「シーズン通して同じことをやり続けて、それが結果に繋がったので、内容的に結果よりも内容が良かったかなと思います。成長ができて、いいシーズンだったと思います」。
ロッテの藤原恭大は規定打席に届かなかったものの、プロ6年目の今季、74試合に出場して、打率.290、2本塁打、21打点、課題にしていた好不調の波も少なく、来季へ向けて期待の持てる1年となった。
◆ 長打にこだわる
今季を迎えるにあたって藤原は、“長打”にこだわっていた。外野のレギュラーを掴むために、昨年11月1日の取材で「今年(2023年)は正直あんまり(ホームランを)意識していなかったんですけど、シーズン終盤になってより、やっぱり野球はホームランのスポーツだと改めて感じさせられましたし、ロッテの現状外野を見ると長打を打たないと出られないところだと思うので、率もそうですけど、長打にこだわってやっていかないといけないなと思います」と、“長打力アップ”を掲げていた。
シーズンオフはレッドソックス・吉田正尚の自主トレに参加。吉田と長打について「特には話していないですね」とのことだが、「長打を打てる準備もしてきましたし、狙わずに打てる体を作ってきたつもりです」とキッパリ。石垣島春季キャンプでは「体重が増えてから数を打っていないので、まだライトに強い打球、センターに強い打球を意識してやっています」と、ライトに強い打球が多かった。
開幕スタメンを目標に2月の練習試合では打率.275をマーク。2月23日の楽天との練習試合からノーステップ打法に挑戦し、「ブレが少なくなっていると思います」と手応えを掴みつつあった。
3月9日の取材では開幕に向けて「守備、走塁はもちろん、打たないと出られないので、バッティングをもっともっと鍛えてアピールしていきたい」と意気込んでいた中で、翌10日のソフトバンク戦で自打球を受け、右膝蓋骨骨折と診断され離脱した。
◆ 故障で離脱。打撃フォームを戻す
「筋力を戻すことが最優先だったので、まずは怪我する前の筋肉量、ジャンプ力、走力というのをタイムを測ってやっていました」。
リハビリに励み、5月29日の楽天二軍戦で実戦復帰。故障離脱する前の2月23日の楽天との練習試合から「ブレが少なくなっていると思います」とノーステップ打法で打つようになり、復帰戦でも第1打席の初球からノーステップ打法で打った。2打席目にはレフト前に実戦復帰後初の安打を放った。
復帰後初めて守備についた6月1日のヤクルト二軍戦、打撃フォームが変わる。第1打席から昨季までのように右足を上げて打ち、追い込まれても右足を上げて打った。6月2日のヤクルト二軍戦でも第1打席から右足を上げて打っていたが、第5打席はリズムをとりながらのフォームで打っている場面も。
さらに6月4日の日本ハム二軍戦では左の根本悠楓との対戦の時だけ追い込まれてからノーステップ打法で、5日の日本ハム二軍戦でも右のバーヘイゲンに対して追い込まれてからノーステップ打法で打ち、6日の日本ハム二軍戦は右投手、左投手関係なく追い込まれてから全打席ノーステップ打法だった。
6月7日の取材で藤原に追い込まれるまで右足を上げて打ち、追い込まれてからノーステップ打法で打っているのはタイミングが関係しているのか訊くと、「そうっすね、はい」と返ってきた。
打撃に関しては「全然良くなかったですけど、今日(7日の)練習で色々やってみて、去年からやっているバッティングフォームが一番いいなというか、結局、そこに戻ったかなという感じです」と、7日の楽天二軍戦の試合前練習後には堀幸一二軍打撃コーチ、栗原健太打撃コーチと共に、10分以上話し合っていた。
打撃フォームを戻したのは昨年秋に取り組んでいた形が良かったから戻したのかーー。「結構、あるあるなんですけど、はい。色々やって結果たどり着くのは自分がしっくりくるフォームなので、コーチと相談しながらこれから先もやっていくと思うんですけど、自分の感覚が一番大事にしてやっていきたいと思います」。
昨年秋から長打力アップも掲げていたが、そこも関係しているのだろうかーー。
「狙うというよりは良いフォームで打てれば自ずと長打は増えると思うので、ホームランもそうですけど、狙うというよりかは自分のフォームで打てば自ずと結果が出ると思います」。
ファームで結果を残しながら、昇格に向けて打撃面では「6日まで色々試しましたが、やっぱりフォームも徐々に固まってきて結果を残すのもそうですけど、フォームを固めて一軍に向けてアピールしていきたいなと思います」と、フォームを固定することを自身に課して取り組んだ。
右足をあげる昨季までの打撃フォームに戻し、12日のDeNA二軍戦から4試合連続複数安打、12日のDeNA二軍戦で4安打、16日のオイシックス戦では先頭打者本塁打を含む3安打の大暴れだ。
6月7日の取材から10日経ち、改めてロッテ浦和球場で行われたオイシックス戦の試合前練習後に、現在の打撃の状態について訊くと、「自分のイメージ通りの結果が出ているので良いと思います」と答え、「結果を出るべくして出ていますし、そこのフォームと結果の違いはないので、非常に良いと思います」と続けた。
