皆さんは、「将来のキャリア」について考えることはありますか? ここでいう将来のキャリアとは、「中堅世代になったら○○をしよう」とか、「ベテラン世代になったら□□をしよう」といった、将来に対する計画やイメージです。
もっとも、未来はどうなるか分からないもの。キャリアなんて、そんなに深く考えなくてもいいのかもしれません。キャリアという言葉の語源を調べていくと、ラテン語の“carraria”にたどり着きます。これは、車などの轍(わだち)を意味し、それが転じて「人がたどる人生の経歴や遍歴」を意味するようになったといわれています。
轍がそうであるように、キャリアというのはこれまで歩んできた「過去」に刻まれるもの。そう考えると、その時々で一生懸命仕事をしてさえいれば、キャリアはしっかりと、自分の後ろに刻まれていくものです。
ただ、人生が直線的で、右肩上がりに歩めればいいのですが、実際は紆余(うよ)曲折があるものです。また、近年は人生100年時代といわれ、いままでよりも長く生き、働くっぽい。「いま取り組んでいるこの経験が、将来、本当に役に立つのかな?」と考えると、正直、よく分からないのが実情です。
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そう考えると現代は、キャリア的にみても「不透明な時代」だといえそうです。そんな、不透明の時代に、ボクたちはどんなマインドで、どんな道を歩んでいけばいいのでしょうか?
●増える「中堅、ベテラン世代のキャリア支援」
最近幾つかの企業で、中堅、ベテラン世代の「キャリア自律」を支援するプログラムに、メンターのような位置付けで関わらせていただく機会が増えています。いま関わっているのは、技術系の仕事をされている皆さんです。
ここでいうキャリア自律とは、「いままでキャリア形成は会社が支援していたけれども、これからは自分で考え、築いていってくださいね」という取り組みです。
一見すると「え? ひょっとしてオレ(ワタシ)は、会社にとって不要ってこと?」のように、ネガティブに聞こえるかもしれませんが、実際は「ビジネスパーソンとしていかに自律するか?」という取り組みです。会社としても、依存的な人が集まっている集団よりも、自ら考え、行動できる自律的な人が集まっている集団の方が、圧倒的に強いですよね。
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実際、これまでにご縁があった皆さんは、「いままで会社で培ってきた経験を社外にも生かせればいいな」「できれば、副業や兼業につながればいいな」「将来のために、いまのうちから準備をしておこう」「改めて自分の強みやできることは何かを棚卸ししよう」のように、ポジティブに捉えていました。
ボクは、こうした「自律を促すキャリア支援」を前向きに捉えています。なぜなら、いままで企業が行ってきた人材、キャリア教育は、年齢や役職による階層別教育が一般的です。若手従業員には手厚いものの、中堅、ベテランになるとマネジメントや組織づくりに関するものばかりで、キャリアに対しては「個人任せ」だったからです。
また、これまで特に大企業で行われてきたのは、キャリア支援とうたいながら、「多めに退職金を支払って早期退職させる」、転職支援といいながら「転職できない名ばかり支援」など、その実態は「体のいい人員整理」であるケースも多くありました。
本当の意味で、長く生き、働くためには、いままでとは違ったキャリア形成が必要です。中堅世代から、いや、何なら若いときから将来のキャリアについて考え、準備をし、長く活躍できるようにするプログラムは、とても良い取り組みだと思っています。
●いうほど簡単ではないキャリア自律
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とはいえ、「キャリア自律しよう!」「主体的に考えよう!」と言うのは簡単ですが、実際にそれを実行するのは非常に難しいものです。
ボク自身はいま、自分で法人を経営しながら、企業にも所属するなど、比較的自律した働き方をしているタイプだと思いますが、会社を辞めたのはエンジニア時代です。当時「技術さえあれば何とかなる」と思っていましたが、正直甘かったです。「顧客と出会い」「信頼され」「仕事につなげていく」その道のりは、決して容易ではありませんでした。
自身の経験からも、いきなり、キャリアをパツンと切って次の道に歩もうとするよりも、いまの仕事や生活を維持しながら、少しずつ、少しずつ未来を描き、新たなキャリアを築く準備を進めていった方がいいのではないか? そちらの方が、安心して行動できるのではないかと思います。
●最初に行うべきなのは「マインドを変える」こと
では、キャリア自律をするために、最初に行うべきことは何なのか? それは「マインドを変える」ことではないかと思っています。
実は先日、キャリア自律について深く考える出来事がありました。ある企業で、従業員のキャリア自律を促すために、社内で起こっている課題を考え、それを解決するための新たな企画を立てるプロジェクトを進めています。その中で、ボクはメンターの役割を果たしていました。その中で、参加者の一人から次のような質問を受けました。
「私に期待していることは何ですか?」
この問いに、ボクは非常にモヤモヤした感覚を覚えました。「私に期待していることは何ですか?」ですって!?
