日本の自動車分野と「AI」「コンピュータ技術」で連携――LenovoのルイCTOに聞く

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2025年01月07日 12:51  ITmedia PC USER

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Lenovoのヨン・ルイCTO(Emerging Technology Group シニアバイスプレジデント兼任)

 台湾企業による買収提案をきっかけに、日本の自動車業界では業界再編に向けた動きが大きな話題となっている。こうした機運の裏にあるのは、自動車世界で起きつつある技術革新だ。現在ITの世界で最も熾烈(しれつ)な開発競争が進んでいる「AI(人工知能)」を足がかりに、いわゆる“ニューカマー”の参入余地が生まれつつあることが、このような動きにつながっている。


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 ソニーとホンダ(本田技研工業)の合弁企業「ソニー・ホンダモビリティ」がAFEELA(アフィーラ)ブランドで新型電気自動車のプロトタイプを公開しているが、ソニーのような従来“ティア”に組み込まれていなかった企業がの自動車業界における存在感を増している。ホンハイ(鴻海精密工業)が日産自動車に買収を提案したという報道も、その流れの延長線だといえる。


 電動化の波と併せて、昨今の自動車ではコンピュータ制御化も進んでいる。これはNVIDIAのような最先端半導体企業の自動車業界への参入余地を高めている。スマートフォン向けSoCや通信チップで知られるQualcommも、最新製品の発表イベントの大半を自動車業界における活動報告に充てるほどには熱を入れている。


 一方、手持ちの技術を武器に、自動車の“製造工程”に深く食い込もうとするITベンダーやメーカーも複数存在している。Lenovoもその1社だ。


 前置きが長くなったが、筆者は「Lenovo Tech World 2024」の取材時に、Lenovoのルイ・ヨンCTOから自動車業界に関する話を聞く機会を得た。ヨンCTOは、LenovoにおけるAIと“新分野”の研究開発を主導する「Emerging Technology Group」のシニアバイスプレジデントも兼任している。


●第2世代自動運転はLenovoの「DNA」が生かせる


 近年、AIソリューションを提案するIT企業は多い。Lenovoもその1社であり、その戦略を実質的に率いてきたのがルイCTOだ。


 ルイCTOは2016年にLenovoに入社したが、その前は18年弱、Microsoftで研究開発に携わってきた。Microsoftでのキャリアの後半は、中国・北京の「Microsoft Asia Research(MSRA)」で中核的メンバーとして活躍した。


 MSRAはAI関連の研究で強みを持っており、ルイ氏はその実績を買われてLenovoに入社することになったのだと思われる。


 ただ、ルイCTOは現在、AI開発からは離れ、新分野の研究開発を担当している。その新分野として、「自動車」は一大トピックでもある。ルイCTOは以下のように語った。


 今回、(Lenovo Tech World 2024で)AIによる自動車コンピューティングの話題に触れた理由は、Lenovoが過去40年間にわたり、全てのコンピューティング分野で大きな成功を収めてきたことにある。PC分野ではトップで、タブレットやストレージサーバでもトップ3以内、そしてHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)でもトップに位置している。 ここで問題になるのが、「次の大きなコンピューティングのトピックは何なのか?」という点だ。私の担務がAIの責任者から“新分野”の責任者に変わる中で、自問自答してきた。そうした過程で導き出したのが、「自動車コンピューティング」の世界だ。2030年までにLenovoの持つ全てのコンピューティングパワーを新分野に集約すれば、PCやスマートフォンのような世界が自動車コンピューティングの分野でも実現できるのではないかと考えている。 過去、自動車に搭載されていたコンピュータは非常に小さいのものだった。日本ではトヨタ、ホンダ、日産といった多くの偉大な自動車メーカーが存在する。これらのメーカーの伝統的な自動車では、1台当たり100以上の「ECU(Electronic Control Unit)」が搭載されているが、1つ1つのECUは、ごくわずかなコンピューティングパワーしか備えていない。その用途も、「窓の開閉」「ワイパーの制御」といったように、非常にシンプルだ。 以前であれば、この世界はLenovoの「DNA」とは相いれないものだった。しかし、その状況もここ数年で大きく変化している。どういった変化がというと、100あまりあったECUが4〜5個の強力な「DCU(Domain Control Unit)」に置き換えられたのだ。


 厳密にいうと、DCUもECUの一種なのだが、従来のECUと比べると1基で複数の機器を制御することが特徴で、あちこちに散らばっていた単機能のECUを集約できるというメリットがある。