15日のオイシックス戦、0−1の初回無死走者なしの第1打席、薮田和樹が投じた初球のツーシームを捉えたライトフェンス直撃の二塁打や、16日の0−0の初回の第1打席、アンダースローの下川隼佑が1ボール1ストライクから投じた3球目のストレートをライトスタンドに放った先頭打者本塁打は非常に良かった。「狙わずに良いフォームで打てたのでホームランになったのかなと思います」と振り返る。
「一軍に呼ばれたら、今のフォームでしっかり結果を残せるように、まずは二軍でしっかりアピールして呼ばれるように頑張っていきたいなと思います」。
12日のDeNA二軍戦から26日の楽天二軍戦にかけて8試合連続安打を放つなど、ファームで20試合に出場して、打率.351、1本塁打、7打点と打ちまくり、満を持して6月28日に今季初昇格を果たした。
◆ 好不調の波が小さく
今季初出場となった6月28日のオリックス戦、『1番・右翼』で先発出場し、第3打席にライト前に今季初安打を放つと、7月3日の日本ハム戦では3安打2打点と、7月4日の日本ハム戦にかけて5試合連続安打。5日の西武戦では無安打に終わったが、6日の西武戦から10日の楽天戦にかけて4試合連続安打。
7月10日時点で12安打していたが、そのうち8安打が2ストライクと追い込まれてから打ったもの。カウント別成績を見ても、2ボール2ストライクからの打率は.500(10−5)を記録する。
藤原は追い込まれる前までは右足をあげるフォームで打ち、2ストライクとなってからはノーステップ打法で打つ。本人も「追い込まれてからも余裕があるので、そこは気持ちの余裕があっていいのかなと思います」とのことだ。
試合前の打撃練習でも、センターから逆方向へのライナー性の打球が多く、引っ張った打球も最後の数球くらいだ。昨年の秋季練習では「角度、最低ライナー、そこをイメージしながらやっていました」とほとんどがライトへ引っ張った打球で、2月に行われた石垣島春季キャンプでもライトへ引っ張った当たりが多かった。
試合前練習で逆方向に打っているのは、「逆方向に打てている時のバットの軌道が自分の中で一番良い。基本みんなそうなんですけど、引っ張り、引っ張りになると肩が出たり、試合になったら打てなくなる。基本逆方向で行って、最後の5球は引っ張るという感じでやっています」と説明した。
7月12日のオリックス戦から7月17日のソフトバンク戦にかけて6試合連続無安打。打率も.250まで落としたが、「悪いからといって変えずにルーティンからしっかりいつも通りやることを意識しました」と、変わらず試合前の打撃練習ではセンターから逆方向を意識して打撃練習に取り組んだ。
7月20日の日本ハム戦で安打を放つと、翌21日の日本ハム戦では「思い切ってスイングすることだけ考えていました」と今季第1号ソロを含む2安打、オールスター明け初出場となった28日の楽天戦で「状態は悪くなかったので、変えずに普通に行けば打てるなという意識でした」と2安打2四球。特に0−0の3回無死走者なしの第2打席、「粘れて四球とれたのでよかったです」と、3ボール2ストライクから荘司康誠が投じた11球目の外角140キロスプリットを見送り四球を選んだ打席は内容があった。
7月は6試合連続無安打がありながらも、月間打率.322、1本塁打、12打点と好不調の波を小さくできた。
調子の波を小さくするために心がけていることについて藤原は「毎日体もバッティングの状態も違うので、なるべく状態が良い時に戻せるようなルーテインであったり、体幹、体づくりを意識しています」とのこと。
その中で今季の藤原は2ストライクからの安打が多く、7月終了時点で21安打放っていたが、そのうち12安打が追い込まれてからノーステップ打法で打ったもの。「追い込まれてから逆方向を意識して、ノーステップの方がやりやすいので、そこがうまくはまっているのかなと思います」。
これを聞くと、初球からノーステップ打法で打ったらもっと数字が上がるのではないかと考えてしまうが、藤原は「ノーステップじゃ引っ張れないので。(引っ張れるのは)大谷さんぐらいなので。普通の人間じゃできないです」と、ノーステップ打法で長打を打つ難しさを口にした。
◆ センターから逆方向の打撃に磨きがかかる
8月に入ってからも、「イメージ通りに打つことができました」と話す8月7日のソフトバンク戦、4−2の3回二死走者なしの第2打席、大津亮介が2ストライクから投じた外角のチェンジアップを逆らわずに左中間へ二塁打、8月8日のソフトバンク戦、0−2の2回一死走者なしの第1打席、石川柊太が2ボール2ストライクから投じた外角のストレートを左中間に破る二塁打は良かった。
8月10日の取材で追い込まれてからの対応ができつつあるなという感じはあるのか質問すると、藤原は「今のところはうまくできているのかなと思います」とし、「ノーステップ打法で打てているのは「下を使ってうまいこと打てている、はい。いいなと思います」と冷静に自己分析した。
「追い込まれてからは逆方向しか狙っていないので、そこはいい感じにアプローチできているかなと思います」と、13日の日本ハム戦でも、6−0の9回一死走者なしの第5打席、ザバラが1ボール2ストライクから投じた外角の158キロストレートに対し、ノーステップ打法でレフト前に安打を放った。
