2025シーズンF1トピックス10(中編)
◆F1トピックス10・前編>>40歳のハミルトン、フェラーリで復活なるか?
今年で76回目を迎えるF1世界選手権は、3月16日にオーストラリアのメルボルンで幕を開ける。昨年に続いて史上最多24戦のカレンダーで行なわれ、世界各国を9カ月かけて回ったのち、12月7日のアブダビで閉幕する。
大混戦が予想されるチャンピオン争い、豊作と言われる大型新人ドライバー、そして5年目のシーズンを迎える角田裕毅の走り......。今年も話題に事欠かない。2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に注目ポイントを10点挙げてもらった。
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(4)参戦5年目の角田裕毅。勝負どころは前半戦?
2025年はRBからレーシングブルズと名前を変えたものの、角田裕毅は同じチームでデビューから5年目のシーズンを迎えることになった。昨年末のセルジオ・ペレスの離脱によって空いたレッドブルのシートへの昇格候補となったものの、リアム・ローソンがその切符を手にしたため、角田は当初の予定どおり残留した。
昨年はシーズン序盤から中団トップを争い、ドライバーとして大きな成長を印象づけた。だが、その一方でいくつかのミスもあり、それが「不安定さ」というレッドブルに昇格させない口実にされてしまった。今年はそういったミスやアップダウンがない、非の打ちどころのないドライビングを見せる必要がある。
多くのチームが来年のレギュレーション大改定に向けてドライバーラインナップを固定すべく、早々に2026年の契約を固めているが、角田は2025年限りの契約で2026年のシートは確定していない。少しでも有力なシートを確保するためには、2025年シーズン前半戦の走りが極めて重要になるということは、角田自身が一番わかっているはずだ。
昨年のペレスやダニエル・リカルド(RB)、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)がそうであったように、たとえ契約があっても成績が振るわなければシートを失ってしまう。それがF1という世界だ。2025年は新人や移籍組も多く、それら不確定要素も影響してくるだろう。
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そんな時、非の打ちどころのないレースぶりを見せていれば、必ずチャンスは巡ってくる。そういったチャンスがあるかどうかはわからないが、角田自身がそういうレースをしていなければ、チャンスが巡って来てもつかみ獲ることはできない。ならば、やるしかない。
もちろん、ここで実力を証明しておけば、たとえ2026年のシートに空きがなかったとしても、2027年以降に向けた話もできる。
今のF1で必要なのは、持ち込みスポンサーでもなければ、コネクションでもなく、実力だ。昨年いくつかのチームが角田を欲しがったように、今年もほかのチーム代表たちに「欲しい」と思わせるような走りをぜひとも見せてもらいたい。
(5)中団トップ争い。レーシングブルズの立ち位置は?
昨年も中団グループはシーズン序盤から最終戦まで、激しいランキング6位争いが繰り広げられた。今年はさらに大接戦になるかもしれない。昨年は序盤戦のダッシュでランキング5位となったアストンマーティンが2026年に向けて完全にシフトすれば、中団グループは6チームによるランキング5位争いということになるかもしれない。
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アルピーヌはルノーのワークス最終年となるだけに、2025年に結果を出すために執念を燃やしてくるか、それとも規定変更によりパワーユニットの不利がなくなったことで下剋上が期待できる2026年に全集中するか。昨年後半戦は一気に戦闘力を上げてきていたことからも、2025年は上々のシーズン開幕を迎えることができるはずだ。
小松礼雄代表の下で大躍進を果たしたハースも、2024年はアップデートを成功させ続け、シーズン末まで高い競争力を維持した。2025年は初めて小松体制でイチからマシンを作ることになるが、昨年のアップデート開発を見るかぎり不安はないと言えるだろう。
さらにトヨタガズーレーシングとの技術提携がいよいよ始動し、旧型車テストによる双方の経験値促進や、TGR-E(トヨタガズーレーシング・ヨーロッパ)の設備とノウハウを使ったパーツ製作やシミュレーション作業も進められていく。こうした恩恵も、早ければ2025年シーズン中からパフォーマンスに反映され始めるだろう。
そんななか、角田が所属するレーシングブルズは厳しい戦いを強いられることになりそうだ。昨年はシーズン中盤の開発失敗とリカバリーに時間を要したことで、以降の競争力を維持することができなくなってしまった。
しかし、中団トップを争う位置でシーズンスタートを切ったことも事実だ。昨年の失敗から得た学びをしっかりと2025年型マシン開発に生かせていれば、今年もまずまずのスタートを切ることはできるはずだ。
元マクラーレンで昨年までFIAテクニカルディレクター(TD)を務めていたティム・ゴスが技術責任者に就任し、チーム組織の強化が進んでいる。英国ビスターの空力開発拠点も、レッドブルの敷地内にある最新施設へと移転した。ただし2025年型マシンは従来どおりジョディ・エギントンTDが統括しており、新施設の効果は2026年型マシンの開発に生かされることになる。
レーシングブルズに限らずどのチームも、開幕時点でどれだけ高い対他競争力を確保できているかどうかで、2025年のランキング追求と2025年型マシンの継続開発にどれだけ注力するかが決まってくるだろう。
(6)新人ドライバー5人。最もインパクトを残すのは?
2025年は5人もの新人ドライバーがいる。それも大型新人が多い。
メルセデスAMGはアンドレア・キミ・アントネッリ(18歳)をデビューさせる。15歳になった直後の9月にイタリアF4でデビューし、フル参戦初年度の2022年にイタリアF4とADAC(ドイツ)F4王者、2023年はフォーミュラリージョナルにステップアップして中東選手権とヨーロッパ選手権の両方で王者になった逸材だ。
飛び級でFIA F2に昇格した2024年は、チームが苦戦するなかでも2勝を挙げてランキング6位。同時にF1の旧型車テストやシミュレーター作業を重ねてF1デビューに向けた準備を進め、チームから高い評価を得てレギュラーシート獲得が決まった。
新人ドライバーの中で唯一トップチームからのデビューとなるだけに、アントネッリには最も大きな注目が集まっている。イタリアGPでFP1に出走した際には、最初から全開でプッシュして5周目にクラッシュする"大物ぶり"を見せただけに、恐いもの知らずのアントネッリがどんな走りを見せるのか楽しみだ。
フェラーリ育成のオリバー・ベアマン(19歳)は、すでにフェラーリとハースから3戦に出場している。その実力は折り紙つきだ。
しかし、ハースではしっかりと結果を残すことが求められる。雨のサンパウロGPではミスを連発する場面もあった。これまでのスポット参戦やFP1出走とは違い、最初からレース週末全体を想定して準備を重ねたベアマンがどんなレースを見せるのか、今まで以上に厳しい目が向けられる。
アルピーヌのジャック・ドゥーハン(21歳)、レーシングブルズのイザック・アジャ(20歳)は、ともにFIA F2で結果を残しながらチームのテストやシミュレーター作業で経験を積んできている。それだけにシーズン前半戦でどれだけ結果を残せるか、チェックされる立場でもある。
キックザウバーからデビューするガブリエル・ボルトレート(20歳)は、2023年にFIA F3、2024年にFIA F2をストレートで制してきた。シャルル・ルクレールやジョージ・ラッセル、オスカー・ピアストリと同じ超エリート街道だ。
昨年マクラーレン育成に入ったばかりで、旧型車テストが1日、ルーキーテストが1日と、新人5人のなかで最もF1経験が少ない。チームも2026年のアウディワークス移行を控えており、ボルトレートに対しても1年かけてじっくりと育成していく姿勢を見せている。
ひと口に新人と言っても、それぞれが異なるチーム力、経験値からのスタートであり、1年目で目指すゴールも異なる。そんななかで彼らがどんな走りを見せ、どんなキャリアを歩んでいくのか楽しみだ。
(つづく)
◆F1トピックス10・後編>>日本人ドライバーが続々とF1の夢舞台へ