ケイファーマ <4896> は、これまで有効な治療法が確立していない中枢神経疾患を重点領域とした慶應義塾大学発のバイオベンチャー。iPS創薬、再生医療の2分野で事業を推進しており、これらの分野では世界最先端にいる。iPS創薬事業においては、ALS治療薬候補の「KP2011」は2023年に日本国内の権利をアルフレッサファーマに導出した。同社には「KP2011」を含めてiPS創薬事業で6本、再生医療事業で5本のパイプライン(新薬候補)があり、今後の展開に注目だ。同社の現状と今後について福島弘明社長に聞いた。
――御社はiPS創薬、再生医療の2分野で新薬開発を進めています。
「中枢神経の再生医療はかつて不可能とされていました。しかし、当社の創業者で、取締役CSO(最高戦略責任者)である岡野栄之氏がヒト脳内の神経幹細胞の存在を示し、現在では中枢神経の再生医療が現実的なものになっています。岡野CSO、中村雅也取締役CTO(最高技術責任者)など、私を含めて当社の創業メンバーはこれらの分野について数十年も研究を続けてきた実績があり、各種特許も押さえていることから、世界的に大きな優位性があります。iPS創薬事業では、病気の患者由来のiPS細胞を用いて疾患の特異的な情報を持つiPS細胞をつくり、それから分化誘導した神経細胞を使って疾患のメカニズムの解析や、薬剤のターゲットとなり得る物質や遺伝子を解析し、治療法や治療薬の開発を目指しています。一方、再生医療はiPS細胞などを用いて、病気や事故で失われた身体の組織を再生し、機能回復を目指すものです」
――iPS創薬事業では、2023年に「KP2011」の日本国内の権利をアルフレッサファーマに導出しました。
「『KP2011』を導出し、その契約一時金を計上したことで、23年12月期決算は黒字化を達成しました。しかし、『KP2011』の導出は現段階で日本におけるものだけです。『KP2011』は日本のほか、カナダ、欧州、インドでは既に特許を取得し、米国、中国でも特許を申請しています。世界ではバイオ展示会などに出展した上で、国内外の製薬会社とのアライアンス契約交渉を実施し、米国、カナダ、欧州、中国、インド市場への展開に向けて動いているところです」
「ALSは日本(患者数1万人、市場規模250億円)だけでなく、北米(同3.3万人、同8250億円)、欧州(同2.4万人、同1200億円)、中国(同2万人、同1000億円)、インド(同5.1万人、同2550億円)と、世界的に患者数が多く、巨大な市場があります。三菱ケミカルグループ <4188> がALS治療薬『ラジカヴァ』を発売し、数年で約900憶円もの売上を上げたことからも、市場の大きさがうかがえます。当社が治療薬を上市すれば、世界の巨大市場で大きなシェアを獲得できるでしょう」
「一方、FTD(前頭側頭認知症)治療を目指す『KP2021』、HD(ハンチントン病)治療を目指す『KP2032』は千数百もの候補からのスクリーニングを完了し、候補化合物を選定しました。このことは10月5−9日(米国時間)に米国で開催された北米神経科学学会の国際会議で発表し、大きな反響を得ています。現在はフェーズ1/2臨床試験の準備を進めているところです。また、難聴治療を目指す『KP2061』は北里大学との共同研究を開始しました。既に候補化合物を選定済みで、最終評価の状況次第で国内フェーズ1/2治験に向けた準備を予定しています」
――再生医療事業はいかがですか。
「当社は神経損傷疾患である脊髄損傷に対して、他家iPS細胞から分化誘導した神経前駆細胞を移植することで、損傷部位を治療する研究開発を行っています。これまで不可能だった神経損傷の治療が可能になれば、いわば動かなかった手や足が動くことになることから、成功した場合のインパクトは大きいでしょう」
「現在、慶應義塾大学医学部との共同研究において、亜急性期脊髄損傷の治験を目指しています。これに先駆け、慶應義塾大学で医師主導臨床研究を進めており、現段階で最大4例を実施する予定の患者の募集が完了しました。当社による企業治験開始に向け、CRO(医薬品開発業務受託機関)や、商業用の細胞作製のためのCDMO(医薬品開発製造受託機関)の候補選定も行っています」
「そのほか、慢性期脊髄損傷、慢性期脳梗塞、慢性期脳出血、慢性期外傷性脳損傷の治療も目指しています。このうち、慢性期脳梗塞、慢性期脳出血、慢性期外傷性脳損傷については大阪医療センターと共同研究を進めており、治験に向けた開発検討は順調に進んでいます」
――御社の強みは何ですか。
「主に先行薬のない領域において、独自のスクリーニングを実施し、無数の候補から的確に候補化合物の選定し、新たに開発パイプラインの立ち上げの検討ができます。リソースが増えれば、その分、成功の確率が高まることになります。また、『From Rare to Common diseases』戦略を推進し、希少性の高い疾患から患者の多い一般的な疾患への展開を図っている点も当社の特徴です。いわばブルーオーシャンの希少疾患で新薬を開発し、その実績をもとにレッドオーシャンの一般的な疾患へも進出していくことで、将来的に大きなシェア獲得を目指します」
「研究開発に当たり、『疾患特異的iPS細胞×既存薬』で費用・期間の大幅削減と開発効率の向上を図っている点も強みです。これにより、新薬開発に必要な期間を従来の場合より3−12年、費用を50−60%削減できる可能性があります。順調にいけば、『KP2011』は20年代後半、『KP8011』は30年代前半の発売もあるでしょう。発売後にはロイヤルティー収入を計上できることになります。また、『KP2011』『KP8011』上市までにほかのパイプラインの導出もあり、状況に応じて契約一時金の計上があるでしょう」