鹿児島県民なら誰もが知るご当地スーパー『タイヨー』。だが、そんな有名スーパーが一時、経営の危機に直面していたことを知る人は少ないだろう。その危機を救った女性副社長に、奇跡を起こす力を引き寄せる日々のテクニックを聞いた!
1年で黒字化し、借入金454億円を10年で返済
鹿児島県を中心に、現在93店舗のスーパーマーケットを展開する株式会社タイヨーは2012年ごろから深刻な経営危機に陥っていた。株価は上場当時の4分の1に下がり、買収の噂が絶えない状況だった。
この危機に立ち上がったのが、もともとは前社長の妻であり普通の主婦だった清川照美さんだ。
「結婚当初、創業者の義父から“照美さんは息子の嫁ではなく、タイヨーの嫁だ”と言われていましたので、夫を支えるのが自分の役目だと考えていました」
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と振り返る。しばらくは新聞や雑誌の、事業に関連する部分に印をつけ、夫の机に置いたり、夫と共に融資元の都市銀行をはじめ取引先の人々との話に加わるなどしていたという。
その後、少しずつ経営に携わるようになり、2002年から監査役、取締役を務めたが、いったん会社からは離れた。
そんな清川さんが会社に復帰したのは経営危機の噂が飛び交う2013年のこと。会社を売ることになれば、リストラは避けられず、多くの従業員は路頭に迷う。
「自分たちの手で立て直すしかない」と上場を廃止して、経営陣が株主から自社株式を買い取ることを清川さんは決意した。要した借入金は454億円! そして、さまざまな改革を推し進め、1年で黒字化し、借入金454億円を10年で返済する快挙を果たしたのだ。
そんな偉業をなしえた今も、
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「すべて部下、お取引先様、銀行様、友人たち、多くの方々に支えていただきました。感謝のひと言です」
と、控えめだ。
「タイヨーの奇跡」と称賛された清川さんの功績だが、やはりさまざまな困難が立ちはだかった。NHK『あさイチ』で「地方女性の生きづらさ」(11月27日放送)の特集が共感を呼んだように、鹿児島はいまだ男尊女卑気質が色濃く残る地域でもある。
ましてや経営を学んだこともない普通の主婦だった清川さん。反発や疑問の声が上がるのは火を見るよりも明らかで、
「周囲は敵しかいませんでしたね」
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と笑う。社内では出社すると机の上に靴の跡があったり、1か月で3回も車のタイヤに釘を打たれパンクしたり、挨拶をしても無視されることも多かった。社外でも業界紙からは“主婦が経営改革などできるはずがない”と一斉にバッシングを受け、他社の人間がタイヨーでの不買運動をしたという噂も耳に入った。
「いちばん大変だったのは上場を廃止して2年目ぐらいのころでした。眠れない、食べられない、体重は日に日に減っていくという毎日。夜になると泣く気はないのに涙がボロボロとあふれます。『たぶんこれがうつなんだろう』という状態。あまりにやせてしまい子どもたちが心配して、がん検診をすすめるほどでした」(清川さん、以下同)
454億円の借り入れをした際には、清川さん自身の個人資産もすべて担保に入れた。再建に失敗したら、無一文になるというギリギリの状況でもあった。
“願望が結果を引き寄せる”ことの大切さを知った
そこまで腹をくくる覚悟ができたのは、結婚の際の義父からの言葉“照美さんはタイヨーの嫁だ”が心の中にずっと残っていたからだと清川さんは振り返る。
これらの過酷な経験を経ても「覚悟を決めれば、八方ふさがりでも突破口は開きます」と笑顔で語る。そんな彼女の前向きな姿勢、人格はどのように育まれたのか。
「本との出合いが大きく影響していると思います。その一つが『少女パレアナ』。アニメ『愛少女ポリアンナ物語』の原作です。どんな状況からでも“喜びを探し出す”ことで、すべての困難を喜びにかえていく、そんなポジティブ思考の大切さが綴られています。
中3か高1のころに出合った作品ですが、人はいつでも幸せになれるし、いつでも不幸になれる。その人が幸せだと思えば、すべてがそのときから幸せになる。どうして私だけが、と思った時期もありましたが、生きている今に心から感謝できるようになったとき、すべてが変わりました」
と清川さん。そしてもう一冊が大学1年生のころに読んだ『マーフィーの法則』だ。
「“願望が結果を引き寄せる”ことの大切さを初めて知った本です。今では“引き寄せ”という言葉は一般的に使われていますが、私は50年も前に出合っていたんですよ。実際に経営の面でもプライベートでも何度も望んだことが良い結果につながる経験をしていますが、それはこの本がベースになっているように思います」
ここからは誰でもできるという“清川流・幸運の引き寄せワザ”をいくつか紹介してもらったので見ていこう。
◆自家発電の女になる
「年を重ねたら、重ねた分だけ自分のことを褒めるようにしています。気が滅入ったら、鏡を見て、『私はエライ! ここまでよく頑張っている、いい女だ!』と今よりさらに先の未来も想像しながら褒めてあげてください。自家発電の女になりましょう」
◆何をするにも掃除が基本
「会社を立て直すときに、まず取り組んだのが店舗のトイレ掃除。トイレ掃除をすることで、感覚が鋭くなり細部に気づけますし、空気の流れもよくなり、澱んだものが流れ出します。日々の習慣としては、朝と夕に1階、2階、玄関の入り口、床をモップがけし、鏡、窓、シンク、トイレと1回ワンセット30分くらいで日々掃除を続けています。
月ごとでいえば、場所を決めて部屋の大掃除をするのが習慣。1年間で各部屋を一巡します。大変に思う人もいますが、私にとっては歯磨きと同じレベルの習慣なのです」
◆ネガティブな雰囲気は塩を入れたお風呂で払拭
「掃除ができたら、心地よい音楽や、海の波、川のせせらぎの音などを流しましょう。私は盛り塩や観葉植物も置くようにしています。出会った人からネガティブな雰囲気を感じたときには、塩を入れたお風呂にゆっくり入るのもいいですよ」
◆自己愛で運は上がる
「以前、“自分を好きでいてあげないと、誰からも好きでいてもらえない”と言われたとき、私は“わがままでいいってこと?”などと違和感がありました。ですが、後から気がつきました。自分を好きでいるためには努力が必要です。
努力して自分を大切にできる人は、人からも大切にされ、愛されるのです。結果、良い人間関係が生まれ、素敵な方々との縁が広がります。するとチャンスも広がり、つまりは運がよくなるのです」
大きな困難を乗り越えた清川さんだが、さらなる夢があるという。それは「70歳になったらパリに住むこと」。
夢があれば、身体も頭も整えなければと、今なお公私共に多忙な日々を素敵な笑顔で過ごす清川さん。今後もぜひ夢を叶え、たくさんの奇跡を起こしていってほしい。
取材・文/松岡理恵
清川照美さん 株式会社タイヨー 取締役副社長 1958年、鹿児島県生まれ。(株)タイヨーの2代目社長の妻として長年、主婦業にいそしむ。次第に経営に関与するようになり、2013年に上場廃止を決断。約10年で454億円の借入金を完済する経営手腕を発揮。“タイヨーの奇跡”と称される。著書に『覚悟 未来に立ち向かう言葉』『スーパーな女』がある。