角田裕毅(RB)インタビュー@後編
◆角田裕毅・前編>>ダニエル・リカルドの言葉に「グッとくるところもあった」
角田裕毅(RB)はダニエル・リカルドから多くを学び、そして彼を上回ったことで自信にもなったという。自分の優れているところを再確認しつつ、同時にまだ足りないところを見つめ直すきっかけにもなった。
ドライバーとしても、人間としても、肉体的にも、精神的にも、角田はこの1年で大きく変わった。
シーズン後半戦は、前半戦よりもさらに苦しい戦いが続いた。第10戦スペインGPのフロアアップデート失敗が予想以上に大きく開発計画に響き、対策版が完成する第20戦メキシコシティGPまでマシンの改良がほとんど進まない間、RBは中団グループの下位に低迷してしまったからだ。
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メキシコシティGPの予選でクラッシュを喫していなければ、入賞は果たせていただろう。前半戦の第9戦カナダGPのスピンに続いて、大きなふたつ目の損失。それでもチームランキング8位という結果は変わらなかったはずで、置かれた状況のなかで角田は最大限の働きをし続けたと言える。
(※インタビューはレッドブルがリアム・ローソンの昇格を正式発表する前の12月上旬に行なわれた)
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── 前半戦を終えた時点では「7.5点」と自己採点していましたが、シーズンを終えた今は何点ですか?
「じゃあ......7.9点で(笑)。もちろん、もっとうまくやれたレースもいくつかありますけど、シーズン終盤のサンパウロGPとラスベガスGPでは調子を上げていい走りができましたし、過去3年間と比べれば、明らかに今年はベストなシーズンだったと思います。
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チームのために半分以上のポイントを獲得することができましたし、安定してパフォーマンスを発揮し、コンスタントにチームメイトを上回ってこられたと思います。それによってチームからの信頼を勝ち獲ることができましたし、僕もマシンをさらによくするために、さまざまなフィードバックをしてきました。
それによって、レース週末のなかで苦境から挽回できたことも少なくありませんでした。そういったところが特に今年、大きく成長できたのかなと思っています」
【赤旗が出ていなければ優勝できていた】
── 計9回の入賞で30点を稼いでランキング12位。チームとしては13回の入賞で46点を獲得してランキング8位となりました。
「ポイントが獲れなかったレースも11戦あったんですけど、マシンのパフォーマンス的に恵まれた期間はそんなにあったわけではないですし、そのなかにはPU(パワーユニット)のペナルティもありました。それを考えると、確実にポイントを獲らなければいけない場面では獲ることができたのはよかったのかなと思います」
── 今シーズンのベストレースは、サンパウロGPの予選3位でしょうか?
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「難しいですね、どれだろう......。サンパウロGPの予選もですけど、やっぱり日本GPで初めて入賞できたことですね。鈴鹿でポイントが獲れたというのはやっぱり大きかったし、それが今シーズンで一番強く印象に残っていることですね」
── サンパウロGP決勝でウェットタイヤを履いたあの戦略は、あらためてどう感じていますか?
「よかったと思います。今、考えてもベストだったと思います。赤旗が出ていなければ優勝できていたと思うので。
それは運ではありますけど、レースでウェットタイヤを履くコンディションではほとんど90%はセーフティカーが出ますし、赤旗に近い状況なので、そういうことを加味しなかったのはよくなかったと思います。今後に向けての学びですね」
── ワーストレースは?
「ワーストはメキシコシティGPですかね。メキシコの予選は間違いなく僕のミスでした(Q2でクラッシュ)。ポイント獲得のチャンスがあっただけに、そのチャンスをつかみきれなかったのが一番よくなかったかなと思います」
── チームのファクトリーがあるファエンツァからミラノに引っ越したことについては?
「新しくリフレッシュした生活がほしかったからですね。レース週末にたくさんの人と会うのに比べると、ファエンツァは人が少ないのでリラックスする場所としてはよかったんですけど、(ピエール・)ガスリーに(引っ越しを)推されたっていうのもありますし、ミラノには僕の大好きなレストランがいっぱいあるので。
いい家が見つからなければ引っ越すつもりはなくて、一昨年くらいからちょくちょく探してはいたんです。やっと納得のできる家が見つかったんで、ここなら引っ越してもいいかなと思って決めました」
【声を大にして言いたいこと】
── ファクトリーの近くに住んで頻繁に行くことはもう必要ないほど、成長したということでしょうか?
