IntelのデスクトップPC向け新型GPU「Intel Arc B570 Graphics」を搭載するグラフィックスカードが1月16日から順次発売される。実売価格は4万円台半ば〜5万円弱が見込まれている。
発売に先駆けて、インテルからASRock製グラフィックスカード「Intel Arc B570 Challenger 10GB OC」を借用できたので、先行発売された上位モデル「Intel Arc B580 Graphics」と性能を比べてみようと思う。
●Intel Arc B570 Graphicsの概要
Intel Arc B570 Graphicsは、「Battlemage(バトルメイジ)」というコード名で開発が進められてきたGPUの1つだ。SoCはTSMC N5プロセスで生産された「BMG-G21」で、上位モデルであるArc B580と同じだ。ゲーミングにおけるターゲット解像度もフルHD(1920×1080ピクセル)〜WQHD(2560×1440ピクセル)となる。
|
|
ただし、Arc B570では一部のXeコアを停止させるなど、性能面での差別化を図っている。主なスペックは以下の通りだ。
・レンダースライス:5基
・Xeコア:18基
・Xe Vector Engine(XVE):144基
・Xe Matrix Engine(XMX):144基
|
|
・RTユニット:18基
・ゲームクロック:2500MHz
・最大クロック:2750MHz
グラフィックスメモリ:10GB(GDDR6/160bitバス)
・メモリ帯域:毎秒380GB
|
|
接続バス:PCI Express 4.0 x8(インタフェースはx16仕様)
消費電力:150W
・推奨電源能力:600W
対応API:DirectX 12 Ultimate/Vulkan 1.4(※1)/OpenGL 4.6/OpenCL 3.0
映像出力ポート:DisplayPort 2.1(UHBR13.5対応)×3+HDMI 2.1a×1
・DisplayPortの最大解像度:8K(7680×4320ピクセル)/60Hz
・HDMIの最大解像度:8K/120Hz
・HDR:対応(HDR10/HDR10+ Gaming/Dolby Vision)
・Adaptive Sync:対応
メディアエンジン:2基
・エンコード/デコード対応コーデック:H.264(AVC)/H.265(HEVC)/AV1/VP9
・デコードのみ対応:XAVC-H
(※1)Vulkan 1.4対応グラフィックスドライバは後日提供(2025年第1四半期予定)
Arc B580と比べると、Xeコアが2基削減された。その影響で、浮動小数点演算を担うXVEが16基、行列演算に強みを持つXMXが16基、RTユニットが2基、それぞれ減らされた。また、グラフィックスメモリの容量や帯域幅も削減されている。
その代わり、定格消費電力は40W低下した……のだが、推奨電源容量は600Wと不変だ。余裕を見て600Wとしたのか、実質的な消費電力は変わらないので600Wのままとしているのか、その辺は釈然としない。
Arc B570の動作要件
Arc B570を搭載するグラフィックスカードの動作要件は、Arc B580と変わりない。2025年1月現在、以下のCPUとチップセットを備えるPCで利用可能だ。ただし、マザーボードとCPUの双方が「Resizable BAR(Smart Access Memory)」をサポートしている必要がある。
・Intel製
・第10/第11世代Coreプロセッサ+Intel 400/500シリーズチップセット(※2)
・第12〜14世代Coreプロセッサ+Intel 600/700シリーズチップセット
・Core Ultra 200Sプロセッサ+Intel 800シリーズチップセット
AMD製
・Ryzen 3000/5000プロセッサ(※3)+AMD 500シリーズチップセット
・Ryzen 7000〜9000プロセッサ(※4)+AMD 600/800シリーズチップセット
(※2)マザーボードによってはResizable BARを有効化できない場合あり(有効にできるかどうかはメーカーに問い合わせてほしい)(※3)Ryzen 3000Gシリーズは非対応(PCI Express 4.0バス未装備のため)(※3)Ryzen 8500Gシリーズで使うとパフォーマンスが低下する(PCI Express 4.0バスが4レーンに制限されるため)
●「ASRock Intel Arc B570 Challenger 10GB OC」の概要
前回レビューしたArc B580とは異なり、Arc B570にはIntel純正グラフィックスカードが用意されない。そのため、本GPUではサードパーティー製グラフィックスカードしか選択肢がない。
筆者が調べてみた限り、Arc B570を搭載するグラフィックスカードは基本的に「オーバークロック(OC)品」だ。よって、先述したスペックよりも最大動作クロックや消費電力が高めに設定されている。
