4キャリア8社が災害時に“呉越同舟”の協定 25年度末の事業者間ローミングはどうなる?

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2024年12月21日 11:11  ITmedia Mobile

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モバイル、固定通信8社は、災害時の協力体制を強化する取り組みを発表した。12月18日にはオンラインで記者説明会が開催され、NTT、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの担当者が一堂に会した(写真提供:NTT)

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの携帯電話キャリア4社とドコモ以外のNTTグループ4社が、大規模災害発生時の協力体制を強化することを発表した。2024年1月1日に発生した能登半島地震では、各社が現場で協力しながら、被害を受けた通信設備の復旧にあたっていたが、こうした取り組みを“仕組み化”することで災害発生時の連携を強化していくことが8社の狙いだ。


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 具体的には、各社が持つアセット(資産)を共同利用することを定める他、能登半島地震で効果を発揮した船上基地局の活用も推進していく。これと並行する形で、緊急時には事業者間ローミングを実施する検討も進んでおり、2025年度末ごろの導入を目指している。普段競争している各社が、災害時にどう協力していくのか。その枠組みを解説する。


●能登半島地震で目立った事業者間協力、その連携を本格化


 2024年の元旦に発生した能登半島地震では、土砂崩れや道路の崩壊により、基地局などの通信設備に多くの被害を受けた。基地局自体が倒壊してしまっていたことに加え、管路を通る通信ケーブルが寸断したことで基地局が機能しなくなるケースもあった。土砂崩れなどで道が途切れてしまったり、慢性的な渋滞が発生したりといったことも復旧を長期化させた。


 こうした中、現場ではキャリア各社が会社の枠を超えて協力し、復旧にあたる場面が多く見られた。KDDIとソフトバンクが給油拠点を融通し合い、相互運用していた事例はその1つだ。事前の協定に基づき、KDDIがNTTの海底ケーブル敷設船「きずな」に乗り、ドコモとともに船上から電波を発射することでエリアを応急復旧できたのも、事業者をまたがった協力の事例といえる。


 キャリア各社が実施する個別の対応だけでなく、復旧活動においてキャリア同士がいかに協力したかという点が焦点になったのは、これまでの大規模災害との大きな違いといえる。能登半島の地形的に各事業者が個別に復旧活動を進めていくのが難しかったことや、それぞれのリソースに差があったことなどが、協力を深める契機になった。


 一方で、こうした事業者の協力体制が震災以前からきちんと準備されているかというと、必ずしもそうではない。ドコモのKDDIが展開した船上基地局のように、あらかじめ締結しておいた協定が生きたケースもあるが、こちらも、ソフトバンクや楽天モバイルを巻き込んだ枠組みになっていなかったのも課題だった。「競争の枠を超えて協力していけるところをいかに増やせるか」(KDDI エンジニアリング企画部 部長 小坂啓輔氏)が求められていたといえる。


 そんな課題を認識していたドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのモバイル系キャリア4社と、固定回線を持つNTT東日本、西日本やNTTコミュニケーションの3社に持株会社であるNTTを加えた計8社で構築したのが、今回発表された協力体制だ。枠組みとしては、NTTグループとKDDIが取り組んできた「つなぐ×かえる」プロジェクトに、ソフトバンクや楽天モバイルが参画し、事業者間の連携を強化していく。


●「アセットの共有」「船舶」「固定との連携強化」――進める3つの取り組み


 新たな枠組みでは、8社がどのように協力していくのか。NTTの災害対策室 室長を務める森田公剛氏は、この協定を「アセットを自社に限るのではなく、通信事業者全体が1つの企業として取り組む」仕組みだと語る。現状で決まっていることは、主に3つある。1つ目がアセットの共同利用、2つ目が船舶の共同利用、3つ目がモバイル通信事業者と固定通信事業者の連携強化だ。


 1つ目のアセットの共同利用とは、ビルや土地、車両など、各社が持つ資産を、8社で共用していくことを指す。NTTグループからは、通信の拠点に活用している建物やその周囲の土地などを提供することを想定しているという。「NTTの通信ビルに空きスペースがあればぜひ皆さんに活用していただきたい。復旧活動の拠点にしたり、復旧機材や資材の置き場にも活用したりできる」(同)というのが、その目的だ。


 例えば、「固定通信のビルはNTT東西合わせて7000ぐらいある」(同)と数が多い。「実際には人が入れない、機械しか置いていないビルが大半だが、その周辺にも敷地があって、駐車スペースなどを資材置き場として活用できる」(同)。日本各地に光回線を張り巡らせているNTTだからこそ、提供できる資産といえる。これだけだとNTTグループからの持ち出しが多いようにも見えるが、「お前のところは少ないというような話は一切していない。各社のアセットを包み隠さず出していく」(同)方向で議論が進められているという。


