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鉄くずなど再生資源物を屋外で保管する「スクラップヤード」を巡り、騒音などに悩むさいたま市岩槻区の住民24人が、事業者に対し、総額1億3000万円の損害賠償を求める「責任裁定」を公害等調整委員会(公調委)に申し立てた。業者側は市の改善命令を受けて防音壁を設置するなど「繰り返し騒音対策を行った」と説明するが、両者の溝は埋まりそうにない。何が起きているのか。【鷲頭彰子】
裁定申請書や事業者側の答弁書などによると、同区掛地区にあるヤードは、2021年2月に操業開始。金属を切断する機械「せん断機」を使用するなど騒音規制法に基づく特定施設に該当する。市街化調整区域でもある同地区の規制基準は、日中は55デシベル以下となっている。
市環境対策課などによると、21年2月、市民からの苦情を受け市がヤード周辺の音量を調査。基準を超えていたため行政指導などを行ったが是正されなかったため、23年6月に同法に基づく改善命令を出した。事業者は防音壁設置などの対策を施し、同11月末、音量が55デシベル未満となっているとの自主測定値を添えた改善措置完了報告書を提出した。市は、翌12月に再度音量を測定し、基準内と確認したという。
ところが、防音壁が設置された後も騒音などに悩まされたことから、24年7月に住民の一人が公調委に責任裁定を申請。同10月には近隣の住民ら23人も申し立てに加わった。
同年11月から12月にかけての18日間、住民がヤードに隣接する住宅など2カ所で午前8時から午後5時まで1時間おきに音量を独自に計測すると、基準値を超える時間帯が相次いだ。
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ヤードから約10メートルの住宅では、騒音評価に用いられる騒音レベルで日中に53〜75デシベルを記録。測定した18日間で基準値を超えなかった日はなかった。70デシベルは一般的に、高速走行中の自動車内程度の音量で、大きな声でないと会話ができないとされる。ヤードから約60メートル離れた住宅でも、基準値を超える時間帯があった。
住民らは、事業者側が設置した防音壁についても「高さ12メートルもあり危険」と不安を隠さない。昨秋には壁の一部がはがれ落ち、網で応急措置をしていると指摘する。事業者側は「壁の安全性は騒音被害に関わりがない」と反論している。
さいたま市建築行政課によると、屋外の資材置き場であるヤードは建築物ではないため建築基準法の対象とならず、防音壁の安全性について行政として対応する法的根拠がないという。
住民の男性は「市の改善命令後の調査は1日のみで、その後も騒音被害を受け続けている。騒音だけではなく、壁の安全性などを含めて裁定を求めている。巨大な防音壁も台風などが来た際は『倒れるのではないか』といつも心配している」と訴えている。
公害等調整委員会
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公害紛争処理法に基づき、公害紛争を取り扱う総務省外局の行政委員会。責任裁定は、3人または5人から構成される裁定委員会が紛争当事者双方の主張を聞き、賠償責任の有無や賠償額を判断する。裁定に不満があれば、30日以内に民事訴訟を提起する必要がある。
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