10年以上にわたって拡大を続けてきた炭酸水市場。特にコロナ禍では、巣ごもり需要に伴う自宅での飲酒の増加により、お酒の割材として利用が広がった。2023年の生産量は2013年比で約3倍に増加(全国清涼飲料連合会調べ)。だが、その後は横ばいの状況だという。
同市場では、アサヒ飲料(東京都墨田区)の「ウィルキンソン」がシェアトップのブランドで、依然高い人気を誇る。その他、大手飲料メーカーからも多数の商品が展開され、低価格のPB商品も販売されている。
そんな強敵の多い市場、かつ生産量が横ばいのなか、右肩上がりに売れているのが強炭酸水の新顔「OZA SODA」(オウザソーダ)だ。ミネラルウオーターやお茶、炭酸飲料などを製造・販売するライフドリンク カンパニー(大阪市)が主にECサイトで販売している。
500ミリリットルが1本約60円(時期により多少変動)と発売当初から低価格を実現。楽天市場では水・ソフトドリンクカテゴリーで4年連続ランキング1位を獲得、約5年間で累計2億本を販売している。
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ライフドリンク カンパニーの執行役員 人財本部長 浅井祥平氏と、執行役員 SCM本部長 橋本知久氏にOZA SODAの販売戦略を聞いた。
●「低価格」と「飽きないおいしさ」が武器
OZA SODAの人気が拡大した背景には、楽天市場での支持獲得がある。500ミリリットル24本を1429円、1本約60円で販売し、類似商品の中で「最安値」に挑戦しているという(2024年12月下旬時点)。
「当社では『脱付加価値』を掲げていて、幅広くファンを獲得しやすいベーシックな商品開発をしています。また、卸業者などを全く通さず自社で販売していることもあり、他社製品と比較して低価格で提供しています。これが一番の差別化となっています」(橋本氏)
商品ラインアップは「プレーン」「レモン」「ピンクグレープフルーツ」「ライム」の4種類。販売当初、ライムとピンクグレープフルーツは期間限定商品としていたが、顧客から再販売のニーズが高く定番化にいたった。目指しているのは、脱付加価値の戦略にのっとった「飽きない味わい」だ。
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「意識しているのは、“おいしさの中心”です。例えば、レモンなら酸味を強調したり、フレッシュさを際立たせたりする差別化が見られますが、当社はあえて個性を出さずに長く飲んでも飽きない味づくりをしています」(橋本氏)
販売開始は、意図せず巣ごもり需要が急増したコロナ禍だった。炭酸水のニーズ拡大に加え、脱付加価値戦略と「最安値」をアピールした広告露出で一気にシェアを拡大。2021年に楽天市場で水・ソフトドリンクカテゴリーの1位を獲得し、その後4年連続で同カテゴリーの1位を維持している。
●女性をターゲットに「炭酸水市場」に参入
ライフドリンクカンパニーは1950年にお茶の卸事業で創業し、1972年に会社を設立した。一時期は、氷、乾麺、運輸、太陽光発電など事業を多角化してきたが、2015年にPEファンド(非公開株式に投資するプライベート・エクイティ・ファンドの略称)のサンライズキャピタル(東京都港区)に株式を売却し、資本業務提携をしたことを機に「ドリンク事業への集中」に舵(かじ)を切った。
現在、売り上げの約6割を占めるのがイオンや西友など約30社のPB商品の製造だ。残り4割は、OZA SODAや国産天然水「彩水-あやみず-」など水、お茶、炭酸水の自社製品となる。
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そんな同社が強炭酸水の新商品を開発したのは、健康志向の拡大などから今後も市場の伸びが期待されることに加え、自社の強みを生かして独自価値を提供できると考えたためだという。
「ミネラルウオーターと比較して、炭酸水は店頭に並ぶ品目が少なく、かつ当時は『強炭酸』という文言や『刺激的なイメージ』を押し出したパッケージが中心で、やや男性的というか誰もが受け入れやすいデザインではないように感じました。
