アカデミー賞歴代最多受賞を誇る『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ3部作の世界から遡ること200年。
J・R・R・トールキンの原作『指輪物語 追補編』に記された始まりのエピソードを、実写版3部作の監督であるピーター・ジャクソンが製作総指揮し、アニメーション映画化した『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』が公開。
日本語吹替え版キャストに名を連ねる津田健次郎さん(53歳)に話を聞いた。
近年の津田さんは、声優やナレーター業のみならず、俳優としても活躍。2024年は「第53回 ベストドレッサー賞」に輝くなど、ますます人気が高まっている。そんな津田さんに、作品のことのみならず、「現在、自分は正当に評価されていない」と不満を抱える年下世代へメッセージをもらった。
◆実写版の“スケール感”が受け継がれた作品に
『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』の舞台は騎士の国・ローハン。王国の危機に、若き王女ヘラ(日本語版声:小芝風花)が立ち向かう。津田さんは、反旗をひるがえす、かつてのヘラの幼なじみ・ウルフ役を務めた。
――『ロード・オブ・ザ・リング』は世界中で人気のシリーズです。参加した感想を教えてください。
津田健次郎(以下、津田):実写版が完結しているので、まさかこのタイミングで参加できるとは思っておらず、ビックリしましたし、大変光栄だと思いました。
ウルフに関しては、非常にクセの強い登場人物をお任せいただけたので、とてもやりがいがありましたね。
――映画版のファンだと伺いましたが、シリーズおよび今回のアニメ版はどこが魅力だと感じていますか?
津田:実写版の『ロード・オブ・ザ・リング』の持つスケール感。なかでも壮大さを感じさせる風景が、魅力の大きな要素のひとつだと思います。
何もない平原を馬が走っていたり、高い崖から見下ろしていたりと、その要素は今回の『ローハンの戦い』にも受け継がれています。
あとは埃っぽさ。砂地や岩山にもシリーズを感じます。今回はアニメーションというまた違う手法ではありますが、そこを含めて非常に面白く、イチ観客として観られました。
◆脚本化の際のプレッシャーを想像すると震えます
――原作において『ローハンの戦い』に関する部分は、実はほんのわずかです。津田さんも脚本を手掛けられたことがありますが、これだけの物語になったことへの感想はいかがですか?
津田:脚本化していくときのプレッシャーたるや、尋常ではなかっただろうと思い、想像すると震えます。
オリジナルの物語で、シリーズを知らない人でも独立して楽しめますし、実写シリーズにつながる前日譚でもあり、知っている人は「おおー!」となります。特に最後のほうにカタルシスがあったりして、すごく丁寧に脚本化されていると感じました。
――ウルフにはどんな印象が?
津田:一見するとすごくクールでワイルドで、圧倒的に強そうな感じなんですけど、その実メンタル的には、人間臭いというか、幼いというか。未成熟な部分がひとつポイントかなと思いました。
◆大役を任された小芝風花さんは「違和感のない素敵な声」
――未成熟な部分がポイント。
津田:簡単にいえばダダっ子のような部分がある。心の狭いところが面白いなと思いました。
神山健治監督(『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ、『東のエデン』)は「ちょっとウルフは嫌われるキャラクターかもね」とおっしゃっていたんですが、「そうでもないんじゃないか、面白がってもらえるんじゃないか」という気がしました。
――“ダダっ子”という表現が頷けます。
津田:人間的に小さい部分が、僕も含めてですけれど、観てくださる皆さんもお持ちの部分かもしれないと思いました。あまり立派な人だと、崇めるだけで終わってしまいますが、自分たちの生きている地平にいそうな、欠陥のあるキャラクターなのが面白いと感じましたね。
――ベテラン陣に囲まれて、俳優の小芝風花さんが王女ヘラという大役を任されました。作品が始まった途端、「すごい!」といい意味で非常に驚いたのですが、津田さんは小芝さんのヘラにどんな感想を持ちましたか?
津田:アフレコでご一緒はしていないのですが、躍動感があり、それがしっかり音となってアニメーションに乗っかっていました。フレッシュな感じがすごくあって、違和感のないステキな声でした。違和感がないというのは、とても大事な要素のひとつだと思います。
◆「評価される」ことより大切だと思うこと
――もともと声の仕事で大活躍されてきました津田さんですが、ここ数年、俳優業などを含めて、さらに引っ張りだこです。そんな津田さんから、「現在、自分は正当に評価されていない」「現状が不満だ」と感じている年下世代に何かアドバイスをもらえませんか?
津田:人に認めてもらうとか、評価というものは、一番最後に来るものだと思います。つまり頑張っているときとのタイムラグがある。だから積み重ね続けるしかないと思います。
それに、評価云々よりも、自分自身が何をどれだけできたのか、やっているのかのほうが大事かなと。当然、そこには出会いや、もろもろのタイミングも大いに作用してしまうとは思います。ただ、そうしたタイミングも出会える確率を上げていくことは可能なんじゃないかと思います。
――出会いの確率を上げる。人でも物事でも、でしょうか。
津田:そうですね。最終的な決定についてはもしかしたら関知できないかもしれませんけど、いろんなことを積み重ねていくことで、面白い人やものと出会える確率は上がりますし、認めてくれる人と出会う確率も上がるのではないでしょうか。
出会えていないと思っているだけで、単に視野に入っていないだけかもしれませんし。
◆今の自分が何をどれだけできているか
――たしかに視野に入っていないということもありそうです。
津田:逃さないためにも、やはり、いまの自分が何をどれだけできているかが大切な気がします。
そもそもあまりやれていないのなら、それで評価を求めるのは違うだろうし、頑張っていると言えるのなら、積み重ねればいいと思います。しんどいことやつまらないこと、くだらないことのほうが、生きるうえでは圧倒的に多いと思いますけど。
――津田さんにもしんどい時期はありましたか?
津田:今でもそうですよ。僕らみたいな仕事は、華やかな部分がどうしても表に見えますが、8割9割は地味な作業ですから。
◆イケオジ津田さんが、さらに加えたい魅力
――2024年はベストドレッサー賞にも輝き、イケオジ街道をばく進中ですが、50代半ば、後半、60代、70代と、さらにどんな魅力を持った大人になっていけたらと思いますか?
津田:楽しくやることは大事ですが、それだけでもダメだと思うんです。人生の楽しみと余裕、力の抜け具合のようなものを感じさせつつ……。そうですね、もしかしたら“潔さ”を持つことも、大事なのかなと、今は思います。
――潔さ、ですか。
津田:何事にも100%の完ぺきを求めるのは、難しいですよね。でもだからといって妥協するのとは違う。“潔くいる”というのが、難しいけれど、かっこいいなと思います。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi