NBAを目指す富永啓生が語った決意 Gリーグ所属チームのHCに聞く苦闘の理由

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2025年01月08日 17:21  webスポルティーバ

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日本屈指のシューター・富永啓生がGリーグで厳しい状況に置かれている。大黒柱として活躍したネブラスカ大を卒業し、日本代表としてオリンピックの舞台に立ち、NBA挑戦を続けているが、マイナーリーグに当たるGリーグでは現在、出場機会すら与えられない試合が多い。

富永が所属するインディアナ・マッドアンツのヘッドコーチが語るその理由、そして富永が2025年に向けた新たな決意とはーー。

【前向きな姿勢は変わらずも厳しい年越しに】

 インディアナ・マッドアンツの富永啓生は2024年12月30日、ニューヨークでの試合後、怒涛の日々だった2024年をしみじみと振り返った。

「いい経験をしていると思います。大学のラストシーズンから始まり、オリンピック、Gリーグといろいろな場所で1年間やってきた。もっと成長しなければいけない部分も、明確になってきています」

 日本が誇るシューターがネブラスカ大を卒業し、アマチュアからプロへの階段へと踏み出した年だった。カレッジでの最終年は平均15.1得点を挙げ、全米的な注目選手に。"史上最強"と称された日本代表の一員としてパリ五輪に臨み、その後の動向が注目されていたなか、NBAインディアナ・ペイサーズと開幕前のキャンプ参加を前提にしたエグジビット10契約を結ぶと、Gリーグ(マイナーリーグ)でのデビューも果たした。

 本人の言葉どおり、この1年間でNCAAトーナメント、パリ五輪、Gリーグのゲームにすべて出場した選手がどれだけいるだろう?

 激動の2024年のなかで真っ先に思い出す景色は? と問うと、「やっぱりオリンピックは大きな舞台でした。あとカレッジ(のNCAAトーナメント進出)も」と遠くを見つめながら答えた。

 富永のバスケットボールのキャリアだけでなく、人生の財産になった時間であることは間違いない。その最後に、盟友・河村勇輝同様にNBAのステージにまで到達していたら、最高の締めくくりになっていたのだろう。しかしーー。

 プロでの富永は、厳しい状況を経験している。Gリーグではこれまで前半戦にあたるティップオフ・トーナメント、後半戦のレギュラーシーズンを合わせて出場できたのは合計12試合。平均6.4分プレーして1.0得点(FG成功率21.7%、3ポイント成功率13.3%)、0.7リバウンド、0.3 アシストと苦戦している。DNP(監督判断での不出場)に終わるゲームも多く、プロの壁を思い知らされる形になっている。

 12月30日、1月1日とニューヨークで行なわれたウェストチェスター・ニックスとの2連戦でも出番はなく、現状を語る際には表情が曇っていた。

「もちろん思い描いていたのとは、ちょっと違うところにいます。試合に出たいなって気持ちはもちろんあります。そのなかでも我慢して、とりあえず練習中からアピールしてやっていければと思っています」

【シュート力は折り紙つきだが......】

 2024年の歩みをたどれば、一見華やかな日々にも映るが、バスケファンならご存知のとおり、苦闘はパリ五輪中から始まっていた。オリンピック出場権を獲得した2023年ワールドカップでは1試合平均17.9分のプレータイムを得たが、パリ五輪本番では同2.6分。日本代表のローテーションから外れた言える数字であり、得意の3ポイントシュートの成功数はゼロに終わっている。同じ流れはGリーグのマッドアンツでも続いている。

 このようにプレータイムが激減の一途を辿っている理由は、どこにあるのか。30日の試合後、マッドアンツのトム・ハンキンスHCに話を聞くと、Gリーグでの冨永がベンチにほとんど縛りつけられている要因は明快だった。

「ディフェンスは彼にとって非常に難しい課題になっている。彼のシュート力はみんながわかっているし、人間性もすばらしい。あとは身体を強くし、ディフェンス面で向上しなければいけない。(Gリーグで対戦している)選手たちとの体格、運動能力の差は見てとれるはずだ。

 接戦になると、彼の出場機会を見つけるのは本当に難しい。相手チームは攻撃的に攻めてきて、彼のサイズ不足を利用されてしまうからだ」

 NCAAトーナメントの3Pコンテスト優勝の実績が示すとおり、富永のシュート力は紛れもなく本物だ。ディフェンスに難があることはネブラスカ大時代から指摘されていたが、それでもジャンパー特化で全国区に近い存在にまで上り詰めたのは見事だった。"もしかしたらこの勢いをプロでも保てるのでは?"と周囲に思わせたことは、その独特の魅力とスター性によるものだろう。

「"やってみなければどうなるか、わからない"という未知数の要素が強い選手だった。カレッジ時代は卓越した得点力を発揮していたが、それがプロレベルでどう出るかは想定するのが難しかった」

 米国内で活動するある代理人は、そう話していたが、ペイサーズもまた、富永のその稀有なシュート力と思いきりのよさが、不足部分を凌駕できると考えたのかもしれない。

【新たな決意を持って挑む2025年】

 ここまでは、厳しい現実を突きつけられている。富永のシュート力を高く評価していた渡邊雄太(現・千葉ジェッツ)はかつて、「啓生は基本的にはシューター特化でいい」と話してはいた。それと当時に、「まずディフェンスは最低限うまくならなければいけません」とも述べていたのが忘れられない。

 少なくとも現状では、富永の守備力はプロレベルでの"最低限"に到達していないということだ。本来であればポイントガード(PG)の高さと言える188cmという身長でシューティングガード(SG)のプレーをする富永にとって、守備面が出場機会を得るうえでの致命傷になっている。

「もちろんディフェンスは、自分が一番成長しないといけないと思っています。慣れが大きいのと、あとはフィジカルな部分。その部分でアピールしていかないといけないですし、練習中からやろうっていう意志は出しています」

 守備面の向上に関して、そう述べていた富永だが、もともと苦手だった分野で今後、どれだけ改善していけるか。

 ハンキンスHCが「ウェイトトレーニングは必要だ」と話すように、フィジカル強化は必須。その上でポジショニングの大切さを理解し、チーム戦術のなかで有効に動けるようにならねばならない。

 ルーキーとしてはもう若いとはいえない23歳という年齢で、これから大きく進歩するのは容易なことではない。ただ、それをやり遂げなければ、世界最高峰の世界では生き残れない。相当な覚悟が必要ななか、少なくともアメリカでのプロキャリアという意味では、富永は早くも正念場を迎えているのだろう。

 現地1月3日に発表されたGリーグ・オールスターゲームのファン投票で、富永は5位にランクイン。プレー機会が増えないなかでも変わらぬ根強い人気は、そのプレースタイルと爆発力の魅力を物語る。カレッジ時代も1年目は出場機会の確保に苦しんだが、2年目以降は"和製ステフィン・カリー"と称されるような、確実な成長を見せた。そんな選手だからこそ、この苦境を脱することを多くのファンが望んでいる。

「すべての面でレベルアップして、試合に出られるように頑張ってやっていかなきゃいけません。選手として、もっともっとレベルアップしていけたらいいなと思っています」

 新たな決意を持って迎える正念場。今から1年後、2025年を振り返った時に、去年と同じように、「いい経験ができた」と振り返ることができるような年になることを願いたいところだ。

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