日銀が過去25年にわたる金融緩和策を検証した「多角的レビュー」に対して、副作用の検証が不十分との見方が出ている。黒田東彦前総裁の下で2013年4月に導入した量的・質的金融緩和(異次元緩和)に関し、レビューは「全体として経済にプラスの影響をもたらした」と総括した。ただ、財政規律の緩みや企業の新陳代謝の遅れに伴う成長率低下など弊害を生んだ面は否めない。
国債を「爆買い」する異次元緩和により、日銀の国債保有額は569兆円(今年9月末時点)に膨らみ、発行残高の5割を超える。市場の規律が働かず、国債増発と財政悪化に歯止めがかからなくなったとの批判は強い。レビューは「(政府の借金を支える)『財政ファイナンス』ではないことを明確に示していくことは、極めて重要だ」とした。しかし、レビュー自体に盛り込まれた有識者の「講評」で、鶴光太郎慶大教授は「いくらでも長期国債を買い入れるというコミットメントは、限りなく財政ファイナンスに近い」と手厳しい。
日銀は今年3月にマイナス金利政策を解除し、異次元緩和に終止符を打った。8月から国債買い入れの段階的な減額にも着手したが「国債残高を平時の水準に戻すには10年以上かかる」(元日銀理事の山本謙三氏)とされる。今後も利上げを継続すれば、民間金融機関が日銀に預け入れた当座預金への利払いが増加して財務を圧迫、経常赤字に陥る可能性があるが、レビューには日銀財務の詳細な分析はなかった。
一方、超低金利の長期化により企業の不採算事業が温存され、産業構造の新陳代謝が停滞したとの声もある。レビューは「金融緩和が経済の供給面に及ぼした影響を実証分析したが、明確な結論を得られなかった」と判断。これに対し、福田慎一東京大教授は講評で「潜在成長率がトレンド的に低下しており、プラスの効果があったとは考えにくい」と述べている。
レビューについて、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは取材に対し「効果の分析に比重が置かれ、円安進行を含めた副作用の分析は十分ではない」と指摘している。