2024年の米国株式市場は、「S&P500」が年初に4742ポイントでスタートしたが、12月には6000ポイントを超えた。「NASDAQ総合」も1万4765ポイントが2万ポイントを上回る水準にまで上昇した。1年間で30%前後の大幅高を演じた株式市場だが、現状の米国景気はこの株価の上昇率ほど良いと言える状況にはない。この株高をどのように考えたらよいのだろうか? 今後の株価の行方は? アライアンス・バーンスタインの取締役 運用戦略部長シニア・インベストメント・ストラテジストである岡田章昌氏(写真)に2025年の米国経済と米国株式市場の考え方を聞いた。
◆脱グローバル化で国・地域ごとの成長に格差
――現在の米国経済の考え方を教えてください。S&P500株価指数が史上最高値を更新するなど好調を続けていますが、その裏付けとなるほどに米国経済は堅調なのでしょうか?
米国経済、また、米国株式市場の今後を見通すにあたっては、短期の視点、また、長期の視点と分けて考えるようにしたいと思います。
まず、長期の視点から米国の主要株価指数が史上最高値を更新していることを捉えますと、それが「常態」と言えるような市場ですので、史上最高値の水準にあるから警戒した方が良いということにはなりません。米国市場は世界の株式市場をけん引する役割を担っています。また、AI(人工知能)をはじめとした最先端のイノベーションをリードしているのも米国企業です。世界の市場の中で米国市場が突出しているために世界中から投資資金が集まり、その資金を効率的な投資に振り向けることで成長を加速しているのが米国企業です。中長期的には、この傾向は変わらないとみられるため、米国株式市場は引き続き魅力的な市場であると考えられます。
長期の視点から2024年を振り返ると、ここ数年でコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)、また、非接触の在宅経済の発達によるバーチャル(仮想)シフトが起こったものが、徐々に実体経済に戻ってコロナ禍前のような生活スタイル、消費活動に戻ってきています。その経済活動の復調の最終局面を迎えたのが2024年だったのではないでしょうか。
また、金融政策においても、コロナ禍で失速した経済を支えるため、金利を大幅に引き下げ、財政出動を積極的に行いましたが、モノ不足、エネルギー不足の中での大幅な金融緩和だったため、インフレが急速に拡大することとなり、そのインフレを抑えるために急速な金融引き締めを実施しました。そして、インフレの落ち着きを確認した後、米国では年5%以上に引き上げられた政策金利を2024年9月に引き下げに転じました。今後は金利低下のトレンドが続くと期待されています。中長期的に考えれば、金融政策も大きな引き締め策から転換し、正常化に踏み出したのが2024年だったということだと思います。
一方、短期の視点から2024年を振り返ると、米国大統領選でのトランプ氏の想定以上の強さ、フランスの政情不安、中国景気の低迷など、国・地域別にそれぞれ大きな変化があります。トランプ政権返り咲きの影響として「高金利・高インフレ」が見込まれ、景気全般にとってはやや回復が遅れる可能性があります。インフレが長引けば、利下げに転じた米国金融政策において、思うように利下げが進まないことにもなりかねず、リスク要因になります。
国際的には米中関係が再び緊張することが想定されており、グローバル経済が1つになって協調するより、各国がそれぞれに自国の利益のための政策を強化する流れになっています。「脱グローバル化」の動きが強まり、国・地域による景況感の格差が広がることになると考えられます。この点は短期的な投資判断をする上で重要なポイントです。その中で、米国は豊かな国力を背景に「アメリカ・ファースト」の政策を強化することによって当面の景気は堅調に推移しそうです。
また、成長途上にあるアジア地域に隣接する日本も比較的しっかりした経済が期待できるでしょう。中国の景気の回復には時間がかかる見通しで、この影響を最も強く受けるのはドイツをはじめとした欧州といえ、欧州経済は厳しい状況になると考えます。新興国は米ドル高による自国通貨安の恩恵を受けて経済の環境は悪くないと考えられます。ただ、米国の関税政策でメキシコに重い関税をかけるという話がでてきたように、米国の動き次第で影響を受ける国が中国、カナダ、メキシコ以外に広がる可能性があります。
◆超大型ハイテク株への集中物色一巡、出遅れ株に活路
――米国株式市場の見方は?
