チェルシー復活の立役者 プレミアリーグ初挑戦のイタリア人指揮官は何をしたのか

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2024年12月30日 07:40  webスポルティーバ

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 年末を迎え、プレミアリーグの2024−25シーズンも折り返し地点に到達しようとしている。首位に立つリバプールは、アルネ・スロット新体制下で独走すら予想させる勢いだ。

 だが、2位でクリスマスを過ごしたチェルシーで新たに指揮を執るエンツォ・マレスカも、まぎれもない今季前半戦の「勝ち組」だと言える。開幕前は、クリスマスまでもたない"早期解任候補"と目されていながら、監督として初挑戦のプレミアで評価を高めているのだから。

 チェルシーを「優勝候補」とする評価は時期尚早だろう。その理由を示す最新例として、12月26日にホームでフルアムに敗れた第18節(1−2)がある。今季のプレミア平均年齢最年少チームは、一般的に「出来がいまひとつでも勝ち点3を奪える」とされる優勝候補像とは対照的に、前半に先制し、追加点のチャンスも十分に手にしていながら、終盤に試合をひっくり返された。

 しかしながら、その若い集団を率いる新監督が見直されている事実は、逆に、もはやチェルシーに関して"聞かれない"声が物語る。西ロンドンダービーでの敗戦を告げる笛が鳴った直後、ホーム観衆によるブーイングがスタンフォード・ブリッジに響くことがなかったことが、最たる例だ。

 チェルシーは、サポーターが格下とみなすフルアムに敗れた。逆転を許して、リーグ対決では実に45年ぶりとなるホームでの敗北を味わった。これが開幕当初であれば、スタンドからチーム批判の意思表示があったことだろう。4カ月ほど前には、リーグ戦よりも重要度が低いUEFAカンファレンスリーグ・プレーオフ第1レグ(2−0で勝利)で、スイスのセルベットを相手に前半を0−0で終えた時点でブーイングが聞かれた。

 セルベット戦では、GKへのバックパスに対する不満の声も耳にした。ファンにとってのマレスカは、昨季のチャンピオンシップ(2部でレスターを率いて優勝)が唯一、とも言える実績の乏しい監督。加えて、ポゼッションへのこだわりが"遅攻"となって表れることから、レスターのプレミア復帰を実現したにもかかわらず、"前任地のファンが引き抜きを大して残念がらなかった監督"、という見方をされていた。

【現実に目を向けた戦いをする指揮官】

 ボールを支配して試合をコントロールする嗜好は、チェルシーでも変わらない。先のフルアム戦後にも、当人が「バスケットボールの試合」と表現する、目まぐるしく攻守が入れ替わる時間帯があったと、チームへの苦言が聞かれた。

 自軍が追加点に躍起になっていた後半13分のこと。カウンターでボールを持ったコール・パーマーが、CFニコラス・ジャクソンの早すぎた動き出しを見て取り、いったんボールを後ろに戻してビルドアップ再開を選択すると、チェルシーのベンチ前には、頭上で拍手をして賛同を示す指揮官の姿があった。

 その2分後には、「なぜ?」とでも言いたげに、両手を広げて天を仰ぐ仕草。スタンドからは歓声が起こっていたのだが、左ウイングで先発したジェイドン・サンチョが、ドリブルで袋小路に突っ込んでいった場面だった。

 ただし、つなぎへの固執は見られない。むしろ、攻撃レパートリーのひとつとして適宜の速攻が見られる。マンチェスター・ユナイテッドからレンタル移籍中のサンチョを最新メンバーとして、基本とする4−2−3−1システムの2列目アウトサイドのドリブラーが「過多」と言われるほどチームに揃っていることを考えれば、妥当な選択ではある。とはいえ、マレスカが現実にも目を向ける監督であればこその譲歩に他ならない。

 何より、タレント中のタレントであるパーマーに、持ち前のビジョンとテクニックを発揮させる歩み寄りだ。第18節までに、チェルシーが試みたスルーパスの数は、20チーム中で2番目に多い計48本。なかでも極上の1本は、第9節ニューカッスル戦(2−1)で、パーマーがディフェンシブサードから出した、先制アシストにつながるキラーパスだ。

 ポゼッション前提のチームでは、御法度とも言うべきロングボールも織り交ぜられている。同節終了時点でリーグ2番手のパス本数に占める割合は少ないが、パス本数トップのマンチェスター・シティよりも190本多い「793」は、20チーム中13位の数字となっている。

