F12025年のルーキーたちを中野信治が分析 いま求められるドライバーの資質とは?

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2024年12月30日 10:10  webスポルティーバ

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中野信治・インタビュー F1 2024シーズン総括 後編(全3回)

 現行のマシンレギュレーション最終戦となる2025年シーズン。元F1ドライバーの中野信治氏は、「現在のルールではマシン開発は煮詰まっており、2024年から勢力図に大きな変化はないだろう」と予想する。

 しかし、ドライバーラインナップに目を移すと、5人のルーキーがフル参戦を果たすなど、顔ぶれは大きく変わっている。2025年のタイトル争いの動向とともに若手ドライバーの可能性について、ホンダの若手ドライバー育成も担当する解説者の中野信治氏に聞く。

【中団グループの競争はさらに激化】

中野信治 2024年シーズンがおもしろかったのは、レッドブル、マクラーレン、フェラーリ、メルセデスの"4強"による優勝争いと、ハースやレーシングブルズなどの中団チームの争い。その両方がしっかりと分かれていて、どちらも楽しめたっていうのが大きかったと思います。

 どこか特定のチームが独走するのではなく、4チームがコース特性によって優勝争いする可能性があり、中団グループのコンストラクターズランキング争いも最終戦まで続きました。そういったスリリングな展開が2025年も続いてほしいですし、実際にそうなっていくでしょうね。

 マシンに関しては現行のレギュレーションのなかでは煮詰まってきており、勢力図は大きく変わらないと思います。ただ中団グループは2024年のシーズン終盤にアルピーヌやザウバーも速くなってきたので、競争がさらに激化していくのではないかと予想しています。

 チャンピオンシップで軸になるのはマクラーレンとランド・ノリスだと思います。スピードセンスという部分ではマックス・フェルスタッペンとノリスは互角のところにいると思いますが、マシンの競争力の部分ではマクラーレンが上です。ドライバーズ選手権ではノリスが優位になっていくでしょうね。

【ルーキーたちの評価は?】

 チャンピオン争い以外では、2025年はたくさんの若いドライバーがF1フル参戦することが大きな見どころです。メルセデスからアンドレア・キミ・アントネッリ(18歳)、アルピーヌからジャック・ドゥーハン(21歳)、ザウバーからガブリエル・ボルトレート(20歳)、ハースからオリバー・ベアマン(19歳)、レーシングブルズからアイザック・ハジャル(20歳)、レッドブルもまだF1で11戦しか走っていないリアム・ローソン(22歳)を起用します。

 若いドライバーたちがどれくらい走るのかというのは、シーズンの見どころのひとつですし、僕もすごく楽しみです。2023年のFIA F3、2024年はFIA F2で連続してチャンピオンに輝いたブラジル人のボルトレートは最大の注目株のひとりです。

 F2での戦いを見る限り、一発の速さが際立っているようには見えませんでしたが、レースは強い印象があります。ボルトレートは、"予選職人"として一発の速さに定評があるニコ・ヒュルケンベルグとザウバーで組みますが、2024年シーズン終盤にサウバーはすごく速くなってきましたし、もし予選でヒュルケンベルグに近いところにいければ、すごくおもしろい存在になりそうです。

 今年、フェラーリとハースから合計3戦出場し、2度の入賞を飾ったベアマンは間違いなく速いと思います。あとはハースの小松礼雄代表がどういう育て方をするのか。そこに注目をしていますし、メルセデスからデビューする最年少のアントネッリは爆発的なスピードはないと思いますが、能力は高い。

 ただ、アントネッリはちょっと線が細いと感じますので、本来の力を発揮するまで多少の時間はかかると思います。それでも経験を積んでマシンの特性を理解してきたら、チームメイトのジョージ・ラッセルを凌ぐ速さを見せるレースも出てくるはずです。

 フェルスタッペンの新しいパートナーとなるローソンも伸びしろはありますし、経験を積めばまだまだ速くなっていくでしょう。おそらくレッドブルは、フェルスタッペンがチームからいなくなる可能性も考慮して、将来のエース候補としてローソンを昇格させた面があると僕は見ています。彼が次のチームリーダーになれるだけの資質があるのか、前半戦を見ればある程度見えてくると思っています。

 ルーキーたちの活躍の度合いは所属チームのクルマの性能によって違うと思いますが、チームがいかにして若いドライバーたちが戦いやすい環境をつくってあげられるかがカギになります。難しい状況になることは当然シーズンを通して何度かあるはずですが、そうなった時にどうコントロールしてあげられるか。

