損害保険ジャパンの代理店の社員が保険証券を偽造し、計23人の顧客から保険料の名目で計約8000万円を不正に受け取っていた疑いがあることがわかった。同社といえば昨年に世間を揺るがせたビッグモーター問題で金融庁から業務改善命令を受け、社長と親会社SOMPOホールディングスの会長が辞任および退任。競合他社との事前の保険料調整をめぐり昨年6月に金融庁から報告徴求命令を受けた問題では、今年6月に外部の弁護士からなる調査委員会の報告書を公表し、経営陣が自ら不正行為を行った上に証拠の隠蔽を行い、金融庁への報告内容の改ざんも行っていたことが発覚。さらに、7月には代理店への出向社員による契約情報漏洩が相次いで発覚するなど不祥事が続いている。その背景には何があるのか。また、保険会社関係者による顧客からの詐取というのは、表に出ていないものも含めると多いのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
損保ジャパンの新潟県の代理店に勤務していた78歳の女性社員(8月に退職済)が2002年以降、積立傷害保険で保険証券を偽造して保険料を騙し取っていた事案が72件確認されたという。
「一般の人は細かい内容が書かれた保険証券を見ても、それが本物か偽物かを見分けることはできないし、契約した保険証書を細かく読む人は少ない。保険代理店の募集人は当然、正規の保険申込書を持っており、顧客は勧誘されて契約に納得すれば、その申込書に必要事項を記入して募集人に渡せば『保険に加入した』と思い込むし、毎年保険料を支払い続けていても不審に思うことはない。多くの人は事故などがない限り、自分が保険を契約していることすら忘れていることも珍しくなく、事故が生じて保険金支払いの申請が必要な状況にならない限りは、保険契約が架空で詐欺のものだと気がつかなくてもおかしくはない」(大手損保会社社員)
生命保険会社員はいう。
「生命保険会社では、以前は営業職員がノルマ達成のために知人に名義を借りて新規の保険契約をつくり、自腹で保険料を払う自爆営業が珍しくなかったが、モラル的に問題があるとはいえ、契約自体は架空ではなく実存していることになるので、詐欺とまではいえない。一方、今回のケースは損保ジャパンの正味収入保険料にもカウントされず、従業員が保険料だと偽って顧客からカネを騙し取ってるだけなので、単なる犯罪です。営業成績の水増し行為ですらない。損保の代理店の募集人が全国で何人いるのかは分かりませんが、たとえば大手生保の営業職員だけで10万人以上おり、確率論的に違法行為を働く人間が一定程度いるのは仕方ないともいえます」
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損保ジャパンでは不祥事が相次ぎ、その企業体質に批判的な風が強まっている。
そんな逆風の発端となったのがビッグモーター問題だ。損保ジャパンは長年にわたりビッグモーターに出向者を送り込み、損保会社に提示する事故車の修理代見積もりを高く見せかけるための指南をしたり、自社の保険契約者の事故車をビッグモーターに優先的に斡旋。ビッグモーターによる不正請求の発覚を受けて損保会社各社が同社との取引を停止するなかで、損保ジャパンのみが取引を再開し保険契約シェアを拡大。大手損保3社が協議を行いビッグモーターに対し調査委員会設置を提案する方向で調整していたところ、突如として損保ジャパンが協議から離脱していたこともわかっている。金融庁は損保ジャパンと親会社SOMPOホールディングスに業務改善命令を出し、当時のSOMPOの桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者と損保ジャパンの白川儀一社長は退任に追い込まれた。
競合他社との保険料事前調整問題でも、同社の体質が改めて浮き彫りになった。損保ジャパンは昨年6月に金融庁から報告徴求命令を受け、今年6月、外部の弁護士からなる調査委員会の報告書を公表。顧客である契約者への見積提示前に、競合他社との間で引受可能なシェアや見積保険料、保険料率、補償条件などについて調整を行うことが常態化していた。各損保会社内における保険契約の対象となる付保物件の評価額や、保険事故発生リスクの評価内容などの機微情報も共有されていた。従前からの各社の引受シェアを維持し、かつ保険料の値下げ競争を避けるのが目的であり、独占禁止法に違反する。団体扱保険料の割引率改定時における契約者への最大割引率の提示や、官公庁などの管財保険の入札でも、このような競合他社との事前調整を行っていた。
