レイプや痴漢、不同意性交などの性犯罪がはびこる昨今。被害者たちは心身に深い傷を負いながらも、適切な救済を受けられないまま苦しむ状況が続いている。現行の法律が加害者を罰することはあっても、被害者の痛みを癒すには限界があるのが現実だ。
そうしたなか、多くの被害者たちの心に響く作品として注目を集めているのが、『制裁の魔法少女』だ。卑劣な性犯罪者たちに対し、魔法少女が制裁を下す物語が描かれている。その斬新な切り口に、多くのSNSユーザーからは「私も制裁したい」「勇気をもらった」といった共感の声が寄せられている。
今回は、作者であるらぱ☆さんに性犯罪をテーマにした漫画を描くようになった背景や、作品に込めた思い、さらに今後挑戦したいストーリーについて詳しく話を聞いた。
◆性犯罪をテーマに選んだ理由は?
もともとは同人誌活動を行いながら漫画を描いていたらぱ☆さん。元来の性への好奇心とラブホテル好きが高じて、ラブホテルに関する漫画『趣味のラブホテル』を執筆。これをきっかけに商業出版の道に進んだという。
「私にとって、ラブホテルは特別な空間です。性行為を日常から切り離すことができますし、ホテルの中に想像もつかない空間が広がっているのがとても面白いと感じています」
そんならぱ☆さんが、性犯罪に遭った女の子たちが凶悪な加害者を成敗する『制裁の魔法少女』を描き始めたのには、性犯罪が詐欺や窃盗などの他の犯罪とは性質が異なることに注目したのがきっかけだった。
「セックスは一般的に愛を確かめ合ったり気持ちよくなったりする相互的な行為ですが、一方で望んでいない相手に無理やりされると、心身に大きな傷をつけることになります。同じ性行為でも相手次第で捉え方が真逆になることが、とても特殊だと感じています」
そしてらぱ☆さんにとって、レイプ犯に感じる怒りも作品を描くエネルギーの根源だ。性犯罪者の「こいつだったら仕返ししてこないだろう」という奢りに対し、悲しみではなく憤りを覚えたことも大きかったそうだ。
◆「こんな魔法少女がいたら…!」SNSでは反響の嵐
肉体的な加害に魔法で制裁を行う魔法少女。物語中では犯罪被害に遭った女性たちは魔法少女の働きによって被害の傷と記憶が消え、その後の人生を歩む。らぱ☆さんは「力の弱い女の子が魔法を使って制裁することに、この漫画の意義がある」と話す。
「女性は男性より力が弱いです。自分が女性であるがゆえに、男性に無理やり犯されそうになったら『抵抗できないかもしれない』ということがわかります。だからこそ男性の筋力を凌駕する魔法で制裁を行い、女の子たちに幸せなその後を歩んでもらうことが大事だと思っています」
漫画が公開されると、SNSでは多くの感想が寄せられた。「友達が性犯罪に遭ったから魔法でやっつけたかった」「記憶まで消してくれるのがいい」という声に加え、実際に被害に遭った当事者から「自分の経験を乗り越えられた」「前向きな気持ちになれた」というコメントもあった。
「漫画を執筆する際に『被害者の方たちの辛い記憶をフラッシュバックさせてしまったりするのでは』と心配したのですが、想像以上に肯定的な声が多くてびっくりしました。『これまで泣き寝入りしていたけど勇気をもらった』という声もあり、作品の力を強く感じました」
被害者は心身ともに傷ついているだけでなく、犯罪の性質上周囲に被害を相談できないことも多い。しかし、『制裁の魔法少女』という作品を通して、声をあげるための勇気が出たという読者もいる。作中、魔法少女は被害者に向かって「あなたは悪くない」と言う。その言葉に力をもらった読者も多いだろう。
◆すべての被害者に寄り添った漫画を描いていきたい
作品に賛同する女性が多い一方で、男性からもたくさんのコメントが寄せられたという。特に、「魔法少女は、男性の被害者は助けてくれないんだろうな」「男性も容姿や年齢に関わらず性被害に遭うこともある」という声に、らぱ☆さんは注目していきたいと話す。
「性被害を受けた男性は、女性以上に言い出す機会や場所が少なく、“持ちネタ化”して笑ってごまかしている傾向が強いように感じます。ですが、被害を受けた人は心から傷ついているはずです。これからは男性をテーマにした作品にも力を入れていきたいですね」
「すべての被害者に寄り添っていく漫画を描いていきたい」と話すらぱ☆さん。作品には、被害に遭った人たちが魔法少女のように力強く生き抜いてほしいというらぱ☆さんの強い願いが込められている。
「漫画を読んで勇気を持ってもらいたいと思う一方、作品をどのように捉えていただくかは読者の方々次第なので、読んでいて辛いと感じるお話は読まずに飛ばしていただければと思っています。無理だけはなさらないでください」
性の概念が多様化し複雑化している今の時代、過去に類を見なかったさまざまな問題も頻発し、その数だけ被害者が存在している。正義の鉄槌を下す魔法少女は、さらに活躍の場を広げていくだろう。
<取材・文/越前与>
【越前与(えちぜんあたる)】
ライター・インタビュアー。1993年生まれ。大学卒業後に大手印刷会社、出版社勤務を経てフリーライターに。ビジネス系の取材記事とルポをメインに執筆。