 そこはエンジニアとドライバーとの関係次第だと思います。エンジニアがどういう教育をドライバーに施していくかというところですべてが決まると言っていいでしょう。2024年のシーズン途中からウイリアムズでデビューしたフランコ・コラピントは最初の数戦はすごくいい走りをしていましたが、後半はクラッシュが続き、結果的に2025年のシートを確保できませんでした。

 コラピントも速さはあり評価も高かったのですが、ずっと若さと勢いに任せて戦ってしまった。すごくもったいないと思いましたが、チームがうまく環境さえ整えてあげれば、コラピントのように新人ドライバーでもチームメイトに対してけっこう近いところで走るか、上回るレースもあると思います。

【新時代のドライバーに求められる資質】

 今、若いドライバーたちがいきなりF1マシンにポンと乗って活躍できるのは、現代のF1マシンが純粋に走らせるという部分でいうと、すごく扱いやすいからです。むしろ下位カテゴリーのF2やフォーミュラ・リージョナルのマシンはちょっと特殊で乗りづらいところがあります。

 だから若いドライバーたちがF1のマシンに乗ると、「ダウンフォースあるし、ブレーキも効いて止まるし、マシンの剛性もしっかりしている。すごく乗りやすい」と感じて、走れてしまうんです。

 僕も古い人間ですけど、同じような経験をしています。それこそカートからF3、現在のF2に相当するF3000とステップアップするたびに「ダウンフォースがめちゃくちゃあるし、タイヤのグリップもあって乗りやすい」と感じました。ただ僕らの時代は、下位カテゴリーからF1マシンに乗ったら、エンジンのパワーが強烈で、扱いがすごく難しかった。

 でも現代のF1は僕らの頃よりマシンが扱いやすいし、シミュレーターの精度も高いので、スピードセンスのあるドライバーだと、ゲームをするような感覚で速く走れてしまう。もちろんレース中にアグレッシブにいけるか、しっかりと守れるのか。プレッシャーに強いとか弱いとか、そういう差は出てくるのですが、目や反射神経がいい若いドライバーたちはタイムを出すだけならいけちゃうんです。

 これまでベテランが優遇されてきたのは、たとえばクルマを壊さないことですし、いろんな経験をしているのでセットアップの部分でのアドバンテージがあったからです。でもクルマづくりも大きく変わってきています、

 それまではドライバーのコメントに頼ってやってきた部分が多かったのですが、今はAIの解析システムなどをどんどん取り入れることで、ある程度のセットアップができてしまうんです。これまで重要視された経験値が100だったとすると、現在は60〜70ぐらいまで減っていると思います。

 それだけ技術が進歩してきているので、当然、ドライバーに求められる要素も変わってきています。スピードセンス、体力、柔軟性、協調性など、そういう能力が重要になってきているように感じます。

 あともうひとつ付け加えるならば、ドライバーの育成システムが機能していることも大きい。世界各国の自動車メーカーやF1チームが運営している育成システムが、若手ドライバーがF1にステップアップするまでの準備をすごく上手にやっています。だからF1に来ても、すんなり環境に馴染めています。

【ドライバー起用法の変化の裏側】

 最近、F1での若いドライバーの起用法が変わってきているように感じます。たとえばF2のような下位カテゴリーで2〜3年もかけてチャンピオンを獲ってからF1にステップアップさせるのではなく、下位カテゴリーでいきなりチャンピオンに限りなく近いところまで活躍したドライバーはすぐにでもF1に上げてしまうという流れができつつあるように見えます。

 スピードと才能のある若いドライバーをF1に上げたあと、チームが難しいコンディションの時にミスしないようにしてコントロールしながら1年をかけて成長させる。参戦2年目になっても使いものにならなかったら、下位カテゴリーからまた新しいドライバーを引っ張ってきて、どんどん入れ替えていく。

 ある意味、厳しい面がありますが、そういう若手の採用システムをF1が取り入れ始めていることを僕自身、すごくポジティブに受け止めています。

 若いドライバーたちにどんどんチャンスを与えたほうが見ている側もおもしろいし、投資する側も効率がいいという側面もあると思います。いずれにせよ2025年シーズンは若い選手がグリッドに増え、新しい時代に突入していくと感じています。

終わり

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【プロフィール】
中野信治 なかの・しんじ 
1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのカートおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を活かし、ホンダ・レーシングスクール鈴鹿の副校長として、F1参戦を目指す岩佐歩夢をはじめ、国内外で活躍する若手ドライバーの育成を行なう。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や毎週水曜のF1番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当。

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