企業ニーズに柔軟に対応」「挙動制御でAI活用の不安払拭」の3つを挙げた(図1)。
続いて説明に立った岡本氏は富士通のAIの進化について、「企業における業務を革新する生成AI、そして自ら課題解決を推進するAIエージェント、さらに複数のAIエージェントが協調する未来へと、AIを進化させる」と説明した。その流れを示したのが、図2だ。
機能面から捉えると、インタラクションを通じて目的に合ったコンテンツを作成する生成AIから、目的や環境を理解して達成に向けたタスクを計画し実行するAIエージェント、さらに複数のAIエージェントが分散・協働して複雑な課題を解決する「マルチAIエージェント」に進化させるといったものだ。今回、同社はAIエージェントの強化を図るとともに、その進化形となるマルチAIエージェントについて初めて説明した。
AIエージェントの強化について少し触れると、「対話型生成AIから自ら課題解決を推進するAIエージェントへ向けて、効率的な選択記憶、能動的な自己学習、ルールによる行動制御の技術をアップデートした」(岡本氏)とのことだ。これについては今回、「作業効率化や安心・安全な現場づくりに向けた改善を自律的に支援する映像解析型AIエージェントを開発」と題した発表もあった。
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マルチAIエージェントについて岡本氏は、「異なるAIエージェントのセキュアな連携により、プロアクティブに課題を解決する当社ならではのマルチAIエージェントを実現するため、現在、3つの技術開発に取り組んでいる」とし、その内容を説明した。
1. 「共創学習」
複数のエージェント同士が相互作用しながら、共創的あるいは敵対的に学習する技術だ。これにより、複雑で未知の問題への柔軟な対応が可能になる。
2. 「セキュア・エージェントゲートウェイ」
エージェント間連携のプライバシーやセキュリティリスクに対応し、連携ポリシーを「場」に適用する技術だ。これにより、情報交換とアクションの信頼性を確保する。
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3. 「AIワークフロー制御」
AIエージェント間での分業とタスク実行の整合性を制御する技術だ。これにより、環境や課題の自動理解による最適なタスク分業が可能になる(図3)。
同社は今回、マルチAIエージェントの第一弾として、異なる専門スキルを持つAIエージェント間のナレッジ連携で堅ろう性を高める共創学習をベースとしたセキュリティ技術を開発したと発表した。これにより、「攻撃と防御のシナリオを、実環境と模擬した仮想環境上で協調させて最適な施策を実行できる」(岡本氏)という(図4)。
●経営視点の取り組みが不可欠なAIエージェントの活用
岡本氏はマルチAIエージェントについて、「企業内での利用にとどまらず、クロスインダストリー領域へ適用するためにはどうすればよいか。産業競争力懇談会(COCN)に提案して採択され、『エンジニアリング革新』とのテーマで、サプライチェーンのAIエージェント同士でクロスインダストリーの最適化、調整、判断を行えるようにして、国際競争力およびレジリエンスを向上させる仕組みを政策提言しようと取り組んでいる」とも話した(図5)。
岡本氏の話からすると、個人を起点とするAIエージェントに対し、企業の組織や業界を超えて協調しながら動き回るのがマルチAIエージェントという捉え方もできそうだ。
AIエージェントの進化については、マハジャン氏も興味深い話をしていたので紹介しておこう。同氏は自身の話の最後に「AIテクノロジービジョン」として、「マルチベンダーによるAIエージェントが連動し協調するコンポーザブルアーキテクチャを提供する。これにより、企業が事業戦略に合わせてAIを選択しコントロールすることで、革新を起こせるようにする」と語った(図6)。
図6に描かれている内容の説明はあまりなかったが、ポイントは「マルチベンダーのAIエージェントが連動し協調する」というところだろう。岡本氏が説明していたマルチAIエージェントのベースとなる考え方でもあるようだ。
富士通はテクノロジーベンダーだが、ITサービスベンダーでもある。マハジャン氏の言う「コンポーザブルアーキテクチャ」の実現は、ITサービスベンダーとしても腕の見せ所だろう。
最後に、福田氏の話を紹介しておこう。同氏によると、富士通では2023年5月に全社で生成AIを活用する環境を整備し、およそ1年半が経過した現在では約3万5000人がアクティブユーザーとのことだ。AIエージェントについても積極的に活用し始めたところだという。そして、同氏はCDXOおよびCIOの立場からAIの活用について次のように語った。
「社内のITを統制する立場としては、経済安全保障やセキュリティ、さらにAI活用の主権という観点から、クラウド利用において特定のメガベンダーに依存すべきではないと考えている。その意味では、マルチベンダーでオープンな環境作りに共感する」
さらに、AIエージェントの活用についても次のような見解を示した。
「例えば、企業として顧客情報を保持しているお客さまが、今日セミナーに来られてアンケートのこの点にチェックを入れ、コメントを書いてお帰りになったとする。それを顧客情報と合わせて分析したAIエージェントが『このお客さまに対してはこういう資料を使ってこんな内容の提案をしてはどうか』と助言するようなケースは、これからどんどん出てくるだろう。だが、そうしたAIエージェントとの関係を人間側あるいは組織としてスムーズに受け止めて動けるかどうか。AIエージェントとの関係において人間側が意識や行動を変えていかなければ、うまく回らないのではないかと懸念している。その意味では、テクノロジーの進化だけでなく、チェンジマネジメントやコンサルティングも合わせた取り組みが必要になるのではないか」
全く同感だ。筆者もAIエージェントの活用は経営視点の取り組みが欠かせないと考える。AIエージェントは技術論もさることながら、人間とAIエージェントの関係性や組織の在り方をもっと議論すべきではないか。この点をユーザーにもベンダーにも訴求しておきたい。
○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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