現在、チャンピオンシップ(プレミアリーグ2部相当)では8人の日本人選手がプレーしている。
田中碧(リーズ・ユナイテッド/MF/26歳)
大橋祐紀(ブラックバーン・ローバーズ/FW/28歳)
坂元達裕(コベントリー・シティ/MF/28歳)
平河悠(ブリストル・シティ/FW/23歳)
斉藤光毅(クイーンズ・パーク・レンジャーズ/FW/23歳)
橋岡大樹(ルートン・タウン/DF/25歳)
瀬古樹(ストーク・シティ/MF/26歳)
角田涼太朗(カーディフ・シティ/DF/25歳)
田中の評判がすこぶるいい。リーズの中盤に君臨し、いまや必要不可欠の存在になった。ポジショニング、プレー強度、キックの精度、運動量のいずれもが申し分なく、外国人にはシニカルなメディアですら絶賛するほどだ。
「すべてにおいて、アオは完璧だ。『リーズの宝』と言って差し支えない」(『ヨークシャー・イヴニングポスト』)
「しょせんはチャンピオンシップ」などと言うなかれ。ハリー・ケイン(現バイエルン)はレスター・シティで、ジュード・ベリンガム(現レアル・マドリード)はバーミンガムで、さらにジョーダン・ピックフォード(現エバートン)もプレストン・ノースエンドで貴重な経験をしている。
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「今日の私はチャンピオンシップでの苦楽によって築かれた」と、彼らは異口同音に語っていた。現役イングランド代表たちのコメントは真実味にあふれている。
今年8月、ブンデスリーガ2部のデュッセルドルフから移籍してきた時、懐疑的な視線もあった。田中がプレミアリーグのクラブを望んでいたため、「リーズは腰かけか」という誤解を生んだようだ。彼に限らず、ありがちな流れではある。
開幕直後、イングランド特有の激しい当たりに戸惑ったことも誤解が増幅した要因だ。
しかし、主力の負傷欠場でスタメンの機会を与えられた田中は、瞬く間に本来の力を発揮していく。世間の評価は好転した。「アオはすばらしい」「絶対に手放すな」「近年では最高の補強」など、各方面から絶賛の声が聞こえてきた。田中はみずからの力で周囲を納得させたのである。
【ドイツやイタリアからもオファーの噂】
特に今シーズンは対人プレーに磨きがかかり、守備面の貢献度が高くなっている。スッと体を寄せて的確にボールをヒットし、ターンオーバーの技術も飛躍的に向上した。
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日本代表では守田英正(スポルティング)や遠藤航(リバプール)の後塵を拝しているものの、田中が彼らに劣っているわけではない。森保一監督がメンバーをほぼ固定しているからだ。それでも田中が日本代表に定着している事実は、森保監督の信頼の証だ。
北中米ワールドカップ予選突破後、すなわち最終予選の終盤では、戦略のバリエーション拡充のために田中のスタメンは十分に考えられる。同じ川崎市出身で「鷺沼兄弟」と言われる三笘薫(ブライトン)とはツーカーの間柄だ。ワールドカップ本大会でも貴重なピースであることに疑いの余地はない。
さて、アメリカのスポーツメディア『the athletic』(正確なデータ分析に定評あり)が田中の出色のデータを報じていた。12月8日現在、90分当たりのパス成功率ではチームトップの74.37%。常に厳しいマークに遭い、運動量も要求される中盤センターのデータとしては申し分ない。
だからこそ、多くのメディアが来年1月に再開する移籍市場のキープレーヤーとして「田中碧」の名前を挙げ始めたのだろう。現在はフランクフルト、ボルシアMG、ACミランなどが興味津々と伝えられるが、この3チームは財政的に芳しくない。「いずれプレミアリーグで戦うためにここ(リーズ)へ来た」と語っていた田中の希望にもそぐわない。
であれば、名門復活の担い手、という選択肢も悪くないのではないか。
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リーズは今年でクラブ創設105年を迎えた古強者だ。いまでこそチャンピオンシップだが、トップリーグの3回をはじめとして、イングランド国内のタイトルを4回も獲得している。決して"ぽっと出"や"一見さん"ではない。
【冬の移籍を避けたほうがいい理由】
ビリー・ブレムナー、ジョニー・ジャイルズ、ノーマン・ハンター、ポール・マデリー、アラン・クラークなど、オールドファンには懐かしい名手たちをズラリと揃えた1973-74シーズンはイングランド1部リーグ(現プレミアリーグ)を制覇。「サンダーボルトショット」とも言われたピーター・ロリマーの左足は、驚異的な破壊力で多くの対戦相手を震え上がらせた。
翌シーズンのチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)は決勝でバイエルンに敗れたものの、明らかなPKが見逃されたり、完璧なゴールが取り消されたりもした。
「間違いなくPKだった。われわれはレフェリーに救われたんだよ」
当時、バイエルンのキャプテンを務めていたフランツ・ベッケンバウアーも認めている。
また、2000-01シーズンのチャンピオンズリーグはベスト4進出。リオ・ファーディナンド、ハリー・キューウェル、リー・ボウヤーといった新進気鋭が見せる攻撃的なスタイルに、多くのサッカーファンが心を躍らせた。
田中がこの冬、革新的なアイデアや高度なデータ分析で急速に力をつけてきたクラブを選んでも構わない。だが、リーズは日本で考えられている以上に名門だ。いうなれば「老舗ブランド」。田中のキャリアに箔(はく)がつく。
ましてや、冬の移籍は難しい。フィットするまで1〜2カ月の時間が与えられる夏とは異なり、新しい戦い方と環境に数日で馴染まなくてはならない。確固たるレギュラーから控えに下がるリスクもある。試合勘を失い、ようやく巡ってきた試合出場のチャンスにミス連発......頻繁に起きるケースだ。
同僚とサポーターの信頼を勝ち取り、メディアにも高く評価されているのだから、今は1ミリたりとも焦る必要はない。今シーズンいっぱいはリーズに、いやいや、イングランドきっての名門クラブに骨を埋める覚悟でもいいだろう。
【自動昇格できるのはリーグ上位2チーム】
遠藤航がリバプールに、冨安健洋はアーセナルに所属している。両クラブも老舗ブランドであることに疑いの余地はなく、そこで日本人選手がプレーするなど、イングランドサッカーを50年以上も追い続ける筆者にとっては隔世の感がある。
12月14日現在、12勝6分3敗のリーズはシェフィールド・ユナイテッドに次ぐ2位。37得点はチャンピオンシップ最多であり、15失点はバーンリー、シェフィールド・Uに続く3番手だ。リーズは攻守のバランスもすばらしく、自動昇格圏内をキープしている。その中心に君臨するのが『AO TANAKA』だ。
あえて繰り返す。来年1月の市場で移籍すべきではない。名門復活の担い手として、リーズとともにプレミアリーグへ──。
胸もときめく大団円だ。