ECサイトでの販売を検討した際、当社の強みの一つである『おいしい水』を使った炭酸水で、食卓に置いても受け入れられやすいようなデザインを採用したら、違った市場を創出できるのではないかと考えました」(橋本氏)
そんな狙いから開発した「ZAO SODA」(ザオウソーダ、現:OZA SODA)は「強炭酸」という文字を主張しすぎず、女性が違和感なく持てるようなデザインを意識したという。現在は、一定の認知度を得られたことから「強炭酸」の文字とフルーツのイラストを削除し、よりシンプルなデザインとしている。
ちなみに、ZAO SODAの名称は蔵王工場で製造していることが由来になっており、生産数拡大に伴い蔵王以外でも製造することからOZA SODAとなった。OZAにはライフドリンクとしての地位を確立し、「王座=ナンバーワンの炭酸水」を目指すという思いを込めたという。
●圧倒的な低価格を実現する製造戦略
それにしても、なぜ低価格を維持できているのか。この質問に対し、「商品設計・製造から販売までを全て自社で完結しているためだ」と橋本氏。
「当社ではペットボトルの製造から自社で行っていて、原料のレジンを調達して一から製造しています。他の飲料メーカーは他社からペットボトルを購入することが多いのですが、それはたくさんの空気を運んでいるようなもので運送効率が悪いんです」(橋本氏)
さらに、商品展開を「水」「お茶」「炭酸水」の3カテゴリーに限定し、サイズも2リットルと500ミリリットルのみにすることで、各工程で発生するムダを最小化している。工場は東北から九州まで全国に12カ所を展開しており、これも物流費の抑制につながっている。
こうしたビジネス戦略がうまく機能し、OZA SODAのみならず全体の業績も順調だ。同社の2025年3月期 第2四半期の決算では、生産数が前期比113%、売上高は240億円で同117%、営業利益は30億円で同105%となった。OZA SODAを含むECの販売額は「総売り上げ構成比の2ケタ台」とのこと。240億円の売り上げのうち、24億円以上となるそうだ。
●次の一手は「シリカ水」、多様なニーズに対応
現状、OZA SODAは好調を維持しているが、「まだまだ拡大の余地はある」と橋本氏は話す。
「商品の品質や価格には自信を持っているのですが、ECサイトでの購入は最低でも24本のまとめ買いとなり、ここに一定のハードルがあるのかなと。一度どこかでOZA SODAに触れていただくことで、購買のハードルを下げられたらと考えています」(橋本氏)
そのためにリアルで商品と触れられるタッチポイントの創出を試みているという。これまでに、食フェスでのサンプリングや駅前のキッチンカーイベントでの販売とサンプリングを実施。地道な活動ではあるが、認知につながりやすい方法を検証しながら継続していく見込みだ。
オウンドメディアやSNSでの発信も強化している。炭酸水を使ったおすすめレシピや炭酸水にマッチする食事など、飽きられないよう工夫しながら運営しているという。
次の一手としては、2025年の初頭に「シリカ水」を使ったOZA SODAの新商品を発売予定だ。ミネラル成分のケイ素を含むシリカ水は、健康や美容の効果が見込めるといわれている。シリカ水の市場はじわじわ広がっており、多様な需要に応えることで新規顧客の開拓を狙う。
市場全体の動きを見ると、サントリー食品インターナショナル(東京都港区)は新商品の「サントリー天然水 SPARKLING」を2024年3月に販売。ブランド史上最高レベルのガス圧と独自のミネラル設計で、細かく大量の高密度な泡が感じられる中味を実現し、お酒の良さを引き立てるという。
市場トップブランドのウィルキンソンは、「飲用シーン」の訴求に注力。飲用シーンで最も多いのが“風呂上がり”であることから、2024年の5〜8月に複数の温泉施設とコラボしてサンプリングを実施した。
各社が独自の戦略で拡大を狙うが、OZA SODAは「低価格」と「飽きない味わい」を貫く。今後も、大衆の選択肢となるだろうか。
(小林香織)
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