映画の世界観やイメージをファッションで表現し、アドベントカレンダーのように1日ずつ楽しめるユニークなコンテンツを配信しているアパレルメーカーがある。神戸のアパレル会社ズーティーが運営するECサイト「イーザッカマニアストアーズ」だ。スタッフ自らコーディネートを考え、モデルとなって映画のイメージをファッションで伝える「概念コーデ」を公開。超繫忙期であるはずのアパレル会社が、一体なぜ?取締役CEOでバイヤーの浅野かおりさんに話を聞いた。
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コーディネートと映画で楽しい年末年始を
「映画とイーザッカマニア」という楽しげなコンテンツを発信するズーティー。以前から自社のアイテムを着て顧客にコーディネートを紹介する「スタッフコーデ」と、商品PRを兼ねた「概念コーデ」のショート動画を制作していた。概念コーデとは、好きな漫画やアニメ、ゲーム作品や映画に登場するキャラクターを象徴する色や要素を取り入れたファッションのことで、ここ数年人気となっている。イーザッカマニアではこれまでも名画をモチーフにした概念コーデの動画を配信しており、顧客の間で評判となっていたという。
映画コーデ誕生のきっかけは今年11月の朝礼だった。好きな映画紹介がテーマで、40代のスタッフが「男はつらいよ」を紹介すると、20代のスタッフが「前田吟さんのいぶし銀っぷりが好き」と告白して盛り上がったという。
そこで、自社のアイテムを用いた概念コーデで映画のイメージを表現し、アドベントカレンダーのように日替わりで年末年始のスタッフおすすめ映画を紹介しようというアイデアが立ち上がった。映画の選定や配役、コーディネート、撮影までスタッフが一丸となって、タイトなスケジュールの中で進められた。毎日、撮影スペースからキャッキャと楽しそうな声が響いたという。
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「あまりに楽しそうなので、『今、何の撮影?』『私も入れて』って参加した映画もありますよ」と話す浅野さんも楽しそうだ。
ズーティーは創業して今年で25年になる。かなり自由な社風だが、創業当時のことも聞いてみた。
突然の解雇 無職のまま出発した新婚旅行がきっかけでアパレルに飛び込む
ズーティーを立ち上げる前、浅野さんは神戸で官公庁やゼネコンの入札書類の図面作成などを行う会社の営業をしていた。現在のズーティー社長で夫の今石雄介さんとは、その会社で知り合った。
24歳の時、浅野さんは思わぬ形で社内の“権力闘争”に巻き込まれてしまう。心労が重なり退職したが、なんと婚約中だった今石さんまでもが解雇された。すでに結婚を決めていた2人。無職となったが「キャンセル料がもったいないから」と新婚旅行に出発。南国リゾート、ランカウイ島で途方に暮れながら、海辺でひたすらミネラルウォーターを飲んで過ごした。
「新婚旅行なのに、水を飲みながらぼーっと海を眺めているだけ。それ以外、あまり記憶が無いんです」
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当時日本ではアジア雑貨が流行していたこともあり、2人はお世話になった人へのお土産にと、ランカウイで一番安く、かつ高価に見える雑貨を選んだ。帰国後、親戚から「いい物件があるから、何か店でもやってみたら?」と紹介される。「アジア雑貨ならできるかも」
1999年に、神戸・三宮でアジア雑貨店を開いた。シルクのストールやバティックなどの服飾も扱った。
まもなくネット販売を開始。自分たちで一からサイトを構築した。実店舗だけではまだ苦しく、当時、店はアルバイトに任せて浅野さんは派遣で、夫は経理のアルバイトをして生計を立てていたという。やがて韓国へも買い付けに行くようになった頃、国内のメーカーが営業に訪れるようになった。
「それまで自分たちで仕入れ、販売することしかやってこなかったので、メーカーから商品を仕入れるということも知らなかった。今考えると、何も知らなさすぎましたね」
2002年に楽天市場にも出店。仕事は多忙を極めたが、その中で浅野さんは1人目の子どもを出産した。「寝る間もなかったけれど、無我夢中で楽しかった」とあっけらかんと振り返る。
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2005年には、実績や人気が評価された店舗に贈られる楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤーを初受賞するまでに成長。以来1、2年ごとに受賞を重ねている。
20代から80代 みんなファッションで楽しんでほしい
セレクトショップから出発してメーカーから仕入れるようになり、自分たちで服の企画、制作、販売まで行うようになったズーティーの扱う商品は、現在約3割が自社制作。あとは他ブランドの商品を扱っている。機能性のあるベーシックなものから、個性があり、着ていて楽しい気分になれる服をそろえる。
女性はもちろん男性も着られて、カジュアルやシンプル、モード系といったジャンルもない。トレンドも追いすぎない。洗濯に強く何年も着られる質の良い服を、手頃な価格で提供しているのがイーザッカマニアの特長だ。対象年齢も決めていない。
「ターゲットを絞った方がお客に刺さるのでは?というアドバイスもいただきます。でも20〜50代までいるうちのスタッフの誰もが、自分たちの服を作っていると自負していますから、あえて絞っていません」
この「誰でも着られる」ことを写真で表現したのが、先述した「映画とイーザッカマニア」だ。よく見ると、男性スタッフや40代、50代の女性も登場している。
さらに今、企画を進めているのが、20代から80代まで3世代がイーザッカマニアの服を着てそろって写真を撮るという「3世代コーデ」という。
「創業から25年経った今、実際にご自身、お母さん、娘さんと3世代にわたってご愛用くださっているお客様もいらっしゃいます。あらゆる世代におしゃれを楽しんでほしい。お気に入りの服を着て楽しそうにしている人を見るのが、私の楽しみなんです」
たくさんの人にイーザッカマニアをもっと知ってほしいと語る浅野さん。仕事でもやりたいことはたくさんあるが、プライベートでやりたいことは、家族でランカウイへ行くことだ。「今度こそ心から南国リゾートを満喫して、しっかり記憶にとどめたいです」と、笑いながら話してくれた。
(まいどなニュース特約・國松 珠実)