 DCUについて、ルイCTOは説明を続ける。


 さて、これらのDCUのうち、重要なものの1つは自動運転のためのDCUで、もう1つは「インフォテインメント(Infotainment)」のためのDCUだ。これらは、LenovoのDNAに非常に合致していると考えている。 特に自動運転のDCUについては、2024年5月に大きな変化が起きた。エンドツーエンド(E2E)の完全自動運転(FSD:Full Self Driving)が成功したことを受け、FSDのアルゴリズムの世界は第2世代へと突入することになった(筆者注:TeslaのFSDシステムの話をしていると思われる)。第1世代のFSDは、端的にいえば「ルールベース」のアプローチだ。大量のルールが書き込まれ、プログラムコードにして30万行以上と、自動運転のための非常に長い制御方法が記されていた。 一方、第2世代のE2E FSDアルゴリズムは、おおむね「ニューラルネットワーク」に基づいたもので、これに「BEV(Bird's Eye View:360度視認システム)」が加わり、私たち人間が自動車を運転するのと非常に酷似した動きをするようになった。視界に入った情報を脳で考え、その結果として右に曲がるか、左に曲がるか、あるいは加減速するかといった判断を行う流れだ。 この第2世代の自動運転が成功した理由だが、世代を移行する過程で必要なコンピューティングパワーがCPUベースのものからAIコンピューティングベースに変化したことがある。当然ながら、ルールベースのアプローチであればCPUのコンピューティングパワーが重要だが、ニューラルコンピューティングの世界ではAIコンピューティングパワーが必要だ。 Lenovoとしても、こうした世界の到来は2〜3年前には予測していた。自動車の中で必要なコンピューティングパワーも、CPUベースからAIベースになると考え研究開発を進め、今日に至っている。今回のTech Worldで発表したNVIDIAとのコラボレーションも、2年前から続いているものだ。業界でも最も強力な自動運転用DCUで、(ピーク時の演算性能は)2000TOPSを実現している。これなら、自動運転で必要なニューラルネットワークの処理をサポートできる。


 一方、インフォテインメント分野のDCUはどのようなもののだろうか。


 (重要視している)もう1つのインフォテインメント向けDCUは、まさにLenovoのDNAに合致したものだ。私たちはPC、タブレット、スマートフォンまで多くのデバイスを扱っているが、もしLenovo自身が車載用DCUを手がけたら、これらデバイスは全て接続され、単に車内エンターテインメントを提供するだけでなく、ネットワークを通して車内の別のデバイスと情報を共有できる。 例えば私がスマホを車内に持ち込んで音楽を聴こうとした場合、標準では2つのスピーカーでしか聴けないが、車内であればより多くのスピーカーで聴ける。12個のスピーカーが搭載されていれば、それらを駆使して7.1チャンネルのサウンドを楽しむことも可能で、より良い体験を得られるだろう。 少し視点を変えると、DCU単体では提供が難しくても、車内に持ち込んだスマホやタブレットを駆使することで提供できるサービスもある。


●「自動運転AI」はどこまで信用できるのか?


 先日の「Snapdragon Summit」のレポートでも触れたが、AI半導体の現状は“日進月歩”という言葉が似つかわしい。


 取材を通して得た印象的なコメントの1つとして、「コンシューマーの世界では、AI推論で求められる回答は『スピード』『消費電力』重視であり、『精度』はそこまで求められない。逆に、自動車の自動運転を担うADASでは『精度』こそが重要であり、目的を考えなければならない」というものがある。繰り返しだが、AIの世界は非常に進化が速い。一方で、従来の自動車業界では特に安全性を重視する観点から実装に慎重になりがちだ。メーカーだけでなく自動車のユーザーも「完全コンピュータ制御による自動運転をどこまで信用できるのか?」という疑問を間違いなくもっている。


 この疑問について、ルイCTOは自身の考察も踏まえて以下のように説明する。


 あなた(筆者)が日本から来た記者ということを踏まえていうが、ぜひ日本の偉大な自動車メーカーの方々に向けても、この話題を取り上げてほしいと思っている。 今回のTech Worldの基調講演において、NVIDIAのジェンスン・ファンCEOも触れたと思うが、自動車の自動運転は、実際にはロボットの自動運転と非常に似ているということだ。これは事実であり、第2世代の自動運転アルゴリズムも同様だ。 E2E FSDが実現できたのはつい最近で、歴史上初のことだったが、ロボットと自動運転の両方には、統一されたフレームワークが存在している。つまり、自動運転車は全て「動くロボット」と見なしてもいい。 しかし、あなたが抱くような懸念ももっともであり、(自動運転における)信頼性と信用性は非常に重要≫だ。Lenovoのシステムを紹介すると、サイバーセキュリティ面では、最高峰である「レベルD」を達成しており、ISOの定める基準も満たしている。これは私たちのみならず、NVIDIAとの強力で実現したものでもある。


 PCやスマホなどのコンシューマ製品と比べると、車載機器には、はるかに高い安全性と信頼性も備えなければならない。そのため、私たちは車載システムがコンシューマ向けのものよりも安全かつ堅固であるために、多大な労力を費やしている。 ユーザーが抱く懸念ももっともであり、NVIDIAのみならずQualcommといった関連パートナーとも協力することで、(Lenovoは)私が見る限り最も信頼できるコンピューティング装置を構築していると考えている。私たちにとって、(メーカーら顧客を含む)市場がどれほど大事なのか、新分野における重要性について改めて強調しておきたい。


 冒頭の説明にあるように、Lenovo自身がAI分野では最先端企業の1社であり、すでに国内の主要PCメーカーとして多くの企業とコラボレーションをしている。しかし、自動車業界にとっては“ニューカマー”である。


 この点を踏まえて、ルイCTOは日本市場、特に業界を支配する自動車メーカーを非常に意識した発言をしていたように思う。今後5〜10年で大きく市場が動くことを踏まえ、各社は次の一手を常に考えているというのがうかがえる話だったと思う。



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