その名の通り、今回レビューするIntel Arc B570 Challenger 10GB OCもOCカードとなる。製品情報によると、エンジンクロック(=ゲームクロック)は定格から100MHz増しの2600MHzに設定されているそうだが、最大クロックについては記載がなかった。推奨の電源容量は定格と同じ600Wで、GPU補助電源も「8ピン×1」と定格通りだ。
本カードは2連ファン構造で、ぴったり2スロット厚(約41mm)に収まっている。ただし、冷却機構がブラケットよりも少し幅を取る(約132mm)。そのため、ブラケット横のクリアランスが少ないケースでは、少し干渉するかもしれない。
背面にはメタルバックプレートが設けられており、カード自身の強度もしっかりと確保されている。
映像出力端子は定格通りの仕様で、DisplayPort 2.1(UHBR13.5対応)×3+HDMI 2.1a×1という構成となっている。Intel Arc B580 Limited Editionと同じく、DisplayPort 2.1a出力のプライマリーは中央のポートとなっており、対応ディスプレイでデイジーチェーン(数珠つなぎ)接続を行う場合は、この端子を使う必要がある。
●Arc A570の実力をチェック!
ここからは、Arc B570の実力をチェックしていく。今回のグラフィックスドライバーはテスト版の「バージョン6256」を利用した。参考として、前回のテストで計測したArc B580(Intel Arc B580 Limited Edition)と「Intel Arc A580 Graphics」(ASRock Arc A580 Challenger 8GB OC)結果も掲載する。
使うPCは「Intel NUC 13 Extreme Kit」のCore i9-13900K(Pコア8基16スレッド+Eコア16基16スレッド)モデルで、UEFI(BIOS)とOS(Windows 11 Pro)は最新バージョンにアップデートしている。メモリは64GB(32GB×2/DDR5)、ストレージは1TBのSSDだ。
3DMark
まず、3Dグラフィックスの能力を試すべく、ULの「3DMark」における主要なテストを実施した。総合スコアは以下の通りだ。
・Fire Strike(フルHD/Direct 11)
・Arc B570:2万7715ポイント
・Arc B580:3万1441ポイント
・Arc A580:2万2613ポイント
Fire Strike Extreme(WQHD/Direct 11)
・Arc B570:1万2902ポイント
・Arc B580:1万5536ポイント
・Arc A580:9434ポイント
Fire Strike Ultra(4K/Direct 11)
・Arc B570:6742ポイント
・Arc B580:7937ポイント
・Arc A580:4852ポイント
Time Spy(WQHD/DirectX 12)
・Arc B570:1万3392ポイント
・Arc B580:1万1564ポイント
・Arc A580:1万1564ポイント
Time Spy Extreme(4K/DirectX 12)
・Arc B570:6443ポイント
・Arc B580:7579ポイント
・Arc A580:5843ポイント
Port Royal(RTテスト/DirectX 12)
・Arc B570:6712ポイント
・Arc B580:7905ポイント
・Arc A580:5693ポイント
当たり前かもしれないが、Arc B570のスコアはArc B580よりも低い。超単純にXeコアの数をベースに考えるとスコアは1割減となるが、実際はグラフィックスメモリの容量やバス/帯域幅にも若干の差があるため、実際には処理によって12〜16%程度のスコア差が生じる。
とはいえ、Arc A580と比べるとスコアは良好だ。前世代には同クラスのデスクトップ向けGPU(SoC)が存在しないため比較はできないものの、PCゲーミングの入門には十分な性能は確保できている。
では「GeForce RTX 4060」と比べてどうかという点だが、環境が異なる前提でITmedia PC USERで行ったテストやULのWebサイトで確認できる結果と比べると、同等かそれ以上の性能は確保できている。グラフィックスメモリが10GBと、GeForce RTX 4060よりも2GBほど多めなのが奏功しているのだろうか。
ただ、Arc B570の定格消費電力は150Wで、GeForce RTX 4060の115Wよりも45W高い。消費電力当たりの性能(ワッパ)という観点に立つと、若干不利な面は否めない。
FF15ベンチマーク
続けて、実際のゲームをベースとするベンチマークテストを代表して「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(FF15ベンチマーク)」を試してみた。各解像度におけるスコアは以下の通りだ。
・フルHD(1920×1080ピクセル)
・Arc B570
・標準画質:1万4277ポイント
・高画質:9553ポイント
Arc B580
・標準画質:1万6310ポイント
