ベビー服から始まった在庫管理SaaS、3年間で顧客の流通総額は2兆円弱 大阪発の「フルカイテン」とは

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2025年01月22日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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フルカイテンの田中CPOへインタビューを実施した

 物流コストが高まり、在庫の適切な管理が求められる中、B2Bの在庫分析SaaS「FULL KAITEN」を提供しているのがフルカイテン(大阪市)だ。2023年にベンチャーキャピタルのジャフコ グループから出資を受けるなど、注目が集まっている。今回はフルカイテンの田中大介氏(執行役員CPO)へのインタビューを通し、同社の戦略などを聞いた。


【画像】値下げ率ごとに、商品の消化日数を把握できる「売価変更」


●勘に頼らない在庫の管理を実現する


 フルカイテンの前身は、2012年に始めたベビー服のEC事業だ。在庫管理が原因で三度の倒産危機を経験する中で、創業者・社長の瀬川直寛氏がFULL KAITENの原型を思い立ったという。その後事業化を果たし、ベビー服事業を売却した上で現在はSaaS事業に専念している。


 FULL KAITENは「売価変更」「店間移動」など5種類のラインアップを展開しており、いずれも小売店の売り上げと在庫データをAIで分析し、在庫を効率化するもの。田中氏は次のように説明する。


 「特にユーザー数が多い機能は『売価変更』です。過剰な在庫を解決する上では在庫消化率を上げる必要がありますが、この機能では値下げ率ごとの消化日数をシミュレーションし、的確な売価を示せます」


 例えば「10%値下げした場合の消化日数はn日、20%値下げするとm日」といった形で、値下げ率ごとの消化日数を把握できる。値下げ率の設定は属人化している企業が多く、ロスが大きい分野であり、人気の高さもうなずける。


 その他、近年ユーザー数の伸び率が大きい機能が「店間移動」だという。店舗ごとの在庫を平準化する機能だ。


 「チェーン店では、店舗によって欠品や過剰在庫が発生するなど、同じ商品であっても売れ行きがばらつきがちです。『店間移動』機能を使えば、チェーンの中でどの商品をどう動かせば良いかが分かりやすくなります」(田中氏)


 値下げの判断や在庫の移動は、人の勘に頼るよりもAIに任せた方が良いのは明らかだ。こうした背景から、イオングループのような大手チェーンでは、AIを使った価格判断システムをIT企業と共同開発している。一方、中堅以下の企業規模では、独自開発に割けるリソースは限られる。FULL KAITENは、こうした企業からのニーズを取り込むサービスといえるだろう。


 フルカイテンでは、年商30億円以上の事業者をターゲットにしており、現在は約200ブランドが導入している。主軸はアパレル業界だ。ARPA(1アカウント当たりの平均売り上げ)は月額50万円以上。2022〜24年の3年間でFULL KAITENが扱った顧客の流通総額は2兆円弱に及ぶ。


 これまで、販路はどのように開拓したのだろうか。田中氏は次のように話す。


 「雑誌への広告掲載から始め、メディアに載っている小売業の社長インタビューをチェックし、営業部隊がキーマンにアプローチするなどの地道な活動も行っています。現在ではオンライン・オフライン問わずセミナーも毎月開催しています」


 その他、ターゲットとする企業の決算資料を参考にしながら、在庫管理における改善の余地をアピールする営業手法も採っている。


●従来の下流だけでなく、上流工程の改善にも取り組む


 主軸の売価変更・店間移動に加え、2024年末には機能を3つ追加した。従来は小売業者の下流工程を得意としてきたが「下流は各工程のムダが重なった部分であり、もっと上流から課題を解決する必要を感じている」(田中氏)とし、上流から下流まで一気通貫に在庫管理を効率化できるよう、改善を進めている。


 例えば、単価を押し上げやすい商品やセット販売の組み合わせを提案する機能を追加した。あるスポーツ店では、店員の発想にないセット販売をシステムが提案し、売り上げ面で良い効果があったという。各店舗のデータを基に、倉庫から出荷する際の望ましい分量を提示する機能なども追加した。機能の追加は今後も注力する方針だ。企画や生産、販売までの流れをとらえた場合、『売価変更』や『店間移動』は小売業の下流で効率化を図るサービスといえる。上流のムダを解決する機能について、年内のリリースを目指す。


●将来的には広範なデータベースの活用も


 現状は導入ブランドごとの在庫分析にとどまっているが、今後はデータベースを活用したサービスを提供する方針だ。


 「現在は各社の売り上げと在庫を基にしたサービスですが、将来的には、当社のデータベースを統合し、AIも活用したサービスを1〜2年以内に実現したいと考えています」(田中氏)


 AIは学習データが多ければ多いほど、精度が高まっていく。現状の対象は既存商品に限られているというが、データベースを活用すれば新商品の在庫予想も可能になりそうだ。在庫管理の効率化を通して同社が目指すのが「世界の大量廃棄問題を解決する」こと。過剰生産や不良在庫をいかに減少させられるか、注目だ。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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