ペルージャの物語(後編)
バレーボールにひと目惚れした野心的な会長、どんな挑戦やプロジェクトも支えることのできるスポンサー、そして敗北や失敗のあとでも自らを奮い立たせ、立ち直る強さを持つクラブ......。これらを混ぜ合わせ、しっかりシェイクしてグラスに注げば、シル・サフェーティ・ペルージャという強くて美味なカクテルが出来上がる。現在のバレーボール界、最強のチームのひとつだ。
すべては2001年、ジーノ・シルチがチームを創設したことから始まった。彼は一代で作業用の安全服やヘルメットなどを扱う会社「シル・セーフティー・システム」を興した起業家だ。息子がバレーボールを始めたことからこのスポーツに興味を持つようになり、初めは熱心な保護者となり、次にチームのスポンサーとなり、ついには自分のチームを作ってしまった。チーム創立にあたって彼が掲げた理念は、彼が経営する会社のものとまったく同じだった。
「共通の目標と粘り強ささえあれば、不可能な目標にもたどりつける」
その言葉通り、セリエCから歩みを始めたチームは、2012年にはイタリアのトップリーグであるスーペルレーガに昇格。2017年以降は数多のタイトル勝ち取り、ペルージャは10年あまりでイタリアバレーボールの首都となった。
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ちなみにサッカーの強豪は大都市に集中しているが、バレーボールの場合は地方の小都市が多い。ペルージャだけではなく、現在リーグ2位のトレントは北イタリアの人口12万の山合の町、3位のルーベにいたっては人口9000人のトレイアという町に本拠地を置く。
サッカーは今やスポーツというよりはすでに巨大な国際ビジネスで、大都市圏の巨万の富がチームに注がれる。地方都市はとても太刀打ちできないが、バレーボールはまだそれほどではないのだ。そしてそれがバレーボールの魅力でもある。シルチも過去に「なぜサッカーではなくバレーなのか」と聞かれ、こう答えている。
「バレーボールはサッカーのように多くの金が絡まないので、プレッシャーも少なく暴力沙汰もない。まだ純粋にスポーツとして楽しめる」
【ホーム戦には4000人以上の観客が】
とはいっても、ペルージャはここ数シーズン、その獲得賞金を増やしている。2017年チームにとっての最初のタイトル、スーパーカップを皮切りに、スーパーカップ優勝6回(2017、2019、2020、2022、2023、2024)、リーグ優勝2回(2017−18、2023−24)、コッパ・イタリア優勝4回(2018、2019、2022、2024)、クラブワールドカップ優勝2回(2022、2023)と、たった8年間に実に14ものトロフィーを獲得している。
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シルチ会長は成功のためには出費を惜しまなかった。ペルージャの躍進は名だたる優秀な選手やコーチによってもたらされてきた。
2018年から2024年まで在籍したキューバ系ポーランド人のウィルフレド・レオン、アルゼンチン代表の司令塔であったルチアーノ・デ・セッコ(2014−2020)、セルビア人センタープレーヤー、マルコ・ポドラスカニン(2016−2020)、ロシア人名選手ビチャスラフ・ザイチェフの息子で、イタリア代表のイワン・ザイツェフ(2016−2018)もいた。
ペルージャがA2(2部)からAに昇格する原動力となったモンテネグロ出身のゴラン・ヴイェヴィッチ。彼は現在ペルージャのスポーツ・ディレクターを務めている。セルビア人のアレクサンダル・アタナシエヴィッチ(2013−2021)はセリエAペルージャの最初のリーダーであり、いまだにサポーターに愛されている選手のひとりだ。石川祐希の前にペルージャの背番号14をつけていた選手でもある。
そして現役のふたりのイタリア人選手。2016年リオ五輪銀メダリストのマッシモ・コラーチは、2017年以降、チームが獲得したすべてのタイトルのコートに立っている選手だ。そしてシモーネ・ジャネッリ。イタリア代表キャプテンであり2021年にペルージャに来て以来、クラブのプロジェクトに惚れこみ、この土地との絆を深めることを決意。アッシジ近郊の古い農家を購入し、アグリツーリズムやオリーブオイルの製造などのビジネスも始めた。
そして今シーズン、ペルージャにとって唯一足りないCEVチャンピオンズリーグのタイトルを手に入れるため、ペルージャはさらなる出費を惜しまなかった。アルゼンチン人のアグスティン・ロセルや日本人の石川のような才能ある選手を獲得。参加した4大会すべてで優勝した先シーズンのチームをパワーアップさせた。
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ペルージャのもうひとつの強さは、毎試合チームをあと押しする大勢の観客にある。ホームの試合では常に4000人以上の観客が詰めかける。
特に今シーズンは石川人気で観客は増え、ペルージャはより国際的なチームとなった。石川のおかげでグッズ販売収入も2倍に増えているそうだ。成功に貪欲なクラブにとって、石川は新たなマイルストーンである。
そんなペルージャは快進撃中だ。リーグ戦ではここまで無敗。圧倒的な強さでトップをひた走っている。