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生まれつき聴覚障害がある女児(当時11歳)が7年前、重機にはねられ死亡した事故を巡り、将来得られたはずの収入「逸失利益」の算定が争われた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は20日、健常者と同額の支払いを認めた。健常者の85%とした1審判決を変更し、徳岡由美子裁判長は「女児は障害の有無にかかわらず、健常者と同じ職場、条件で働くことが可能だった」と判断した。
弁護団によると、障害がある子供の逸失利益について、健常者と同じ水準とする司法判断は初めてという。両親が減額すべきではないとして控訴していた。
女児は井出安優香(あゆか)さん。2018年2月、大阪府立生野聴覚支援学校からの下校中、事故に巻き込まれた。両親らは重機の運転手側に約6100万円を請求。23年の1審・大阪地裁判決は「障害で労働能力が制限されることは否定できない」と述べ、算定のベースとする全労働者の平均賃金から15%減額した。
高裁判決はまず、逸失利益の算定で平均賃金からの減額が許されるのは「顕著な妨げとなる理由がある場合に限られる」との考えを提示。井出さんの聴覚を正確に把握し、職場環境などの変化を検討したうえで、労働能力を評価すべきだとした。
井出さんについては、補聴器で通常の会話が聞き取れており、手話などを使うことで相応の言語知識や学力も身につけていたとした。他者とのコミュニケーション能力も高いことから、健常者の児童に劣らない能力を発揮していたと評価した。
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続けて、障害者を取り巻く職場環境を検討。バリアーを取り除く配慮が義務付けられているうえ、デジタル機器の進歩などを通じ、「就労の障壁はささやかな合理的配慮があれば、取り除くことができるようになっている」と述べた。
そのうえで井出さんの将来について「自らの能力を発揮すべく就労し、周囲の協力で配慮された環境を獲得できたと予測できる」と判断。逸失利益は健常者と同額を認めることに妨げとなる理由はなく、「減額すべき程度に労働能力の制限があるということはできない」と結論付けた。
賠償額は1審から約600万円を増額し、運転手側に約4300万円の支払いを命じた。運転手側は「回答を控える」とコメントした。【木島諒子】
平均賃金が「原則」算定は画期的
障害者の逸失利益について詳しい吉村良一・立命館大名誉教授(民法)の話 障害のある子供について、平均賃金による算定が「原則」との枠組みを示しており、画期的だ。減額の具体的な根拠や説明がなかった1審判決に対し、障害者の就労環境の変化などを細かく分析して結論を導いている点も評価できる。影響は未知数だが、障害を前提とした減額に一石を投じており、同種訴訟ではより一層慎重な判断が求められると言えるだろう。
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