「そもそも、そんなに通うこともなかったんです。ルーキーの年くらいで、あとはあんまり行っていなかった。チャーターフライトはボローニャからなのでアクセスはよかったし、ファエンツァが好きだから住んだっていうのもあるんです。
ただ、1週間しかインターバルがないとファエンツァにいるのはちょうどよかったんですけど、今年みたいに2週間とかインターバルがあると、やることがないっていうか(笑)。海が近くて夏はよかったですし、正直に言うとミラノもファエンツァもどっちもよかったんですけど、いい家が見つかったので引っ越すことにしました」
── それ以外に、オフでの変化は何かありましたか?
「ウェイクボードやワインが好きになった、とかですかね。もともとスポーツをするのが好きで、近くにウェイクボードのできる場所があったので行ってみたら、すごく楽しくて。スノーボードも好きでしたし、夏に水と戯れるのもすごく気持ちいい。
オフは日本に戻ったりもしますけど、来年に向けてさらにフィジカルを鍛えたいと思っています。今オフもドバイで自主トレーニングをします。毎年現地でガスリーと会うので、今回もそうなるでしょうね」
── ほかに何かやってみたいことはありますか?
「ギターをやってみたいですね。やりたいなと思いつつ時間がなくて、まだトライしてないんですけど。スポーツだと、マウンテンバイクのダウンヒルを小さい頃に少しやっていたので、ちょっとやってみたいですね。めちゃくちゃ危ないですけどね。ケガのしやすさでいうとナンバー3くらいには入りそうなので、契約上やれないと思いますけど(笑)」
── 昨年の最終戦を終えた時、2024年は「角田裕毅の完成形を見せたい」と話していました。それはどのくらいできたでしょうか?
「ある程度は見せられたと思います。もちろん完全にすべてを見せられたかというと、そうではないと思いますけど。僕もまだまだできることはあるし、そのなかでは悪くない仕事ができたんじゃないかと思っています。
今年の開幕時点では、ダニエル(・リカルド)と比べても、まだ子どもっぽいところがあったと思います。でも、こうしてシーズンを終えた今の時点では、あの時とはまったく違ったマインドセットになっています。レース週末に向けたアプローチの仕方も全然違います。
プレッシャーはシーズンを通して常にありましたし、ずっと崖っぷちに立っている気分でした。でも、それが僕を強くしてくれたような気がしますし、今年の僕はほかの誰よりも成長できたんじゃないかと思います。そのことは声を大にして言いたいですね」
【今シーズンやってきたことは明白】
── 今後、レッドブルに乗ることができると思いますか?
「100パーセント、自分がレッドブルのシートにふさわしいと思っていますし、それ以上は何も言いようがないですね。あとは彼ら次第です。
いつも言ってきたとおり、バーレーン(開幕戦)からダニエルをレッドブルに昇格させるつもりで乗せたのに、僕が勝ち、僕ももっとうまくやれたレースはあったと思いますけど、成長も続けてきました。マシンのパフォーマンスを引き出すという点では、チームメイトと比べても安定して優っていたと思いますし、僕が今シーズンやってきたことは明白だと思います。
いずれにしても、僕にコントロールできることではありませんし、自分にやれることをやり続けるしかないので。それも人生かなと思います。考えても意味がないので、そういうことを考えるのはやめて、レッドブルが僕にどんなドライバーを送り込んできたとしても、倒し続けるだけですね」
── 来年、今の契約のまま、RB改めレーシングブルズで戦うことになるとすれば、どのようなシーズンにしたいですか?
「まだまだ足りないところばかりですし、アルピーヌやハースには完全に差をつけられているので、まずは彼らに追いつくこと。開幕戦からその状態でスタートして、今年は開発競争で負けてしまったので来年は負けないように、右肩上がりの開発を含めたいいシーズンにしたいですね」
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これから先、角田にどんな1年が待っているのかはわからない。レッドブルという世界では、何が起きても不思議ではない。そしてそこで結果を出してこそ、さらなる飛躍が果たせる。
2024年の角田は、その準備ができていることを示し、世間のイメージをぶち壊して見せた。これから1年、どんな角田裕毅を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。
<了>
【profile】
角田裕毅(つのだ・ゆうき)
2000年5月11日生まれ、神奈川県相模原市出身。父の影響で4歳よりカートを乗りはじめ、16歳でフォーミュラデビュー。2018年にFIA F4選手権で年間王者に輝き、同年レッドブル・ジュニアチームに加入する。2019年からFIA F3への参戦でヨーロッパ進出を果たし、2020年にF1直下カテゴリーのFIA F2でシリーズ3位を獲得。2021年からF1アルファタウリ(現・RB)のレギュラードライバーとなり、2024年は9度の入賞で30ポイントを獲得してシリーズ12位。身長159cm、体重54kg。