本格的な寒さも到来。こんな季節の夕暮れ時は、なぜか自然と「ふぅー」とため息が漏れてしまうことも。ただ、ため息も職場でついてしまうと"フキハラ(不機嫌ハラスメント)"なんていわれる時代になった。
そもそも......ため息ってなんで出るの? 職場で周りがついているとやっぱり気になる?などなど、ため息にまつわる素朴な疑問をぶつけてみた!
答えてくれたのは、精神科医の森田洋史先生。
【アンケート】サラリーマン100人に聞いた「職場の他人のため息」
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■ため息は体にとって意外といいもの
――ため息はどうして出てしまうんでしょう?
「人間、ストレスがかかったり、不安や心配があると生理的反応として交感神経の働きが強くなります。体全体が緊張状態になって呼吸が浅く、速くなり、軽い酸欠状態に陥る。
そんな体の症状を緩和させるために、副交感神経を働かせ、自律神経を整えようとして深い呼吸をする。これがため息です。
ざっくり言うと、交感神経ばかり働いていると体が戦闘モードに入ってしまう。それが続くとしんどくなるので、ため息をつくんです」
――つまり、ため息は悪いものではない?
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「呼吸を整えて心を落ち着かせる防衛反応のようなものなので、精神的にもいいものです。また、『今、自分は心理的負荷がかかっている』『実は不安がある』など、奥底にある感情をため息という形で表出させることによって、あらためて自分の感情を意識するきっかけにもなります」
――ため息自体に害はないのですね。冬になると、ため息がよく出る気もしますが、季節や気候は関係ない?
「気候の変化がストレスとなって、それをリラックスさせようとため息が出ることはあると思いますが、あまり大きな影響はないと思います」
――最近「なんか、ため息が増えたな」なんて心配になることもあるのですが?
「明らかに回数が増えたなどですと、うつ病など精神疾患の可能性はあります。
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また、貧血を起こしている可能性もあります。赤血球が酸素を運ぶため、それが少ないと全身に酸素が行き渡らなくなるので、頻繁に呼吸をするようになる。
ほかには、自律神経の病気で心臓神経症というものがあるのですが、心臓をつかさどる自律神経のバランスが崩れて、心臓のドキドキが止まらなかったり、息苦しさを感じたり、胸の痛みが出てきたりして深いため息が繰り返し出ることもあります。
ため息が何かの病気につながることは多くはありませんが、あまりにも普段と呼吸が違う、変なため息が出るようなことがあれば内科の受診を検討してもよいかもしれません」
――ため息というより深呼吸に近いと思うのですが、リラックスするための効果的なため息の出し方があれば教えてください。
「長く吐き切るのがいいです。吸うよりも吐くほうに意識を置いて、『はぁ』というのではなく『はぁぁぁぁ〜』としっかり吐き切る。
あと、息だけを出すのではなく、声とともに出す。低く、野太く、大きな声で響かせながら『ああああ〜』と言ってみると、スッキリできるかと思います。
よく、ストレス発散にカラオケに行く人もいますが、あれもメンタルにとってプラスになります。また、緊張状態になるとおなかの筋肉が固まりやすくなりこわばってしまうので、腹式呼吸によってそこをほぐすとリラックスできます」
■"フキハラ"について考える
ため息についての基礎知識を学んだところで、ここからは職場における、ため息問題を考えていこう。
アンケートによると、職場で他人がため息をついていると「気になる」「やや気になる」と答えた人は57%に上った。やはり職場でため息は控えるべき? 答えてくれたのは『今こそ使える昭和の仕事術』(かんき出版)の著者でビジネスコラムニストの後田良輔氏。
「職場は集団生活の場ですから、当然ため息の頻度や仕方は気にするべきです。だからといって、禁止というわけではありません。
そもそもため息は先にあった説明のように『ストレスを感じた際に大きく息をする行為』。つまり、ため息をよくする人はストレスと向き合いながらも、前向きに仕事に取り組む頑張り屋さんともいえるのです」
――上司のため息が気になって仕方ないという方もいます。
「上司がため息をつくのは、人に対して怒っているのではなく、仕事の進捗(しんちょく)がうまくいっていないという状況に対して怒っていることがほとんどです。『自分に怒っているのでは?』と臆せず、普通に接するようにしましょう。
なお、もし人に対して怒っていて、ため息を連発するようならそれは上司失格。上司のさらに上司にハラスメントに遭っていると相談してもいいかもしれません」
――後輩のため息がひどく、なんとかしたいときの効果的な方法はありますか?
「みんなの前ではなく一対一の状況をつくり、悩みを聞いてあげましょう。オススメは、ちょっとおいしいランチに行くこと。
普段よりおいしいものを食べることで気分が上がり、ふたりきりということで安心して本音を話してくれます。その上で『オレはそんなに深く考えなかったのに、すごいな』などと下からホメつつ、問題解決のアドバイスを与えます。そして、実際にクリアできた際には『さすがだな』ともう一回、下から持ち上げてください。『共感と下からの持ち上げ』が部下のため息には効果的です」
――自分でため息が出るのを抑えたい。森田先生、何か方法があれば教えてください。
「社内ですぐにできることでいうと、ため息が出そうなときは簡単なストレッチをしてみる。椅子から立ち上がってうろうろするだけでもいい。とにかく体を動かし、筋肉の緊張をほぐすことです」
――他人のため息をなるべく気にしないようにする方法はありますか?
「相手がため息をしているのは気持ちの切り替えをしているからだと前向きにとらえ、それに対応してこちらも席を立ってコーヒーを飲むなど、心を落ち着ける行動を取るのがいいと思います。
ちょっとした考えの変化や気持ちを切り替える行動によってストレスを軽減する認知療法的アプローチは有効だと思います」
悪者だと思われがちだけど、体のバランスを整えるために重要なため息。これからもうまく付き合っていこう。
取材/渡辺ありさ 写真/PIXTA