三菱UFJ銀行の貸金庫から顧客の資産が盗まれた事件は、21日で元行員の逮捕から1週間となる。今村由香理容疑者(46)は外国為替証拠金取引(FX取引)の損失を補填(ほてん)するために計17億円相当以上の現金などを盗んだとみられ、「あの手この手の自転車操業」(捜査幹部)が明らかになりつつある。警視庁捜査2課は、大胆な手口が可能になった経緯など、全容解明を急ぐ。
入行22年目の2020年4月、同行旧江古田支店(練馬支店に統合)に営業課長として栄転したことが、事件のきっかけだった。貸金庫業務を一任された今村容疑者はこの頃、FX取引や競馬にのめり込み、多額の負債を抱えていた。民事再生手続きで負債整理した過去もあったが、同行に気付かれることはなかった。
貸金庫は支店と顧客のそれぞれが持つ計二つの鍵で開錠する仕組みだったが、支店でも顧客用の鍵のスペアを保管していた。子会社による保管状況のチェックは甘く、今村容疑者は他の行員に気付かれないようこれを悪用していた。
貸金庫について、銀行は何が預けられているか把握できない仕組みだった。捜査関係者によると、今村容疑者は調べに「ランダムに中身を見て、現金や金塊が預けられているのを知った」と説明。FXの損失の穴埋めに盗んだ現金などを充てる自転車操業を続けていたとみられる。
金品を盗む際は、何がどう置かれていたか分かるようスマートフォンで貸金庫を撮影。顧客の来店予定を把握すると、現金などを他の顧客から盗んで戻し、発覚を逃れた。一部顧客の利用頻度を頭に入れ、想定外の来店には金庫室の自動ドアの電源を切り、故障を装うなどして時間を稼いだ。
FXによる負債は最終的に少なくとも10億円に上った。盗んだ金額を上回るペースで損失が膨らみ続けたとみられ、ある捜査関係者は「数年間ずっと混乱の中にいて、冷静な計算ができていなかったのではないか」と推察する。
今村容疑者が玉川支店へ異動となった24年10月、被害に気付いた顧客からの指摘で、約4年半にわたる不正行為に終止符が打たれた。「いろんな人に迷惑をかけた」。今村容疑者はこう話し、取り調べに応じているという。