・高画質:1万1085ポイント
Arc A580
・標準画質:1万1480ポイント
・高画質:7788ポイント
WQHD(2560×1440ピクセル)
・Arc B570
・標準画質:1万2ポイント
・高画質:7397ポイント
Arc B580
・標準画質:1万1478ポイント
・高画質:8302ポイント
Arc A580
・標準画質:8183ポイント
・高画質:5929ポイント
4K(3840×2160ピクセル)
・Arc B570
・標準画質:5513ポイント
・高画質:4457ポイント
Arc B580
・標準画質:6353ポイント
・高画質:5102ポイント
Arc A580
・標準画質:4425ポイント
・高画質:3551ポイント
スコアの傾向は3DMarkと同様で、Arc B570はArc B580比で11〜14%ほど低く、Arc A580よりも確実に高い。フルHD解像度であれば快適なプレイは約束されたものだと考えてよいだろう。WQHD解像度でも、標準画質であれば十分にスムーズで、高画質でも描画の引っかかりはほとんどない。
さすがに4Kの高画質ともなると、描画が一瞬引っかかる場面も見られた。ただ、このGPUのターゲット解像度はフルHD〜WQHDなので、そう考えれば許容はできる。
Procyon Computer Vision
続けて、ULの総合ベンチマークテストソリューション「UL Procyon」を使って、GPUベースのAI(人工知能)処理に関するテストを行う。
まず、画像認識のパフォーマンスを試す「AI Computer Vision」テストを実施した。本テストでは演算精度を3種類(Intenger/Float16/Float32)から、利用するAPIをWindows版では4種類(Direct ML/TensorRT/OpenVINO/SNPE)から選択できるが、今回は全ての演算精度をWindows MLとOpenVINOを使ってテストを行った。スコアは以下の通りだ。
・Direct ML
・Arc B570
・Intenger(整数演算):180ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):1238ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):661ポイント
Arc B580
・Intenger(整数演算):196ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):1316ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):735ポイント
Arc A580
・Intenger(整数演算):212ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):443ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):447ポイント
OpenVINO
・Arc B570
・Intenger(整数演算):2386ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):1752ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):773ポイント
Arc B580
・Intenger(整数演算):2613ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):1908ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):855ポイント
Arc A580
・Intenger(整数演算):1306ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):947ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):460ポイント
基本的にスコアはArc A580よりも高く、Arc B580よりも低いという結果だ。Arc B570は、Arc B580比で6〜10%パフォーマンスが低い。3Dグラフィックス関連のテストと傾向は変わらないのだが、スコア(パフォーマンス)差は少ない。
API間の比較では、Intelにとって事実上のネイティブAPIであるOpenVINOを使うとパフォーマンスが改善する。
ところで、Direct MLを使うと整数演算だけは旧世代(Arc A580)の方が高スコアという現象は前回と同様だ。これは何度テストを繰り返しても変わらなかった。
Procyon AI Image Generation
続けて、Procyonに内包されている画像生成AIのパフォーマンステスト「AI Image Generation」を試してみた。このテストでは生成AIモデルとして「Stable Diffusion」を使っており、今回はOpenVINO APIによる軽負荷の「INT8」テストと、中負荷の「FP16」テストを実施した。スコアは以下の通りだ。
