「申し訳ありません……」
上司から「なぜミスを隠したのか?」と問われ、若手社員は俯(うつむ)いたまま何も答えられなかった。
「そもそも、今回はどんなミスだったのか。理解できているか?」
このように質問すると、若い部下は「え!」と驚いたような声を出した。
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ミスにはさまざまな種類があり、上司と部下で認識が大きく異なることが多い。それどころか何が「ミス」で、何が「失敗」なのかも分からないと、全てをネガティブなものと捉え、ついつい「隠したい」という衝動を抑えられなくなってしまう。
そこで今回は、「ミス」と「失敗」は何が違うのか、そしてミスにはどんな種類があり、それぞれのミスに対して、どのように部下と向き合えばよいのか解説する。部下を持つリーダーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
●「ミス」と「失敗」は違う
そもそも「ミス」と「失敗」は全然違うものだ。私はある社長に、
「ミスはダメだけど、失敗は大いにやれ」
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と教えてもらった。どちらもネガティブに捉える人がいるが、実はそうではない。何が違うのか、3つの視点で分けてみよう。
1. 意識的か無意識的か
ミスは計算式を間違えたり、入力を誤ったりする「無意識的な過ち」を指す。
一方失敗は、プロジェクトが納期に間に合わなかったり、新規製品が市場で受け入れられなかったりするケースを指す。一所懸命に努力したのだが、結果や計画が期待通りにならなかったことを指すのだ。
従ってミスは無意識だが、失敗は意識的にとった行動の結果といえる。
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2. 対策の難易度
ミスはその場で修正できることが多い。とくに「ケアレスミス」などはそうだろう。「もっと集中しよう」「3回はチェックしよう」と心掛けるだけで対策できる。
一方で失敗は、意思決定プロセスや計画そのものを見直す必要があるため、どちらかというと対策の難易度は高い。対策をとる範囲も広かったり、どこに問題があるのかを特定することも難しかったりする。
3. 成功との関係性
失敗とミスの最も大きな違いがこれだ。ミスは報告書内の小さな誤りが信頼性を損なうように、成功を妨げる要因にしかならない。極力避けるべきだ。
「失敗は成功の母」とは言うが、「ミスは成功のもと」などとは表現されない。
従って失敗はミスと違い、その経験を次へ生かすことができる。失敗の数があるだけ、チャレンジ精神が高いともいえるわけだから、失敗を恐れずに挑戦することも大事だ(失敗をすればいい、というわけではない)。
●「ミス」の5つの種類を理解する
ミスと失敗の違いは、なんとなく理解できたと思う。失敗と違って、ミスはできる限り減らさなくてはいけないものだ。しかしミスにもいろんな種類がある。単なる「うっかりミス」に限らない。ミスをキチンと分類しないと、どう対策をとっていいか分からない。
それでは仕事のミスを5つに分類し、それぞれの特徴を紹介しよう。
1. ヒューマンエラーによるミス
第1に、ヒューマンエラーによるミスだ。ミスと言えば、ほとんどの人はこの分類を思い起こすだろう。
注意不足による「うっかりミス」が大半で、計算間違いやメールの宛先ミスが典型的な例だ。また指示を誤って解釈する「勘違いミス」、会議の予定を失念する「忘却ミス」、データ削除や設定ミスなどの「操作ミス」もこのタイプに含まれる。
このタイプのミスは意識と集中力が足りないことが、大体の原因だ。当然、このようなミスを繰り返すと上司から注意されることになる。
2. 知識やスキル不足によるミス
第2に、知識やスキル不足によるミスだ。
手順を知らずに間違えるなどの「知識不足」、複雑な分析作業で失敗する「スキル不足」、時代遅れの手法を使う「アップデート不足」などがある。
このタイプのミスは避けづらい。依頼された仕事をやり切ることができるか、自分では判断できないことがあるからだ。
そもそもその仕事を任せた上司側の問題かもしれない。それなりの知識、スキルがないとできない仕事を頼むときは、認識のズレがなくなるよう念入りに確認する必要がある。
3. コミュニケーション不足によるミス
3つ目はコミュニケーション不足によるミスだ。うっかりミスでもないし、知識不足によるミスでもない。