経営陣自らも不正行為を行っていた。20年、新型コロナウイルス感染症に関する商品改定に際して、経営陣は約款などの情報を他社と交換し、他社から入手した情報を取締役を中心とした経営陣を含むメールチェーンでやり取りしていた。独禁法に違反するリスクがあることを法務・コンプライアンス部担当取締役が指摘したところ、当時の法務部門の管理職が賛同するかたちでメールチェーンを削除し、その後も情報交換を続けていた。最終的には社内で上記メール宛先の関係者に対してメールを削除する旨の指示が周知され、調査部の管理職がメールチェーンの内容を印刷し、自宅に持ち帰り保管していた。
金融庁への虚偽報告も行っていた。23年8月、金融庁から保険料調整行為に関して報告徴求命令を受けた際、「独占禁止法に抵触するおそれのある行為」と「独占禁止法には抵触しないと考えられるが不適切な行為」について、該当する件数を極力少なく見せようと上記区分を変更するなどして金融庁へ報告。弁護士から合理性・妥当性について再三疑義を呈されていたにもかかわらず、それを無視していた。
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このほか、昨年10月、金融庁に対し、役員の不適切行為に関する認識についてのアンケート結果を提出する際、役員によるアンケートへの回答の一部を改変していた。法務・コンプライアンス部の担当者が改変していた。
さらに不祥事の発覚は続いた。今年7月、保険代理店・トータル保険サービスへの出向者が同社の顧客の損害保険契約情報、計2700件を損保ジャパンに漏洩させていたと発表された。同月、保険代理店の朋栄も、損保ジャパンからの出向転籍者が、同社からの要請に応じて朋栄の顧客契約情報1518件を損保ジャパンに漏洩させていたと発表。損保ジャパンが以前から組織的に出向者に指示して情報を漏洩させていた疑いが持たれている。
もっとも、損保会社間での保険料の事前調整や代理店への出向者による情報漏洩は、他の損保会社でも業界の慣習として広く行われてきたものであり、業界全体で見直しが進んでいる。たとえば、日本損害保険協会は、損保会社が顧客企業への営業を目的する出向者を禁止する旨をガイドラインに明記することを決めた。
「損保業界のなかで損保ジャパンだけに問題があるというわけではないものの、いろいろと問題が目立つとはいえます。東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、そして損保ジャパンが『大手損保3社』と括られますが、三菱グループの東京海上、三井・住友グループの三井住友と異なり、損保ジャパンは芙蓉グループとはいえ旧財閥系グループとの関係は薄く独立系に近い存在であるため、ゴリゴリの営業姿勢で現場に振られる営業ノルマがキツイことで有名です。そういう企業体質が、ビッグモーター問題をはじめとする一連の不祥事が生まれる根っこにあるように感じます」(大手損害保険会社社員)
損保業界では、東京海上日動が11月、代理店社員が約1600万円の保険料を詐取していたと発表。保険業界全体では近年、社員による不正が相次いでいる。大きなニュースになったのが、2020年に発覚した、第一生命保険の元・特別調査役の女性による約19億円の金銭詐取事件だった。女性は計24人の顧客に架空の金融取引を持ちかけていたが、同社では他にも元職員による複数の金銭詐取事案が発覚し、被害総額は20億7690万円に達した。昨年には、日本生命保険の元営業職員が90代の女性に架空の保険契約を提案するなどし、約1532万円をだまし取っていたことが発覚。今年6月には明治安田生命保険の元営業職員が顧客10人から約1億3000万円をだまし取っていたと発表。1994年から2021年までの間、保険料を着服したり、顧客から預かった通帳を使って、契約した保険を担保にお金を借りる制度を悪用して振り込まれたお金を着服していた。
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(文=Business Journal編集部)
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