巨人のエース・菅野智之が4年越しの夢実現に一歩近づいた。
現地時間16日、オリオールズが菅野との契約合意を発表。現地報道によると、1300万ドル(約20億円)の1年契約とのことだ。
今季セ・リーグのMVPに輝いた菅野を巡っては、複数年の契約を提示したチームも中にはあっただろう。それでも35歳の右腕があえて単年契約を結んだのは、1年1年の勝負を選択した決意の表れともいえる。
菅野といえば、20年オフにポスティングシステムを利用してメジャー移籍を目指したが、コロナ禍という不運も重なって交渉がまとまらず。巨人に残留していた。
その後の不振を乗り越え、今季エースの座を奪い返した菅野。チームを4年ぶりの優勝に導いたことで、メジャー再挑戦の意思が固まった。ついに来季、メジャーのマウンドに立つ夢をかなえられそうだ。
移籍先の候補として複数のチームの名前が挙がっていたが、オリオールズと聞いて真っ先に思い浮かべたのが巨人の大先輩・上原浩治氏である。2008年オフに33歳でメジャー挑戦を果たした上原氏の移籍先もまたオリオールズだった。
長きにわたり巨人のエースとして君臨した2人には移籍先以外にも少なくない共通点がある。
ともに大学卒業後に巨人に入団したが、上原氏は高校卒業後に、菅野は大学卒業後にそれぞれ1年の浪人生活を送っている。遠回りしてプロ入りした苦労人といえるだろう。
また背番号が同じ19番。菅野が入団した時は、上原氏はすでにメジャーで活躍しており、エースナンバーを引き継いだ。14歳上の大先輩の投手像を理想に掲げ、「上原2世」と呼ばれることもあった。
そう呼ばれた理由が針の穴に糸を通すような精密機械ぶりである。上原氏にとっては、メジャーで活躍した最大の理由が制球力の良さであった。
ただ、上原氏のメジャー挑戦は順風満帆だったというわけではない。オリオールズでの1年目は先発で結果を出せず、故障もあって12試合の登板に終わった。しかし、2年目以降に救援投手として本領を発揮。38歳でレッドソックスの守護神としてワールドシリーズで胴上げ投手にもなった。
巨人時代から抜群の制球力を誇っていた上原氏だが、メジャーではさらに磨きをかけ、140キロ前後の速球とフォークの2つの球種を駆使してメジャーの強打者を手玉に取った。今も救援投手として最も成功した日本人メジャーリーガーの一人に数えられている。
また、18年に上原氏が巨人に復帰した際は菅野との共闘も遂げている。18年のクライマックスシリーズファーストステージでは、第1戦のお立ち台に上った上原氏が「(明日は)1人で投げきってください」と菅野にリクエスト。すると、菅野は翌日にノーヒットノーランを達成し、その偉業は今もファンの間で語り草となっている。
菅野にはアメリカで再び「上原2世」と呼ばれるような活躍を期待したい。
文=八木遊(やぎ・ゆう)