単にうまく伝わっていないがために引き起こされた「伝達不足によるミス」や、あいまいな指示が原因の「誤解によるミス」、さらには感情的な対立が影響を及ぼす「対人関係によるミス」などがあるだろう。
このタイプは伝える側と受け取る側、どちらに問題があるのか、あるいは両方に原因があるのか、しっかりと見極める必要がある。第三者が関わらないと解決できないこともある。
4. プロセス上のミス
4つ目はプロセス上のミスだ。計画を甘く見つもる「計画ミス」、飛ばしてはいけない手順をスキップする「手順のミス」、緊急タスクを後回しにするといった「優先順位のミス」などを指す。
このタイプはもともとの仕組みや制度、マニュアルに問題があることが多い。
「この手順書に書かれてある通り、プロジェクトの計画を作りました。私のミスではありません」
「緊急時の対応マニュアルの通りに実行しています。このマニュアルがおかしいです」
当事者のこのような言い分を無視して「言い訳をするな! これは君のミスだ」と断定してしまうと、根本的な解決には至らない。根が深い問題として捉える必要がある。
5. 偶発的ミス
最後は偶発的なミスである。
停電やシステム障害による「想定外の事故」や、思いがけないエラーなどの「偶然のミス」。このタイプは想定外のことで避けられない。だから万が一のことに備えて再発防止策を考えることが重要だ。
●上司が掛けるべき「一声」とは?
部下がミスを報告してきたとき、まず上司は「このミスは5つのタイプのどれに当てはまると思う?」と尋ねるべきだ。そうすることで部下は自分のミスの性質を理解できる。
もし、ミス5種類についても知識不足なら、この機会に教えてあげよう。ミスなんて、なかなか起こることではない。常に5種類を頭に入れている部下なんていないだろう。問題解決力アップにもつながるため、丁寧に対話しよう。
ヒューマンエラーによるミスなら、部下に「どうしたらこのミスを防げるか、考えてみよう」と対策を考えさせる。一緒に考える必要はない。再発防止策もレパートリーは限られている。
しかしそれ以外のタイプのミスなら、「このミスは組織全体の問題かもしれない。一緒に考えていこう」と声をかける。
知識やスキル不足によるミスなら、本人のみならず上司も対策を考えるべきだ。今回は他の人に依頼すべきだったのか、それとも仕事をしながら知識やスキルを身につけさせるべきだったか。本人の意向も踏まえて再発防止を考えよう。
コミュニケーション不足によるミスなら、組織のレポートラインなどを確認しながら丁寧に問題の箇所を特定しよう。
「Kさんから説明はなかったの?」
「いえ、ありませんでした」
「おかしいな、Kさんに説明しておいたのに……」
Kさんに問いかけたところ「うっかり忘れてました」と言うなら、Kさんによるヒューマンエラーということになる。
しかし、Kさんの「感情的な部分」に問題があるケースもある。
●感情的な部分に問題があるケース
「どうして私が新人に説明しないといけないんですか? 私が新人のときは、こんなに手厚いフォローなんてなかったですよ」
「それに、あいつの態度が気に食わないです。親身になって説明しても、ありがとうの一言も言いませんからね」
このようにKさんが言うなら、問題の根は深い。Kさんに
「ちゃんと説明しろよ。これは君のミスだぞ」
と突き放してしまうと、問題をさらに大きくする。
このように上司は丁寧な対応が必要だ。「ミス」と聞くと、「うっかりミス」をはじめとしたヒューマンエラーしか思い浮かばない人は多い。しかし、そんな先入観を上司が持っていると、部下は安心してミスを報告しなくなる。
「自分のミスじゃないのに、責められるのはいつも自分だ」と思い込み、隠すようになる。
繰り返すが、上司はミスの種類を細かく分解し、部下と一緒に考えることだ。
「申し訳ございません。ミスが発生しました」
部下にこう言われたら、
「何やってんだ! またお前かよ」
「意識が足りないんだよ。ったく!」
と反射的に叱らず、
「分かった。対策をしたら、ミスの発生原因を一緒に考えよう」
と冷静に伝えよう。そうすることで、部下は安心してミスを報告できるようになる。これをキッカケに上司と部下は信頼関係を強めるだろう。もちろん部下の成長にもつながっていくはずだ。
●著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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