箸休めをお読みいただいている皆さま、あけましておめでとうございます。って、オイオイ桃花! お前まだお正月気分なのか? と思われた方もいらっしゃると思いますが、落語家のお正月はとっても長い。初席(はつせき)といわれるお正月の顔見世興行が、元日〜10日まで。二之席といわれるお正月興行が、11日〜20日まで。この期間、寄席では「あけましておめでとうございます」というご挨拶になる。世間の皆さまが、お正月気分もすっかり抜けて日常の生活をしているというのに、本当に呑気(のんき)なものだ。
しかし落語家のお正月は、とにかく慌ただしいのも特徴だ。初席は普段の寄席の3倍くらいの落語家が出演する。持ち時間はその分短くなるが、怒濤(どとう)の数の落語家をいっぺんに聴くことができるのも初席の醍醐味(だいごみ)。私も今年は最大5カ所の寄席を掛け持ちする。おめでたい雰囲気の高座は、お客様も明るく大変に上がりやすくて大好きだ。噺家(はなしか)同志で手ぬぐいの交換をするのも、初席の楽屋の風景。
あと、忘れてはいけないのはお年玉! 東京の落語界には前座・二ツ目・真打という三つの階級があるが、前座さんには全ての先輩がお年玉を渡す暗黙のルールがある。二ツ目になった瞬間から、もらう側ではなく、渡す側になるということ。東京には全ての団体を合わせると80人前後の前座さんがいるのだから、お年玉準備もなかなか大変だ。前座さんにとって「あけましておめでとうございます」という挨拶は「お年玉ください!」と同意語ということ。 初席期間に会う予定のなかった前座さんに、道でバッタリ会ってしまうと「姉さん!あけましておめでとうございます!」と嬉(うれ)しそうに言われ、「会っちゃったかーおめでとう!」と洒落(しゃれ)を言いながら、お年玉を渡すということもある。 去年なんて横断歩道の向こうから、逃さんとばかりに「姉さん!あけましておめでとうございます!」と大声で言ってきた強者(つわもの)もある。聞こえないふりをしばらくしたが、あまりにも言うので恥ずかしくなり、信号が青になるまで待ってお年玉を渡した。
やられたぜ。今年も前座さんとのお年玉鬼ごっこが繰り広げられるだろう。なんとか逃げ切れるか?! 乞うご期待!
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 2からの転載】
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ちょうかろう・ももか 東京都出身。春風亭小朝さんに弟子入り後、二ツ目・春風亭ぴっかり☆時代に「浅草芸能大賞」新人賞を受賞。2022年3月、真打ちに昇進し高座名を「蝶花楼桃花」と改める。昇進披露興行、初主任興行、企画にもかかわった全出演者女性による「桃組」はいずれも大入り。24年7月、31日連続ネタおろし独演会「桃花三十一夜」を池袋演芸場で開催、大成功をおさめる。