新クルーズ船「MITSUI OCEAN FUJI」就航 激化する「富裕層の獲得競争」

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2024年12月31日 09:41  ITmedia ビジネスオンライン

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商船三井クルーズが、新しいクルーズ船「MITSUI OCEAN FUJI」を就航

 商船三井クルーズが12月、新しいクルーズ船「MITSUI OCEAN FUJI」(三井オーシャンフジ)を就航させた。拡大しているクルーズ需要の中で、新たな客層を獲得しようとしている。12月7日に就航記念イベントに参加した商船三井クルーズの向井恒道社長は「40歳から50歳くらいの働き盛りの世代にも、このクルーズ船に乗ってもらいたい」と述べ、これまで乗船していなかった年齢層にもクルーズ旅を経験してもらいたい考えを明らかにした。


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●日本郵船、ディズニー、ジャパネット、ピースボート 競争は激化


 この日にお披露目したのは、全室で海が望めるスイートルームという快適な船旅が体験できるクルーズ船「MITSUI OCEAN FUJI」(3万2477トン、客室数229室)で、クルーズ船としては中型クラス。2009年に就航した船を改装して、12月から「MITSUI OCEAN FUJI」として運航する。主に日本の港と、香港、シンガポール、ベトナム、タイなどアジアの近隣諸国を中心に回るクルーズ旅を予定しているという。直近の予約はほぼ満室だといい、順調な船出となったようだ。


●にっぽん丸と2隻体制ですみ分け


 一方、現在運航中の同社のクルーズ船「にっぽん丸」(1990年就航、2万2472トン、190室)は、日本の港を中心にクルーズさせる計画で、当面はこの2隻体制でクルーズ先をすみ分けした形にする。世界一周のクルーズは、スエズ運河通行の安全性が確保されていないこともあって、当面は計画をしていないという。


 このほか、同社ではクルーズ船を新造船で2隻造る計画もあるが、今のところ具体化はしていない。今後のクルーズ需要と乗客数の伸びなどをもとに、造船するかどうかを判断することになりそうだ。


●新しい顧客層の獲得へ


 向井社長は「週末を挟んで5〜6泊の期間で乗船できるようにプロダクトも工夫している」と話す。これまで乗船できなかった新しい顧客層の獲得に意欲を見せた。現在、にっぽん丸の年間の乗客数は2.5万から3万人で、定員数の一回り大きな「MITSUI OCEAN FUJI」が就航したことで、大幅な乗客数の増加を期待している。


 この船の仕様をみると、豪華な設備を整えており、レストランでは有名シェフの料理が堪能できるなど、随所にこの船ならではのこだわりがある。


 世界的にはクルーズ船の大型化が強まる中にあって「MITSUI OCEAN FUJI」という比較的小さなクルーズ船を運航することにより、大型船が入港できなかったアジアの寄港地にも立ち寄り、乗客に新鮮な観光体験を提供したいとしている。


 ちなみに料金は、12月8日から横浜発着で新宮、高知、釜山を回る6日間クルーズで、41万1000円から161万2000円。2025年4月の横浜発着で済州島、博多、宿毛を8日間で回るのが57万7000円から226万3000円。5月に66日間かけてベトナム、シンガポール、プーケット、バリ島、高雄などを66日間かけて回るグランドアジアクルーズは、470万円から2000万円。


 料金的には高めに設定しており、プレミアムな旅を満喫してもらおうと、内外の富裕層の乗客を取り込もうとしている。同じ層を狙っているのが、日本郵船系列で、現在、世界一周クルーズも含めて運航している「飛鳥II」を保有している郵船クルーズ。同社は2025年には新造船の「飛鳥III」を就航させる予定で、郵船クルーズと商船三井クルーズの両社、クルーズ船4隻による富裕層獲得の競争が激化しそうだ。


●増え続けるクルーズ人口


 世界のクルーズ人口はコロナ禍でいったんは落ちこんだものの、その後は回復傾向が見られる。国際客船協会(CLIA)によると、2023年は3170万人で、コロナ禍前には戻ってはいないが、力強い伸びになってきているという。このため、2027年は4000万人近い水準を予想している。


 日本はコロナ禍前の2019年に35万6000人を記録したものの、コロナ禍で2020年には2万7000人に激減した。2023年は19万6300人(外航クルーズが14万3400人、内航が5万2900人)。外航クルーズのうち日本船社によるものが3400人で、外国船主によるのが14万人となっている。クルーズ船を運営している外国船主は、日本のクルーズ人口が増えていることから、20万トンに近いクラスの大型船を日本発着のクルーズに投入するなど、日本での乗客数の拡大を見込む。


●海外富裕層の取り込みが重要


 現在の日本船主のクルーズ船は、大手海運会社系列の郵船クルーズの「飛鳥II」。商船三井クルーズの「にっぽん丸」と、今回就航した「MITSUI OCEAN FUJI」。このほか外国船では、年に3回世界一周クルーズを運航しているピースボート・ジャパングレイスや、2017年から大型船を使って日本近海クルーズを始めた家電販売ジャパネットたかた系列のジャパネットクルーズなどがある。


 こうした中で、クルーズ船事情に詳しい航海作家のカナマルトモヨシ氏は「東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが2028年度に就航を予定しているディズニークルーズの東京発着クルーズの動向は見逃せません」と指摘する。


 「当面は首都圏の港を発着する2〜4泊の短期運航とし、料金は1人10万〜30万円を想定。年間40万人の集客で、約1000億円の売上高を見込むとしています。同じくショートクルーズを提供する日本船にとって、手ごわいライバルとなる可能性は十分にあります」


 ディズニーのブランドは日本人、とりわけ子ども連れ家族にはなじみがあるだけに、郵船クルーズ、商船三井クルーズにとっては油断できない。さらにカナマル氏は「富裕層が増加しているとは言うものの、就職氷河期世代も多数存在するのが日本の40〜50代です」と話す。


 「氷河期世代が高価な日本船に乗る可能性はそこまで高くなく、国内富裕層だけに絞った日本市場の小さなパイを2社4隻で奪い合うことになりますから、激しい争奪戦になると思われます。今後は、海外富裕層の取り込みが重要になってきます。現時点では、日本船2社とも、欧米豪などの富裕層をターゲットにしているように思いますが、さらにアジア圏の取り込み戦略も描いていかざるを得ないでしょう。ただ、日本船は日本人の日本人による日本人のためのクルーズを長く手掛けてきたことで、日本人常連客の抵抗感(海外乗船者が増えること)も強いと聞きます」


 今後は郵船クルーズと商船三井の両社の対応が注目される。


●日本船主vs.外国船主 競争激化は必至


 2025年以降は日本にも本格的なクルーズが普及する時代になりそうだ。クルーズは移動が楽で効率的に観光地を回れることから、中高年に人気の旅行スタイルになってきている。こうしたことから日本船主のクルーズ船と、コスパが良いといわれる外国船主の船との間で、競争が激化することは必至で、どこまで乗客を獲得できるかが問われている。


 外国船の船は日本船のクルーズよりもクルーズビジネスでのノウハウの蓄積があり、船上でのサービス面での優位性はある。一方で日本船は、日本食や日本文化を体験してもらうなど、独自のきめ細かいおもてなしサービスによって外国人富裕層を捕まえられるため、今後は両社によるサービス競争が関心を集めそうだ。


 クルーズの客層はリピーターが多く、一度好きになると同じ船で何回もクルーズをする傾向があるため、特に最初のクルーズでどのような印象を持たせられるかが重要になる。


(中西享、アイティメディア今野大一)



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