【平成の名力士列伝:千代大海】昭和的な武勇伝そのままに平成の土俵でツッパリ続けた名大関

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2025年01月11日 07:10  webスポルティーバ

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連載・平成の名力士列伝27:千代大海

平成とともに訪れた空前の大相撲ブーム。新たな時代を感じさせる個性あふれる力士たちの勇姿は、連綿と時代をつなぎ、今もなお多くの人々の記憶に残っている。

そんな平成を代表する力士を振り返る連載。今回は、数々の劇的なエピソードを土俵に残し続け、大関として史上最長在位を誇った千代大海を紹介する。

連載・平成の名力士列伝リスト

【「大分の龍二」から角界入りへ】

 昭和の相撲界は、「地元で負け知らず」のはみ出し者が、全国の力自慢たちがひしめくなかで己の限界を知り、挫折を味わいながらも乗り越え、一人前の力士として成長していく場でもあった。平成の相撲界でそんな伝統を受け継ぎ、ドラマチックなエピソードの数々に彩られ、強烈な輝きを放ったのが、「ツッパリ大関」千代大海だ。

 人呼んで「大分の龍二」。中学時代、柔道で九州大会優勝、空手でも九州大会3位に入るなどの抜群の格闘センスは社会のルールのなかに納まらず、10人以上の高校生をたったひとりで相手にしてたたきのめすなどの武勇伝を、数々残した。そんな「ツッパリ」は九州で一、二を争う暴走族のリーダーとしてその名を轟かせ、何度も警察の厄介になった。

 中学卒業後、鳶職に就いたが、女手ひとつで育ててくれた母の「力士になってほしい」との思いを知り、親孝行のために大相撲入りを決意。「どうせなら、いちばん強い人のところに」と、元横綱・千代の富士の九重部屋を訪れ、初めて会った瞬間、一時代を築いた「ウルフ」のオーラに圧倒された。「この人にはかなわない」と思い知り、金髪リーゼントで剃り込みの入った髪型を一喝されると、すぐさま丸刈りになって出直して入門を許され、平成4(1992)年11月場所で初土俵を踏む。初めて番付についた平成5(1993)年1月場所でいきなり序ノ口優勝するなど順調に出世し、平成9(1997)年9月場所、21歳で新入幕を果たした。

 取り口は「ツッパリ(突っ張り)」一本。師匠の指導で入門直後から迷いなく磨き続けた突っ張りには、重くて速い、唯一無二の破壊力が備わり、猛威を振るった。なかでも印象的なのが、新関脇の平成10(1998)年7月場所9日目の前頭2枚目・武双山との一番だ。

 激しい突っ張り合いから、いつしか互いに足を止め、相手の顔面目掛けて強烈な張り手を繰り出し合う、ボクシングのような攻防を展開。最後は千代大海が敗れたものの、激しい突っ張りが対戦相手の闘志にも火を着けた一番として、今も相撲ファンの語り草になっている。

【劇的な初優勝劇から息の長い大関へ】

 ケンカで鍛えた勝負度胸がいかんなく発揮されたのが、関脇4場所目の平成11(1999)年1月場所。1敗で単独首位の横綱・若乃花を1差で追って迎えた千秋楽、直接対決を突き落としで制して2敗で並んだ。優勝決定戦では、押し込んだ土俵際で引かれて、ほぼ同時に土俵を飛び出した。軍配は若乃花に上がったが物言いがつき、取り直しに。今度は若乃花に左四つに組み止められたが、強気に前に出て寄り倒し、初優勝を果たして大関昇進を果たした。

 優勝決定戦での取り直しという史上初の展開に加え、入門前、やんちゃだった頃のエピソードがテレビのワイドショーなどで広く報じられ、「ツッパリ大関」の誕生に日本中が沸き立った。

 その後も2回の優勝を果たすなど強豪大関として活躍し、横綱昇進を目指しながら果たせないまま土俵を務め続けるうちに、若い頃とは一味違う、ベテラン大関としての味わいも備わってきた。心の支えとなったのが、同じ大関で4歳上の魁皇だ。

 力が衰えてなかなか優勝争いに絡めず、横綱昇進も難しくなってきた頃、「お前が老け込むのはまだ早い」との励ましを受けて土俵に上がり続け、大関在位の史上最多記録を更新。65場所務めた末についに陥落した平成22(2010)年1月場所3日目、その魁皇に敗れた一番を最後に、突っ張り一筋の、18年間の土俵生活に別れを告げた。

 引退から6年後の平成28(2016)年、師匠の急死に伴って九重部屋を継ぎ、現在は九重親方として後進の指導にあたっている。時代は平成から令和に移り、かつての「九州の龍二」のようなやんちゃな新弟子は姿を消し、他のプロスポーツと同様、相撲経験者の入門が主流となりつつある。しかし、新弟子がプロの厳しさを知り、挫折を味わいながらも乗り越え、一人前の力士として成長することに変わりはない。

 誰よりも濃密にそんな経験をした千代大海は、昭和の伝統を令和に受け継ぎ、魅力的な弟子を育てるべく、奮戦を続けている。

【Profile】千代大海龍二(ちよたいかい・りゅうじ)/昭和51(1976)年4月29日生まれ、大分県大分市出身/本名:須藤龍二/所属:九重部屋/初土俵:平成4(1992)年11月場所/引退場所:平成22(2010)年1月場所/最高位:大関

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