・INT8(8bit整数)テスト
・Arc A570:7677ポイント
・Arc B580:9657ポイント
・Arc A580:5162ポイント
・FP16(半精度浮動小数点数)テスト
・Arc A570:1177ポイント
・Arc B580:1487ポイント
・Arc A580:833ポイント
やはりArc A580よりも高く、Arc B580よりも低いスコア……ではあるが、その差は約21%になった。Xeコアの数だけでなく、グラフィックスメモリの容量や帯域幅の差が大きく影響したものと思われる。
Procyon Video Editing
最後に、メディアエンジンの性能を試すべくProcyonに内包された動画編集テスト「Video Editing」を実行してみた。本テストは「Adobe Premiere Pro」を使って動画の作成に掛かった時間からスコアを算出するのだが、今回はGPUアクセラレーションを“オン”にした上で、スコアではなく処理にかかった時間を比べてみよう。結果は以下の通りだ(★印が付いているものはGPUアクセラレーション有効)。
・フルHD/重量★
・Arc A570:44.1秒
・Arc B580:39.9秒
・Arc A580:33.4秒
フルHD/軽量
・Arc A570:38秒
・Arc B580:34.3秒
・Arc A580:29.6秒
4K/重量★
・Arc A570:92.1秒
・Arc B580:82.8秒
・Arc A580:76.7秒
4K/軽量
・Arc A570:84.6秒
・Arc B580:77.4秒
・Arc A580:69.8秒
前回のArc B580のテストでは、先代のArc A580よりも書き出しが遅いという現象が発生した。この状況に変わりがないとすると、Arc B570の書き出しはArc B580と同じか、さらに遅いという結果が予想できる。
実際に試してみたところ、上記の通りArc B580よりもさらに遅くなってしまった。重い処理がCPU処理よりも圧倒的に高速であることに変わりはないのだが、この結果はどうしても気になってしまう。Premiere Proかグラフィックスドライバがこなれると、より高速になるのだろうか……?
●消費電力は?
Intelは、Arc B500シリーズの「ワッパの良さ」を強くアピールしている。しかし先述の通り、最大消費電力だけを見ると、GeForce RTX 40シリーズと比べると不利であることは確かだ。
実際のところどうなのか、システム全体の消費電力を比較してみよう。今回は先のベンチマークテストで使ったシステムで「アイドル状態」の時の最小消費電力と、3DMarkのTime Spy Extremeを実行している際の最大電力をワットチェッカーで計測した。結果は以下の通りだ。
・Arc B570
・アイドル時:75W
・最大時:316W
Arc B580
・アイドル時:75W
・最大時:320W
Arc A580
・アイドル時:85W
・最大時:377W
今回テストしているのはOCモデルだ。ゆえに「下手したら定格通りのArc B580よりも消費電力大きくなるのでは?」と不安だったのだが、僅差ではあるもののArc B570はArc B580よりも少し消費電力を抑えられている。
GeForce RTX 4060と比べると、アイドル時の消費電力が高いことは確かだ。ただ、Arc Graphicsの世代間比較ではワッパは確実に改善している。GeForce RTX 4060と比較する場合は「買うときの価格を重視するのか、それとも運用コストを重視するのか」という“てんびん”になりそうだ。
●日本価格は少し高い? 4万円を切れば間違いなく“お買い得”
ASRock Intel Arc B570 Challenger 10GB OCを通してIntel Arc B570 Graphicsの実力をチェックしてきた。処理にもよるが、Arc B580と比べるとパフォーマンスは1〜2割減となるものの、「フルHDを中心に、ゲームによってはWQHD」という感じで楽しむには十分な性能は備えている。ゲーミングPCの入門用GPUとして適任だ。
そうなると気になるのはグラフィックスカードの価格だ。想定価格は米国の税別で219ドル(約3万2800円)、日本の税込みで4万円台半ば〜5万円弱となる。Arc B580を搭載するグラフィックスカードの実売価格は5万円前後であることも考慮に入れると、為替レートや流通/サポートコストを鑑みなければいけないとはいえ、日本の価格は“やや高め”なようにも思える。
せめて、4万円台を切る価格で購入できれば、かなりコストパフォーマンスに優れたゲーミングGPUになるのだが、しばらくは難しいだろうか……。悩ましい日々が続きそうだ。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。
ネット環境良すぎると太りがち?(写真:ITmedia NEWS)42
ネット環境良すぎると太りがち?(写真:ITmedia NEWS)42