 実際、キャリアに参入してからまだ日が浅い楽天モバイルからも車両や発電機などに給油するための拠点が提供される。また、楽天モバイルは、親会社である楽天グループを通じて「楽天市場や楽天トラベルといったアセットを提供することにも、前向きに取り組んでいきたい」(楽天モバイル BCP管理本部 本部長 磯部直志氏)と、通信以外の分野でも協力する姿勢を示す。


 2点目の船舶の活用は、先に挙げた能登半島地震でNTTとKDDIが協力した取り組みを拡大することを意味する。NTT、KDDIはともに海底ケーブルを敷設するためなどに使用する船舶を保有している。ここに基地局を積み、海上から一時的に地上をエリア化することで、基地局が倒壊するなどした場所を応急復旧できる。能登半島地震では、物資が運びづらかった石川県輪島市でこの船上基地局が活躍した。


 「その取り組みを広げ、ソフトバンクや楽天モバイルに一緒に船に乗っていただき、被災地の通信を復旧するというのがこの施策」(森田氏)になる。文字通り、呉越同舟を可能にしていく取り組みといえる。船があったからといってすぐに船上で活動できるようになるわけではないが、ソフトバンクや楽天モバイルも含めた形で「訓練を実現できるよう、日程などの調整をしている」(同)。海に囲まれた日本では、船上基地局が活躍する場面は多いだけに、早期の対応を期待したい。


 3つ目のモバイルと固定の連携強化も、災害時には欠かせない要素といえる。モバイルネットワークといっても、基地局と端末の間以外は、そのほとんどが有線でつながれているからだ。その多くは、NTT東西が保有する。能登半島地震でも、この通信ケーブルが物理的に切断されたことで基地局から先がつながらなくなってしまうケースが多々あった。ネットワーク構成上、「電波を出すアンテナから、各社の機器を置いている通信ビルまでは固定通信になる」(同)というわけだ。


 そのため、災害からの復旧時にはモバイル事業者と固定通信事業者の連携が欠かせなくなる。その「窓口を整理し、どんな情報を災害時に共有すべきかの認識を改めて合わせた」(同)。また、能登半島地震では「どこが故障しているかの特定に、非常に苦労した」反省を踏まえ、将来的にはリモートで検査し、早期にケーブルの寸断箇所を特定する技術の導入にも取り組んでいくという。


●事業者間ローミングはこれから? 25年度末に向けた拡大にも期待


 一方で、現状での連携はここまで挙げてきた3点にとどまる。2025年度末までをめどに導入準備が進められている事業者間ローミングについては、「協定の中に入っていない」(同)という。事業者間ローミングは、緊急通報だけでなく、一般の音声通話やデータ通信なども含めて利用が可能な「フルローミング」方式と、緊急通報の発信のみに絞った方式の2つが検討されてきたが、その両方式を実施する方向で、現在、具体的な運用や技術的な条件を議論しているところだ。


 2024年3月に開催された検討会では、能登半島地震での有効性も検証された。総務省の「非常時における事業者間ローミングに関する検討会 第3次報告書」では、「携帯電話事業者で生じた支障の一部は、他携帯電話事業者のサービスエリア内であったことから、事業者間ローミングによる救済の効果があるものと想定された」と記載されており、当時、事業者間ローミングがあれば、効果を発揮できた可能性があることが示唆されている。


 複数事業者のトラフィックをまとめて受け切れるかといった課題はあるが、もし事業者間ローミングが有効活用できれば、応急復旧するエリアを4社である程度分担し、最低限、電話だけでもできるようにする復旧を早められる可能性もある。4キャリアと固定通信事業者が一堂に会する今回の協定は、その運用方法を検討したり、テストしたりする場としてうってつけのようにも感じた。


 事業者間ローミングとは少々性格は異なるが、能登半島地震では避難所を支援する際に、「リストを県からいただき、各社が連携した。ここはドコモ、ここはKDDI、ここはソフトバンク、ここは楽天モバイルと手分けをして、避難所の支援を行った」(磯部氏)という。楽天モバイルが設置した衛星をバックホールにした可搬型基地局は、「楽天モバイルの電波しか出せないが、この電波が行き渡る場所にWi-Fiルーターを設置し、他社のユーザーがスマホでWi-Fiを活用できるようにした」(同)。


 技術的にはローミングで直接他社の端末を受け入れていたわけではないが、基地局とスマホなどの端末の間にWi-Fiルーターを介することで近い状況を作り出していたといえる。事業者間ローミングが可能になれば、その手法が1つ増える形になる。NTTの森田氏も「実現すれば(4社で)協調する手段が増えるので、活用できる状況があれば検討したい」と語っていた。「通信事業者全体が1つの企業として取り組む」(同)協定であるだけに、より深い連携にも期待したい。



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