【細かい注文に応える若い選手たち】

 若手の多いチームには、判断と実行の両面で個人ミスがつきまとう。

 27歳と、正GKとしては若いロベルト・サンチェスも例外ではない。俊敏なセーブで危機を救う反面、不必要なリスクを伴うフィードで危機を招きもする。フルアム戦でも、あわや相手CFのラウル・ヒメネスにショートパスするシーンが。試合終了間際の2失点目は、サンチェスが自軍エリア外の右インサイドからダイレクトで蹴ったダイアゴナルパスが精度を欠き、中盤の中央の敵に届いたことに端を発している。

 絶対条件として、攻撃の起点となるパスを要求されているわけでない。サンチェスのロングキックに、自軍ゴール背後のスタンドから皮肉を込めた歓声が上がったのは第6節ブライトン戦(4−2で勝利)。"後方ビルドアップ失敗合戦"のようでもあった試合でのこのひと幕は、2点リードでのハーフタイム突入直前、ベンチ前の指揮官が前線を指差しながら、「ロベルト!」とGKの名を呼んでリスク回避を促した結果だった。

 周囲の先入観を覆すマレスカの柔軟性は、選手の起用法にも見て取れる。たとえば、新体制下では定番の「偽SB」役。フルアム戦では左のマルク・ククレジャがこの役を担っていたが、この日の右SBだったマロ・ギュストが任せられた試合もある。左右に関して言えば、ケガで今季リーグ戦での先発が3試合に限られている攻撃的右SBのリース・ジェームズが、うち2試合で、逆サイドで先発している。

 ジェームズを含む「偽SB」担当は、1列上がって2ボランチの1枚を前線に押し上げるだけではない。ビルドアップ時には3−2−2−3となる2列目に、トップ下のパーマーと顔を揃えることもある。こうした役割の変更は試合中にも講じられる。

 前任のマウリシオ・ポチェッティーノ(現アメリカ代表監督)と比べても、より戦術的で細かい監督の注文に、平均年齢24歳未満の選手たちが応えることは決して容易ではない。だが、会見の席で、口癖のように「英語でどう言えばいいのか......」と言いながら、丁寧かつ的確に説明してみせるイタリア人監督は、選手への伝達にもぬかりはないに違いない。

 もちろん、ポチェッティーノの仕事を軽視することはできない。2022年5月からの現オーナー政権下、主力どころかチーム全体の若返りに拍車がかかった昨季、「潜在能力の寄せ集め」は、後半戦で「チーム」として機能し始めていた。最終的なトップ6フィニッシュにより、後任監督がリーグ戦控え組にモチベーションを維持させる手段と同時に、最も現実的なタイトル獲得ルートとして活用することになるカンファレンスリーグ出場権がもたらされた。

 とはいえ、その"チーム"は、後を受けたマレスカのもとで、緩急どちらでも見応えのある攻撃的スタイルを身につけつつある。相変わらずキーマンと言えばパーマーで、昨季の右ウイングではなく、より敵に注視されやすいトップ下を定位置としながら、リーグ戦18試合で計18点に直接関与している。だが、「ワンマン」ではなくなってきた。

 昨季は、パーマーにゴールもアシストもなかったリーグ戦で計8ポイントしか奪えずにいた。それが今季は、第18節までに計12ポイント。1トップとして、攻撃にタメを作ることもできれば、積極的に裏を狙う意識も強いジャクソンの9ゴール3アシストをはじめ、チームメイトによる得点面での貢献度が高まっている証拠だ。

 結果としての計38得点(2位)と35ポイント(3位)という今季プレミアでの数字により、マレスカは巷で「チャンピオンシップ・マネージャー」とは呼ばれなくなった。それは、国内2部リーグと人気シミュレーションゲームの名称にひっかけ、トップリーグでの実績がなく、オーナーの言いなりになる新監督という意味を込めた蔑称だった。

 そして、チェルシーの所有団体の顔であり、国内メディアのマッチレポートでも言及が珍しくなかった、トッド・ベーリー(ドイツ系アメリカ人の実業家)という名前を見聞きする機会もめっきり減った。この状態が後半戦でも続くようであれば、より具体的に見えてくるはずだ。近未来に長期的な成功が見込める新チェルシー像が。

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