キャリア自律というプロジェクトの目的を鑑みると、目の前の課題に対して、いま何をすべきかを「自ら」考え行動することが、参加者に求められていることは明白です。
とはいえ、急に「社内の課題を解決するための新たな企画を立てよう」と言われても、何をしたらいいのか分からない場合もあるでしょうし、期待されていることを把握できないと行動的になれない場合もあるでしょう。ひょっとしたら、何ができるか自信が持てない不安から、発せられた言葉かもしれません。
ですが、自ら考えることなしに「私に期待していることは何ですか?」と、つい、受け身な質問をしてしまう。これは問題だと思いました。
いずれにせよ、キャリア自律をするためには、まずは、マインドセットから変えていく必要がありそうです。
●もし、目の前に倒れている人がいるとしたら……
では、「キャリア自律に必要なマインドセット」とは、どういったものなのでしょうか。ボクは「目の前に倒れている人がいた場合の振る舞い」に似ていると思っています。
道端で見知らぬ人が倒れていたとします。その人を助けようと思ったとき「私に期待していることは何ですか?」とは言わないでしょう。恐らく「大丈夫ですか?」「痛いところはありませんか?」など、相手の状況を確認するような声を掛けると思います。そして「どなたか、救急車を呼んでください」などと、周囲の人に支援を依頼することでしょう。
誰かが「助けてくれ」というから助けるのではありません。「期待しているのはこれだ」と言われるからその行動を取るのでもありません。目の前の状況に対して、何が起こっているのかを観察し、必要ならば話を聞いて事実を確認する。そして、目の前の状況をより良くするために必要なことを自ら考え、行動する。これが、分かりやすい「自発的、自律的な行動」です。
「何を当たり前のことを言っているんだ」と思われるかもしれません。ですが、ちょっと気を許すと「私に期待していることは何ですか?」などと質問してしまいます。まずはこの、依存的な状況を認識する必要があります。
●自律するための問い
ところで、なぜ「私に期待していることは何ですか?」といった、依存的な問いを立ててしまうのか? ひょっとしたら、それは「問いの立て方が間違っている」のかもしれません。
実は、「問い」というのは、ボクたちが使う言葉の中でも、とても面白い性質を持っています。なぜなら、あらゆる思考は問いから始まるからです。また、問いの質によって、思考も変わってきます。
例えば、何か目の前に問題があるとき、「なぜ、私はいつもダメなんだろう?」という問いを立てると、「私がダメな理由」を考え始めます。一方、同じ状況でも「どうすれば、この問題は解決できるだろう?」という問いを立てると、問題の解決策を考え始めることになります。
このように、問いは思考の入り口であり、行動の入り口なのです。
「あなたが私に期待していることは何ですか?」という問いは、期待値を相手にゆだねることになります。一方、以下のような問いは、自発的、自律的に問題を解決していくための問いです。
・いま、目の前に起こっている課題は何か?
・なぜ、この課題が起こっているのか?
・もしも、理想的な状況があるとしたら、それは何か?
・自分にとって、理想的な状況をかなえる意味は何か?
・そもそも、何のためにこれをする必要があるのか?
・いまの自分に、できることは何か?
・そもそも、私の強みは何か?
・まず、何から始めるか? 小さな努力で始められることは何か?
ここに挙げたのは、現状の課題を客観的に見つめ、理想を明確にし、理想を実現するための価値を意味付けし、小さな行動を起こすために必要な問いのリストです。問いの主語は自分にする。そして、目の前の課題の把握と、理想的な未来に向ける。こうした思考習慣やマインドセットが、自律的なキャリア形成に必要なのではないかと思います。
自律とは「自分で考え、自分で行動し、その結果に責任を持つ」ということ。それは大きな挑戦のように思えるかもしれませんが、その入り口は、思考習慣やマインドセットです。日常の中で「どうすればもっと良くなるのか」を考え、それを実行してみること。
この小さな習慣が、キャリア自律の入り口なのではないかと思います。
●筆者プロフィール しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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