ユニークで豪華なインテリアやテーマルーム、そしてジャグジーやカラオケなどの充実した設備により、非日常感が味わえるラブホテル。胸を高鳴らせ、甘い時間を期待しながら来店する人が多いことだろう。
福岡の繁華街にあるラブホテルで、ベッドメイクとフロント業務を5年続けた天野翔子さん(仮名)は、受付時にお客様の様子を見て部屋の利用時間の想像がつくのだそうだ。
◆長年勤務の従業員でもわからないこと
「長いことラブホテルで勤務していると、なんとなくお客様の利用時間がわかってきました。
もちろん例外もありますが、『“夜のデリバリーお姉さん”が到着するまで、ロビーでチェックインを待つ男性は最短ショートタイム100分以内だな』とか、『食べ物を買い込んで来たカップルはノータイム(長時間利用)だな』などなど……」
しかし、そんな大まかな予測もつかないのが、マッチングアプリなどで“その日に出会ったであろう男女”のお客様だそうだ。
「カップルではなく“その日に出会ったであろう男女”の女性は、やるコトが済んだらさっさと帰りたそうな雰囲気が滲み出ているものなんですが、男性の車に乗せてもらって来ている人が多く、“夜のデリバリーお姉さん”のように女性だけ先に帰ることは少ないんです。
そのため、最短利用時間の100分ショートプランを選択しても、時間を大幅に余らせて2人同時にチェックアウトするお客様もいらっしゃいます。なかにはたったの15分でチェックアウトするお客様もいらっしゃいました」
今回は、たった15分でチェックアウトするという常連の女性客のエピソードをご紹介しよう。
◆利用時間たった15分の女性客
いつもたった15分でチェックアウトする女性客とは、一体どんな人物なのだろうか。
「その女性客は、茶髪で背が低く必ずミニスカートを履いている20代の女性。彼女は毎回違う男性と来店して必ず15分以内にチェックアウトしていました。さらに驚くのは、前の男性とチェックアウトした数十分後には、別の男性をホテルに連れて来ることもよくあったんです。
彼女は“夜のデリバリーお姉さん”とは雰囲気が少し違っていて、おそらくマッチングアプリでマッチした男と遊びまくっているのだと思います。
かわいらしい外見だったのでマッチする男が途切れることはないようでした。いつしか彼女はホテルの常連客となり、『矢口』というあだ名が付けられ、スタッフのなかでは認知される存在となりました」
◆矢口さん脅威の4回転にスタッフも限界
ホテルの売上には貢献しているありがたいお客様ではあるものの、部屋の利用時間がたったの“15分”という『矢口』さんは、スタッフ泣かせな存在だったそうだ。
「ベッドメイクは、お客様のチェックアウト後すぐに部屋を清掃するのが基本です。清掃は大体15分から20分で終わらせるのですが、満室時はさらにスピードを上げなければなりません。
そういう事情があるなかで『矢口』さんは、一度チェックアウトしても1時間以内に再び部屋を利用し、15分程度の滞在の後、再度チェックアウトするということを繰り返しているわけなんです。
そのため、メイクスタッフは短時間のうちに何度も同じ部屋を清掃する必要があり、メイクスタッフの負担が大きくかかっていたんです。
メイクスタッフからすると、『矢口』さんの利用方法は嫌がらせのように感じるようです。『〇〇号室、矢口さん入りました』とスタッフ間で連絡があるぐらいに警戒され嫌われる存在でした」
『矢口』さんのヘビロテ利用は続き、ある日、スタッフたちの堪忍袋の尾がプツリと切れたそうだ。
「一部屋だけあった空室に『矢口』さんが入り、いつものように15分でチェックアウト。10分で清掃を終わらせると再び『矢口』さんがその部屋に……というその繰り返しが、ある日なんと4回も続いたんです。
流石にメイクスタッフの我慢も限界のようで、私は次に『矢口』さんが来店したときに、フロントスタッフとして文句のひとつでも言ってやろうと思っていました」
天野さんが意気込んでいたそのとき、メイクスタッフがなにやらメモを片手にフロントに飛び込んできたそうだ。
◆迷惑客だけど……いい人?
「『矢口』さんたちがチェックアウトした部屋で見つけたと、メイクスタッフがフロントにやってきて、そのメモを私に見せてきました。
そのメモには、『ホテルのみなさん。いつもすみません。お仕事がんばってください』と書かれていて、メモと一緒にアメが置かれていたのだそうです。『矢口』さんはすでに迷惑客として認定されていたので、そんな気遣いができる人だと思いませんでした。
人間とは本当に単純で、そのメモを見た瞬間からあれだけ嫌っていた『矢口』さんが急に愛おしく見えてしまいました。メイクスタッフも同じだったようで、『矢口』さんが置いていったアメを舐めながら『案外悪い人じゃないかもね〜』と言っていましたよ(笑)」
『いつもすみません』と書かれていたというのは、超短時間利用によるメイクスタッフの負担も察していたのだろう。
「それからしばらくして、『矢口』さんはホテルに来なくなりました。マッチングアプリでの男狩りから足を洗ったのか、ただ場所を変えたのか……。その後はわかりません」
――ラブホスタッフの天敵でありながらどこか憎めない、不思議なお客様のエピソードだった。
<取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio>
―[ラブホの珍エピソード]―
【逢ヶ瀬十吾】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは映画・ドラマ・舞台などエンタメ系全般について。美味しい料理店を発掘することが趣味。