プレミアリーグ第22節、マンチェスター・ユナイテッド(13位)対ブライトン(10位)。
16日(現地時間)に行なわれたイプスウィッチ戦でプレミアリーグ通算14ゴールを挙げ、岡崎慎司が持っていた日本人記録に並んだ三笘薫。19日、中2日の強行軍で行なわれたこのマンチェスター・ユナイテッド戦で、さっそくその記録を塗り替えることになった。
1―1で迎えた後半15分だった。
21歳のスウェーデン代表MFヤシン・アヤリが、CBヤン・ポール・ファン・ヘッケ(オランダ代表)からパスを受けると、ピッチ中央を20〜30メートル、ドリブルで突破。20歳の右ウイング、ヤンクバ・ミンテ(ガンビア代表)にボールを預けた。
対峙するマンチェスター・ユナイテッドの左ウイングバック、ディオゴ・ダロト(ポルトガル代表)に対し、ミンテは縦勝負を挑むと見せかけ、後ろ足に当たる左足で逆サイドのファーポスト付近をめがけ、インフロントで巻くようなクロスボールを送球した。
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そこに走り込んだのが三笘だった。相手の右ウイングバック、ノゼア・マズラウィ(モロッコ代表)との競争に走り勝ち、右足を投げ出すようにボールを枠内に押し込んだ。
ブライトンは後半31分にダメ押しゴールを奪っている。ソリー・マーチ(元U−21イングランド代表)、アヤリとつなぎ、相手GKアンドレ・オナナ(カメルーン代表)がファンブルしたところを、ジョルジニオ・ルター(元U−21フランス代表)が決め、3−1のスコアでこの試合をものにした。
三笘のゴールがこの試合の決勝弾だった。岡崎慎司も2017−18シーズン、レスターの一員としてオールドトラッフォードで得点を奪っているが、この時は同点弾。現在のマンチェスター・ユナイテッドは当時のチームよりだいぶ弱いので、比較することはフェアではないが、由緒正しいスタジアムに残した爪痕という点では、岡崎のゴールよりインパクトがある。
しかも三笘は左ウイングだ。正統派のストライカーではない。ウインガーでありながら15ゴール叩き出したことに大きな価値を感じる。アタッカーとして総合能力の高さを証明したことになる。
【ブライトンを救ったゴール】
三笘の特異性は開始5分、ミンテがマークした先制点のシーンでも露わになった。カルロス・バレバ(カメルーン代表)が最後尾付近でファン・ヘッケからボールを受けた瞬間、三笘は走った。マズラウィの裏を取り、バレバからの縦パスを受け、ワントラップでマズラウィを置き去りにすると、GKオナナと1対1になった。
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普通ならここで打つ。そこでもし外しても仲間から糾弾されそうもない、三笘こそが蹴り込むにふさわしい選手だった。ところが三笘は打たなかった。隣を走るミンテに横パスを送った。得点をプレゼントしたのだ。
日本人プレミア最多ゴールは、この時、達成されてもまったくおかしくなかった。奥ゆかしいというか、お人好しというか、自己顕示欲が驚くほど低い選手であることを証明したシーンである。いつ何時も顔色ひとつ変えず、飄々とプレーする彼らしいプレーになるが、オールドトラッフォードを埋めたホームのファンをいたぶるような、余裕綽々のアシストプレーとも言ってもよかった。
ブライトンは先制点を奪ったあとがいけなかった。名門のホームチームをリスペクトしすぎたのか、後ろで守ろうとした。前節で勝利を収めるまで、8試合連続白星から遠ざかっていた理由を見るようだった。ロベルト・デ・ゼルビが監督を務めた昨季までなら、先制点を奪っても追加点を狙い、厚かましく前に出ていった。攻撃的な姿勢を徹頭徹尾貫いたものだが、ハーツラー監督は悪い意味で常識的だ。格上相手に敬意を払うような消極的なサッカーに出た。
すると前半23分、バレバが相手の1トップ、ジョシュア・ザークツィー(オランダ代表)相手にPKを献上。同点とされる姿に、ブライトンの今季の弱みを見るようだった。
そんな好ましくない流れのなかで、三笘の決勝弾は生まれた。ブライトンを救う、まさに価値あるゴールと言えた。
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1ゴール1アシスト。採点すれば10点満点で7点台後半は出したくなる活躍だった。しかし、マン・オブ・ザ・マッチかと言えば、微妙なところだが、同じく1ゴール1アシストをマークしたミンテのほうが、わずかに勝るとみた。ウイングプレーヤーとして比較したとき、ミンテは三笘に勝っていた。
前戦のイプスウィッチ戦の三笘もゴールは決めたが、ウイングプレーはいまひとつだった。対峙する相手に突っかかっていくプレー、何よりドリブル&フェイントを披露する機会がなかった。
この日もしかり。先制弾に繋がったマズラウィの背後に飛び出した動きをウイングプレーとするのなら、そのワンプレーに限られた。ウイングプレーの真髄である、最深部からの折り返しはこの日も披露されずじまい。相手の逆を取るプレーが減っている。
得点を狙いながら、同時にドリブル&フェイントで最深部を突く。このバランスが高次元で優れている選手といえば、モハメド・サラー(リバプール)やヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)だ。その両輪が揃う試合が、三笘の場合はまだ少ない。ウイング兼ストライカー。世界最高峰のプレミアでバランスに富んだ完璧なアタッカーになりきれずにいる。それができればスーパースターなのだが......。
8戦勝ちなしから2連勝を飾り、9位にひとつ順位を上げたブライトンに対し、マンチェスター・ユナイテッドは13位。監督がエリク・テン・ハグからルベン・アモリムに代わっても、浮上する気配はない。むしろ悪化している。国内リーグ13位(シーズン終了時)という成績は1989−90シーズンまで遡らなくてはならない。
サッカーがすっかり貧相になってしまった印象だ。このホームでのブライトン戦は完全な力負けだった。後半のアディショナルタイムは8分もあった。にもかかわらず、スタンドを埋めたユナイテッドファンの4割ほどは、終了の笛を聞く前に帰宅の途に就いた。心配である。