米国の株式市場は、2024年前半まではAIの活用拡大を期待した半導体関連企業や「マグニフィセント・セブン」といわれる超大型ハイテク株がけん引する相場になりました。インフレで景気の失速が懸念される中にあってもAI関連企業には確かな業績成長が期待されたために物色が集中しました。ただ、インフレが落ち着き、米国の長期金利が低下すると、AI関連銘柄への集中投資から他の銘柄に物色が広がるようになりました。また、年末にかけては超大型ハイテク株への集中物色が再燃していますが、年前半には「マグニフィセント・セブン」の中でも、マイクロソフト、アルファベット、メタ・プラットフォームズの株価は強いものの、テスラやアップルは株価が下がるなど、銘柄による騰落率の差がみられました。
そして、7月以降に意識されたのは、AI関連企業の利益成長見通しが年率40%成長から、30%、20%と徐々に成長率見通しが鈍化していったことです。この成長見通しに対する懸念が強まったため、株価上昇の勢いが衰えてきました。ただ、これらの懸念については、目線を長期に置けば、今後はより冷静な投資判断ができるようになってくると考えています。たとえば、AIについては、生成AIだけではなく、資本財である各種インフラ、また、オフィスなどの効率化向上のために、さまざまな場面に活用が広がることが容易に想像できます。AIは決して一過性の需要ではなく、幅広い業種で活用される大きな需要があると考えられます。一部の企業の恩恵が集中するのではなく、恩恵のすそ野が広がっていくことになるでしょう。
米国は政策金利の引き下げを行い、米国の株式市場は底堅いながらも物色の範囲を広げていくというのが、2025年の基本的な動きになっていくと考えています。
◆クオリティ重視で中長期投資を堅持
――その中で注目される業種は? また、投資戦略は?
ITやコミュニケーション・サービスに集中した物色は分散し、出遅れていた製造業や消費関連などが出遅れ分をキャッチアップするような動きが考えられます。実際に米国の企業収益は2025年は10%程度の増益が見込まれますので、その業績に支えられて株式市場は比較的堅調な動きになると考えます。ただ、「マグニフィセント・セブン」以外の銘柄に物色が広がるというのがメインシナリオになると考えています。
その中で、あえて注目の業種を挙げるとすると、ヘルスケア、そして、資本財サービスです。ヘルスケアは政権交代に伴う健康保険政策の変更懸念から株価が先行して下落しているところがあります。これまでも物色の外にあったため、相当な割安水準になっていますので、市場が正常化に向かう中では、これまでの出遅れの巻き返しが期待されます。また、資本財サービスは、コロナ禍によって世界的にインフラの更新が遅れてしまった部分があるため、経済が正常化に向かう中ではインフラ整備もこれまで以上に進むと考えられます。
2025年の株式市場のキーワードは「正常化」です。これまで見落とされてきた割安銘柄などが再評価されるような動きが続くと考えています。投資戦略としては、幅広く物色対象が広がる中で、収益力、財務力の観点などで質の高い企業(クオリティー銘柄)の株価が中長期的に優れたパフォーマンスを提供するものと考えられます。
当社が設定・運用する「アライアンス・バーンスタイン米国成長株投信」シリーズにおいて、11月以降、資金流入額が増えています。これは、第2次トランプ政権が誕生することが決定したことで、2025年の株式市場に不透明感が高まると考える方が一定程度いらっしゃるということではないかと想像しています。つまり、時価総額の大きな銘柄から500銘柄を組み入れたインデックスに投資するより、厳選された50銘柄に投資するファンドの方が安心できると考えてくださっているということかと思いますので、その期待にしっかり応える運用成績を残さなければならないと身が引き締まる思いです。
また、2024年10月21日に新規設定した「アライアンス・バーンスタイン・世界高成長株投信」は、日本や新興国を含む世界の株式の中から、イノベーションが創出する成長機会を発掘し、加速度的な利益成長が期待される高成長企業への分散投資するファンドです。設定来、基準価額は緩やかな右肩上がりとなる好発進をしました。現在の市場環境を考えると、割安で魅力的な銘柄が見いだしやすい日本や新興国の株式を組み入れることによって魅力的な投資機会になると考えます。