「レゲエ校歌」で話題の和歌山南陵、廃校寸前から再建への道 バスケ部はウインターカップに出場

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2024年12月22日 10:00  webスポルティーバ

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和歌山南陵高校が挑む再建への道(前編)

 11月29日、その報せは唐突にもたらされた。

 和歌山南陵高校、生徒募集停止の措置命令解除──。

 和歌山南陵は今夏、「レゲエ校歌」で話題になった高校だ。「イェイイェイイェ〜イ」のイントロで始まる、レゲエ調の校歌を夏の高校野球・和歌山大会で歌い上げた。その珍妙なニュースはスポーツ媒体のみならず、テレビのワイドショーでも大々的に取り上げられた。

【2億7000万円の滞納金】

 レゲエ校歌をきっかけに多くの人間が和歌山南陵の「惨状」を知り、言葉を失ったに違いない。

 全校生徒18名。その内訳は野球部10名、バスケットボール部6名、吹奏楽部2名。運動部の16名が暮らす寮は老朽化が進み、トイレは雨漏りのため寮生は傘を差して用を足すありさま。経営難のために各方面の支払いが滞り、寮の食事が菓子パン1個という時期もあった。

 ほかにも給与未払に端を発した教職員のストライキ、元生徒による理事長(当時)へのパワハラ提訴など、和歌山南陵を取り巻くネガティブなニュースは枚挙にいとまがなかった。学校法人の南陵学園は相次ぐ行政指導の末に、2022年には生徒募集停止という重い措置命令を受けた。生徒はどんどん転校していき、最後まで残ったのが現3年生の18人だったのだ。

 旧経営陣が総退陣し、4月に新たな理事長に就任したのが甲斐三樹彦(かい・みきひこ)だった。甲斐は大分県で経営コンサルタントをしており、かつては南陵学園の営業部長を務めた経緯もある。

 火中の栗を拾う覚悟で理事長になった甲斐だったが、その再建へのハードルは想像以上に険しいものだった。

「直近の経理状態を調べようとしたら、決算書が2期分もない。行政から届いた指導書はすべてスルーしている。教員の不当解雇など裁判を50件以上も抱えている......。聞いていた話と全然違うやん、と頭を抱えました」

 そもそも生徒募集停止という重い処分を受けた学校自体、前代未聞だった。甲斐は自身の人脈を頼りに学校の滞納金を完済すべく奔走する。その総額は約2億7000万円までふくらんでいた。

 一方で老朽化が進む学校施設を修繕するため、クラウドファンディングも始めた。教職員もフル稼働し、たまりにたまった行政指導の書類や決算書の問題も、過去にさかのぼって片づけていった。

 旧経営陣とそりが合わず離職した教員のなかには、甲斐から声をかけられて復職した者もいる。そのひとりである教員の古川彰弘は、こんなエピソードを明かした。

「学校現場には生徒ひとりひとりの小学校・中学校・高校の履歴を記録した『指導要録』という書類があるんですけど、見当たらないものもあって......。過去の在校生をさかのぼって、関連する学校に1件1件『指導要録をもう一度発行してください』と電話して回りました。『それは大変ですね、わかりました』という反応の方もいれば、『指導要録がないってどういうことですか? 経緯を説明する書類を送ってください』という方もいて。本来学校になければおかしい書類ですから、それも当然の反応なんですけどね。とにかく書類を集めるのは大変な作業でした」

 全校生徒18名の学校では、毎日を過ごすだけで赤字がふくらんでいく。甲斐は明るく笑いながらも、「毎月1500万円の赤字です」と実情を明かした。

【発信力のある学校にしたい】

 現代の日本社会は、少子高齢化の波が押し寄せている。経営不振で淘汰される学校は今後も増えていくに違いない。それでも、甲斐はなぜ和歌山南陵の再建を引き受けたのだろうか。率直に尋ねると、甲斐はこう答えた。

「日本を立て直すための人材を育てたいという思いが第一にあります。きれいごとではなく、生きるための力を持って、助け合える生徒を育てて、発信力のある学校にしたいんです。たしかにこんなにズタボロの学校ですから、『よう引き受けましたね』と言われます。でも、私はいろんな事業を見てきましたけど、学校経営で潰れるなんて考えられないんですよ。学校法人は税制上優遇されていますし、国からは補助金が出て、保護者からは学費を納めてもらえる。学校に魅力さえあれば、人もお金も集まるんですよ」

 荒れ果てていた寮も、着実に改善に向かっている。水漏れを修理し、掃除中に発見したポリッシャーを使って床を磨き上げた。夏場には和歌山南陵のOBが志願して大掃除にやってきてくれた。業者への支払いができるようになったため、寮の食事も改善されている。雑草が伸び放題だったグラウンドも野球部部長の小林祐哉が地道に芝刈りをして回り、ようやく野球場らしくなってきた。

 旧経営陣はメディアが学校内に立ち入ることすらシャットアウトしていたというが、甲斐の理事長就任後は「いい部分も悪い部分もすべて隠さずオープンにする」という方針に180度転換した。甲斐は噛み締めるように言った。

「一歩一歩、前に進んでいくしかないんです。ウチの校歌の歌詞のように」

【全国大会直前で非常事態発生】

 こうして難局を乗り越え、なんとか生徒募集停止の措置命令が解けた。甲斐は「史上初の快挙です」と笑顔を見せつつ、早くも次のフェーズを見据えている。来年度の入試は2月に迫っており、生徒募集をするにはあまりに時間がなさすぎるのだ。

 既存の野球部、バスケットボール部、吹奏楽部の生徒を募集しつつ、剣道部、サッカー部、バレーボール部、ラグビー部といった運動部も立ち上げる構想があるという。

 教員の古川は、和歌山南陵が置かれた現状を独特な言葉で表現した。

「富士山を登る前に、とりあえず樹海を抜けたような感じですね。どこを見てもうっそうとした木々に囲まれていたのが、ようやく山の全容が見えて登山を始められる段階にきました」

 経営陣も一新しているだけに、当初は学校名を変える方針だった。だが、甲斐にとって想定外だったのは、「レゲエ校歌」が想像以上にメディアに取り上げられ、話題になったことだった。

「とりあえず今年のために間に合わせでつくった校歌でしたが、あれだけ話題になってしまって......。多くの方から『学校名を変えないで』という言葉もいただきました。いつか『あんなボロボロの学校が、ここまでよくなったんだよ』と言われる学校にしていくために、和歌山南陵の名前はそのままにしたいと考えています」

 新生・和歌山南陵の名前を世間に知らしめるイベントも間近に迫っている。部員わずか6人のバスケットボール部が夏のインターハイに続き、冬の全国大会・ウインターカップへの出場を決めたのだ。12月23日には長崎工業との初戦が組まれている。

 ところが、大舞台を前に和歌山南陵バスケ部は非常事態に見舞われている。部員が1名欠け、なんと5選手でウインターカップを戦わなければならないのだ。

つづく>>

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