ソニーがKADOKAWAの筆頭株主として狙う「IP強化」とは? 投資家が注目すべき3つのポイント

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2024年12月27日 09:21  日刊SPA!

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yu_photo - stock.adobe.com
 12月19日、ソニーグループ(6758)が総合メディア企業のKADOKAWA(9468)と資本業務提携を結び、およそ10%の株式を取得し、筆頭株主になると発表しました。かねてより両社は買収する方向で協議を進めていると報じられ、エンターテインメント業界に衝撃が走っています。
 出版、アニメ、ゲーム、教育事業まで幅広く展開するKADOKAWAは、日本を代表するIP(知的財産)の供給源として知られる存在。このニュースを受けて、KADOKAWAの株価は急騰し、連日ストップ高を記録するなど、投資家からの注目が一気に集まっています。

 この背景には、世界的なエンタメビジネスの潮流があり、映画、音楽、ゲーム、アニメ、書籍など、あらゆるメディアコンテンツが相互接続し、IPの価値がこれまで以上に高まっています。

◆ソニーが次に狙う戦略とは?

 かつてのソニーは「ウォークマン」や「ブラビア」などハードウェア主導で世界を席巻した家電メーカーという印象が強かったかもしれません。しかし、近年はエンターテインメント事業が収益の中核となりつつあります。プレイステーション(PS)プラットフォームを軸としたゲームビジネス、映画製作、音楽出版、アニメ配信など、IPが軸となるビジネスモデルへと着実にシフトしているのです。

 一方のKADOKAWAはライトノベルやマンガ、アニメ、ゲームへと多面的に展開できる原作IPを数多く抱え、「IPの宝庫」といえる存在です。もしもソニーがKADOKAWAを手中に収めれば、コンテンツの企画からグローバルな展開まで、一貫したビジネスモデルをより強固にすることが可能になることが期待されます。

 そこで今回は、この買収観測報道を踏まえ、投資家が特に注目すべき3つのポイントを整理いたします。さらに、日本のエンターテインメント業界が迎える「IP戦国時代」の行方についても考察していきます。

◆ポイント1:IPバリューチェーンの垂直統合

 まず注目したいのは、「IPバリューチェーンの垂直統合」です。従来、コンテンツビジネスは「原作の創出」「編集や製作」「配信・販売」といったプロセスがそれぞれ別個の企業によって行われてきました。しかし、グローバル規模でのIP競争が激化する中で、プラットフォーマーやコンテンツホルダーは、IP創出から二次展開、そして世界市場への拡販までを一手に担う「フルスタック」な経営モデルを目指す傾向が強まっています。

 ソニーはゲーム事業の成功や傘下の海外アニメ配信プラットフォーム「クランチロール」を通じて、世界中のユーザーへ自社コンテンツを直接届ける仕組みを充実させてきました。しかし、その源泉となる「原作IPを絶えず生み出す力」については、まだ他社頼みな部分が少なからず残っています。

 なぜならヒットゲームシリーズこそ多く抱えますが、出版やライトノベル、マンガなど「原作プール」を自前で持つことは簡単ではないからです。仮にKADOKAWA買収が実現すれば、この弱点が一気に補強されます。

 KADOKAWAは『角川文庫』『電撃文庫』『MF文庫J』といった有力レーベルを持ち、今年の7月には『推しの子』のアニメ制作会社を買収するなどなど、大手出版社ならではのヒット作を生み出す力があります。こうした強力な原作供給源がソニー傘下に収まれば、企画段階から世界展開まで、一貫したIP戦略を構築しやすくなることが期待されます。

◆ポイント2:グローバル市場でのシナジー創出

 第二のポイントは「グローバル市場でのシナジー効果」です。エンターテインメント市場はもはや国内完結ではなく、国境を軽々と越えていきます。アニメをはじめとする日本発のコンテンツは、北米や欧州でも幅広いファン層を獲得しています。このような状況下で、強力なIPは世界中で通用する武器となります。

 ソニーはすでに映画、音楽、ゲームといった多面的なグローバル展開に成功しており、現地での配信インフラや提携先企業を多数確保しています。そこへKADOKAWAの原作IPが加わることで「日本発IPを世界規模で育成・展開する理想的なエコシステム」の構築が期待されます。

 具体的には、ライトノベルやマンガで生まれた作品を、ソニー傘下のアニメスタジオやゲーム開発チームがマルチメディア展開し、それをグローバルな配信網、PSネットワーク、さらには映画化して海外の劇場へと届けるといった統合ビジネスが考えられます。

 また海外の投資家やグローバルファンドから見ても、こうした垂直統合モデルは評価されやすいと考えられます。なぜならディズニーやNetflixなどの海外メディア大手は、自社IPと配信基盤を独占的に抱え込む戦略を強化しています。ソニーがKADOKAWAを得て強固なIP生産ラインを社内に抱えれば、これらの海外メディアジャイアントに対抗し得る存在感を確立できるはずです。