反対方向だけでなく、8月16日のソフトバンク戦、0−0の初回一死走者なしの第1打席、有原航平が1ボール2ストライクから投じたインコースのカットボールをライト前に安打。追い込まれた時は逆方向を意識するも、インコースのボールに対ししっかり引っ張っての安打だった。
藤原本人はこの安打に「良かったんですけど、やっぱりインコースを意識しすぎると崩れてしまう。最高の形はヒットかもしれないですけど、後のカードに続くならファウルで十分でも良かったかなと思います」と振り返る。
もう少し、その理由について詳しく聞いてみると、「(体を)閉じてライト前なら良かったですけど、ちょっと(体が)開き気味で打ったので、やっぱり1試合だけじゃないのでプロ野球は。伏線であったり、次の試合の配球をやってくる。シーズン通して活躍できるようなフォームを頑張って作っていきたいと思います」と説明した。
8月16日のソフトバンク戦の第1打席に追い込まれてからインコースのカットボールをライト前に放った後、続く打席で二塁打を放ったが、その後7打席連続で安打なし。8月18日のソフトバンク戦の第2打席で内野安打を放ったが、そこから14打席安打がなかった。
それでも、8月も月間打率.280と3割近いアベレージを記録した。試合前の練習でのルーティン以外で、好不調の波を小さくするために試合の中の打席でも、意識していること、立ち返る原点みたいなものはできたのだろうかーー。
「毎日一緒のことをやることで、良いところ、悪いところも出てくるので、そこをプラスアルファでやっています」。
8月30日にソフトバンク戦から9月13日の西武戦にかけて10試合連続安打。シーズン終盤に入って、追い込まれてからの攻めが厳しくなってきた印象。本人に確認すると「内角が増えているので厳しくはなってきています」と話したが、インコースを対応する際、ファウルで粘るという意識は変えず。
早いカウントの時にはさまざまなタイミングの取り方で打っていたが、そこについても「状態によって変えています」とのことだった。9・10月も打率.274で、9月23日の楽天戦から8試合連続出塁、9月29日の西武戦から5試合連続安打でシーズンをフィニッシュした。
◆ 来季へ希望を持ってシーズンを終える
故障で出遅れながらも、ファームで形を見つけて、結果的に功を奏した形だ。「ルーティンから見直して、怪我をして膝であったりお尻のトレーニングをして、シーズン中やった結果もバッティングに繋がりましたし、怪我して良い部分が見つかったと思います」。
6月28日に昇格してから、7月以降月間打率.250を下回った月はなく、好不調の波が小さかったのも良かった。
「ずっと課題にしていたことなので、シーズン通しては戦えていないですけど、この2、3ヶ月上がってきて、3ヶ月通して好不調の波がなかったのは初めてなので成長した部分なのかなと思います」。
今季の成績を踏まえて、来季は「今やっている課題をやれれば、3割前後、二桁本塁打は打てると思いますし、打たないといけないと思っています。そこはクリアにしていきたいと思います」と頼もしい言葉。
具体的に課題にしていることについて「体であったり、後ろの軸で打つという取り組んでいることができれば、自ずと結果がついてくると思います」と教えてくれた。
プロ入りからこだわる“長打”については「こだわっていますし、長打打つ、長打打つというよりは自分のフォームで打てれば長打が出ると思うので、そういう感じですね」とニヤリ。
シーズン終了後に行われたZOZOマリンスタジアムでの秋季練習では、チームとしてインコースをセンターから逆方向に打った。「やっぱり打ち出したら攻められるところだと思うので、そこを無理やり引っ張ったり、意識しすぎると絶対に崩れてしまう。インコースをバットのうちから逆方向に打つくらいの意識で引っ張る時もあれば、基本的には逆方向になるとは思うんですけど、そういう形でしっかり打つことができれば結果も出ますし、なかなかフォームは崩れないと思います」。
それができれば、打率も本塁打も増えるイメージなのだろうかーー。
「そうですね、今シーズン取り組んできたので継続してやっていきたいと思います」。
秋季練習最終日の取材では「体も大きくなりましたし、逆方向に大きいのを打てたことがなかったので、それもホームランも何球か入ったので良かったと思います。最初はショートの頭、レフト前のイメージが多かったんですけど、やっていくにつれて逆方向に大きな当たりを打てる感触も出てきた。そこは成長した部分かなと思います」と好感触を掴んだ。
シーズンオフに向けて「まずは体を大きくしてからしっかりスピードに変えていければいいかなと思います」と体重を85キロ前後増やしたいという考えを示していた。
外野手はドラフト1位の西川史礁が加入するなど、競争は熾烈になる。「(藤原自身は)走攻守が武器なので、全部アピールしてやっていければいいのかなと思います」。来季は規定打席に到達し、本物のレギュラーになって欲しいところだ。
取材・文=岩下雄太