法令上は「鉄道」に分類される、不思議な乗り物「トロリーバス」――。
【画像】もう見れなくなるかもしれない川崎のトロリーバス。細部をじっくりと見る(写真8枚)
かつて川崎市内を走っていたトロリーバスは時代とともにその役割を終え、現在、そのうちの1台が同市高津区の二子塚公園という小さな公園で保存されている。住民の集会所などとして活用されてきたが、このほど老朽化を理由に、惜しまれながらも解体されることになった。
ところが解体の決定をメディアの報道で知り、「買い取りたい」という人も現れ、一転、別の場所での保存の可能性も出てきたという。トロリーバスは全国でも保存例はまれであり、貴重な存在であることは間違いない。
トロリーバスはどのような経緯で登場し、消えていったのか。旅行・鉄道ジャーナリスト森川天喜氏の著書『かながわ鉄道廃線紀行』のコラムは、当時の様子を詳しく振り返っている。同書籍から抜粋して紹介したい。
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●工場地帯を結んだ川崎のトロリーバス
電車なのか、バスなのか。戦後の復興の最中にあった川崎に、風変わりな乗り物が登場した。その名はトロリーバス、略して「トロバス」である。
見た目はバスと一緒だが、日本語の名称は「無軌条電車」。屋根上にトロリーポール(集電装置)は付いているけれど、レールはない。なんとも不思議な乗り物である。
日本でトロリーバスが最初に登場したのは京都市営の1932年。2番目が1943年に開業した名古屋市営と一般的に言われているが、実は1928年に兵庫県川西市の花屋敷温泉・遊園地のアクセス用に開業した日本無軌道電車(民営)が最初だった。だが、この路線は営業不振のため、わずか4年で廃止されている。
関東で最初に登場したのが川崎市営で、1951年3月の開業。全国では4番目ということになる。すでに立派な市電の路線網を持っていた東京や横浜と異なり、川崎には戦時中に急ごしらえで敷設された、わずかな距離の市電しかなかったのが“関東初のトロバス”の栄誉を手にできた理由だろう。ちなみに、川崎は電車(大師電気鉄道)が登場したのも関東初であった。
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●トロリーバス登場の背景
ところで、電車とバスをミックスしたようなトロリーバスが、なぜこの時期に登場したのかといえば、1つには当時の燃料事情があった。
戦前、戦中と石油の輸入を断たれて苦しい思いをしたわが国。燃料事情は、今後もどうなるかは分からない。当時はガソリン不足のため、バス会社にはまだ代燃車が残っていた時代である。
そこで、アメリカをはじめ海外での実績があり、動力費の安いトロリーバスが注目されたのだ。また、軌道が不要なトロリーバスは設備投資の面でも有利であり、日本の狭い道路事情からしても、市電よりもトロリーバスのほうが合っていると思われた。こうしたことから、GHQもトロリーバスの導入を強く指導したという。
しかし、実際に導入してみると、デコボコな道路やカーブで屋根のポールが外れやすく、乗務員泣かせな乗り物であった。
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さて、川崎のトロリーバスは川崎駅前から市電の池上新田を結び、さらに1954年8月には、埋め立て地の水江町まで延伸された。その後、川崎駅前の道路混雑が激しくなると、起点の古川通り(小美屋デパート前)でのUターンが困難となり、1962年からはテニスのラケット状の経路(川崎駅付近が、両回りの循環線)を走るようになった。
このように市中心部と臨海工業地帯を結び、工業都市・川崎の通勤需要を支えたトロリーバスであったが、活躍した期間は短かった。レールがないとはいえ、架線に沿って進まなければならず、渋滞時に小回りが利かないのは市電と同様であり、また、ディーゼルバスの発達により、動力費における優位性もなくなった。
川崎のトロリーバスが廃止されたのは、1967年4月。その車両が1台、今も高津区の二子塚公園という小さな児童公園に保存されている(104号車)。ほか、隣の横浜市へ移籍した車両もあったが(701〜704号車)、その横浜市のトロリーバスも、横浜市電とともに1972年3月に廃止され、姿を消した。
※この記事は、森川天喜氏の著書『かながわ鉄道廃線紀行』(神奈川新聞社、2024年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
●筆者プロフィール:森川 天喜(もりかわ あき)
旅行・鉄道作家、ジャーナリスト。
現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など。
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