2024年11月の米国大統領選で当選者となったドナルド・トランプ氏は、連邦政府職員の大規模な人員削減を計画している。一方で連邦政府は、これまで職員の採用において多様性や公平性を重視してきた。トランプ氏は“本当に”人員削減を実現するのか。人員削減が実現した場合、米国ではどのような問題が発生するのか。解雇された職員の受け皿はあるのか。
●米政府職員の多様性の実態とは
トランプ氏は政府の支出見直しや削減を実施する組織「DOGE」(Department of Government Efficiency:政府効率化省)を新政権に新設する計画だ。DOGEは連邦政府の予算と人員の削減を目指しており、計画が実現すれば連邦政府機関の職員数は大規模に減少する見通しだ。
トランプ氏はDOGEの設置を通じて、「DEI」(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)施策を廃止する計画を進めている。DOGEをトランプ氏と共に率いる技術系実業家イーロン・マスク氏は2024年1月、X(旧Twitter)の投稿で、DEIは「不道徳」で「違法」なものであり、「人種や性別に基づく差別だ」と批判した。
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一方、米連邦政府は従来、職員の採用において人種や性別におけるDEIを重視することに加え、退役軍人も優先的に採用してきた。米労働省労働統計局(BLS:Bureau of Labor Statistics)が2024年3月に公開したデータによると、2023年8月時点で職業を持つ退役軍人の31.4%は連邦政府や州政府、地方政府で働いている。
米連邦政府の多様な人材の採用を促進する連邦平等機会採用プログラム(FEORP:Federal Equal Opportunity Recruitment Program)が2024年9月に公開した2022年会計年度報告書によれば、連邦政府職員全体に占める黒人のエンジニアの割合は25.2%(約8万1000人)だった。
●辞めた職員を喜んで迎えるIT分野も
連邦政府職員の数が減少すれば、職員の多様性は損なわれる恐れがある。シンクタンクのBrookings Institution(ブルッキングス研究所)の研究員、ロバート・マキシム氏は、「連邦政府職員を50%以上削減すれば、社会的マイノリティーが政府機関で就労する機会を奪うことになる」と指摘する。その結果、全米の失業率が上昇する恐れがあるという。
マキシム氏によると、トランプ氏率いる新政権が大規模な職員の削減を実行できるかどうかは不透明だ。欠員を補充しないまま業務の外部委託を進めれば、米国におけるDEI推進の道は止まると同氏は警告する。
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失業した連邦政府職員の民間企業での就業は難しくなる恐れがある――。労働市場調査会社Janco AssociatesのCEO、ビクター・ジャヌレイティス氏はこう述べる。ITエンジニアとして民間企業で就業するためには、新たなスキルを獲得する必要があるという。就業に当たって、学位を持ち低賃金でも意欲を持って働く若いITエンジニアとの競争に直面する可能性があるためだ。
一方で、大量失業の恩恵を受けるIT分野もあると指摘するのは、労働市場調査会社Foote Partnersの主任アナリスト兼最高研究責任者であるデビッド・フット氏だ。フット氏によると、サイバーセキュリティをはじめとする人材の需要が高い分野での就業はそれほど困難ではない。「連邦政府には高いスキルを持つサイバーセキュリティエンジニアが多数勤務している。そのような人材が解雇された場合、民間企業はすぐに採用するだろう」(同氏)
本記事は米国TechTargetの記事「Trump's federal cuts could undo diversity gains」を翻訳・編集したものです。一部、翻訳作業に生成AIを活用しています。