◆ポイント3:非中核事業の扱いとリスクマネジメント

 第三のポイントは、「非中核事業の扱いとリスクマネジメント」です。KADOKAWAは出版・映像・ゲーム・アニメといったメディア関連以外にも、ドワンゴとの統合による教育事業(N高、S高)や、ニコニコ動画など独自色の強いサービスを有しています。もしもソニーグループに加わった場合、これら非中核的な事業の整理や再編が行われる可能性があります。

 なぜなら、ソニーはグループ全体の収益性やシナジーを重視するため、シナジー効果の薄い事業には容赦なくメスを入れることが予想されるからです。また、KADOKAWA側が過去に経験したサイバー攻撃による情報流出事件などのリスク管理も求められるでしょう。仮にソニーの買収によりKADOKAWAの上場廃止(非上場化)が実現した場合、一般株主にとっては買収時点での株式売却や、上場廃止後の対応が課題として残っています。

 今後、非上場子会社となったKADOKAWAが、どの程度独立性を保ちながらクリエイティビティを発揮できるのかは不透明です。経営の自由度が低下する可能性はある一方、豊富な資本とグローバルネットワークを活用してIPをさらなる高みへ引き上げるチャンスでもあります。

 投資家としては、こうした買収後の事業整理とリスク対応に関するシナリオも頭に入れておく必要があるでしょう。

◆「知的財産(IP)を制する者が市場を制す」時代へ

 世界的に知的財産(IP)の価値は上昇の一途をたどっています。ディズニーがマーベルやルーカスフィルムを傘下に収め、ユニバーサルやワーナーも有力IPを囲い込んでいます。NetflixやAmazon Prime Videoなどの配信大手は自社オリジナルIPの量産に注力することで、グローバルな視聴者に絶えずアピールし続けているのです。

 その中でソニーはゲームや音楽分野では確固たる地位を築いてきたものの、原作IPの発掘や育成においてはさらなる強化余地がありました。KADOKAWAは国内有数のIP源泉として、次々と新たなコンテンツを生み出しています。ソニーとKADOKAWAが組み合わされば、新たな和製IPがグローバル市場で花開く可能性が高まります。

 もちろん、買収成立までには価格交渉や規制当局の承認、ドワンゴや教育事業との関係整理など、解決すべき課題が多く残されています。また、買収報道後のKADOKAWAの株価急騰は期待先行の面もあり、今後の続報や正式発表によって相場が揺れ動く可能性は十分あります。しかし、長期的な観点に立てば、ソニーがIP強化を通じて世界市場での存在感を増し、日本のコンテンツ産業がさらなる成長段階へ移行する契機となるかもしれません。

◆投資家が注目すべき視点

 仮に買収が決まった場合の投資家の注目すべき視点としては「KADOKAWAの買収価格」「非中核事業がどのように整理されるのか」「買収完了後、ソニーがどの程度具体的なIP強化戦略や収益拡大策を開示するのか」といった点に注目すべきです。

 グローバル展開戦略、IP開発計画、KADOKAWA傘下企業や事業部の再編方針などが明確になればなるほど、市場は一段と敏感に反応するでしょう。

 エンタメ市場は資本とIP力が勝敗を決する時代です。米国勢に対抗するには、国内メディア同士の連携や再編は避けて通れない選択肢となっていると考えます。その中で、ソニーとKADOKAWAの組み合わせは、強力な「解」の一例となり得るのではと期待させるものであるからこそ、直近の株価上昇の大きな要因となったと考えられます。

◆世界的なエンタメ再編の流れに

 ソニーによるKADOKAWA買収協議は、日本企業同士のM&Aという枠組みを超え、世界的なエンターテインメント再編の流れの一環として捉える必要があります。「知的財産を制する者が市場を制す」と言われる時代において、IPはビジネスの鍵を握る最重要リソースです。

 投資家は、IPを中核とした両社の戦略的シナジーに注目しつつ、業界再編が及ぼす影響にも目を凝らすべきです。買収が実現すれば、日本発のIPクラスターが一段と強固になり、世界市場での競争力が高まることが期待できます。その過程で、関連銘柄や新たなマネタイズ手法にも関心が集まり、国内エンタメ産業全体の評価が見直される可能性もあるでしょう。

 今後、正式発表や続報が出るたび、市場は再び揺れ動くことになりそうです。その動きを見極めながら、先を読む視点を持つことが投資家には求められます。

<TEXT/鈴木林太郎>

【鈴木林太郎】
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。 米国株投資がメインなので、主に米国経済や米国企業の最新情報のお届けを心掛けています。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数
X(旧ツイッター):@usjp_economist

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