スペインのバルセロナ大学や、ドイツのMax Planck Institute for the Physics of Complex Systemsなどに所属する研究者たちが発表した論文「Phase behavior of Cacio and Pepe sauce」は、イタリアの伝統的パスタ料理「カーチョ・エ・ペペ」の完璧な調理法について、物理学者たちが科学的な解明を行った研究報告である。
この料理はパスタ、ペコリーノチーズ、黒コショウという単純な材料で作られるが、ソースのクリーミーさと食感の完璧なバランスを実現することは難しい。研究チームは、チーズ、水、デンプンの配合比を変えながら、温度上昇に伴うソースの安定性を体系的に調査した。
実験では、デンプンを含む水とチーズを混合し、温度を段階的に上げながら観察を行った。各サンプルはペトリ皿に移して写真撮影し、画像解析によってチーズ凝集塊の大きさと形状を定量化した。
その結果、ソースの安定性に最も影響を与える要因はデンプン濃度であることが判明した。具体的には、チーズ質量に対してデンプン濃度が1%未満の場合、系全体にわたる大きな凝集塊を形成。最適なデンプン濃度は2〜3%の範囲であり、これを超えるとソースは冷めたときに固くなりすぎることが明らかになった。
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また、パスタのゆで汁だけではソースを安定させるのに十分なデンプンが含まれていないことも判明。ゆで汁を煮詰めてデンプンを濃縮することもできるが、この方法では最終的なデンプン量を正確にコントロールすることが難しい。
これらの知見に基づき、完璧なカーチョ・エ・ペペを作るための具体的なレシピを提案した。2人分の場合、必要な材料はパスタ(トンナレッリが最適だが、スパゲティやリガトーニでも可)240g、チーズ(伝統的にはペコリーノのみだが、30%までパルメザンの使用も可)160g、デンプン(コーンスターチまたはジャガイモデンプン)4g、水40g(デンプン用)、挽きたての黒コショウである。
まず4gのデンプンを40gの水によく溶かし、弱火で加熱する。白く濁った状態からほぼ透明になるまでゲル化させ、やや冷ます。これが安定したソースを作るための重要な工程である。次にチーズをブレンダーで細かく刻み、冷ましたデンプンゲルを加えて再度ブレンダーにかけ、均一なソースを作る。この時点で挽きたての黒コショウを加える。ちなみに、異なる大きさの塊ができてしまうため、チーズを手でこするのは理想的ではないという。
パスタは塩茹(アルデンテ)でし、ゆで上がったら湯切りをして1分程度(1kg以上の場合はさらに長く)冷ます。この冷ますステップはソースの安定性を保つために重要である。その後、チーズソースと和え、必要に応じてゆで汁を加えてソースの濃度を調整する。この方法で作られたソースは80〜90℃までの再加熱にも耐えられる安定性を持つ。これにより、料理を熱いうちに提供でき、最高の状態で楽しむことができる。
Source and Image Credits: Bartolucci, Giacomo, et al. “Phase behavior of Cacio and Pepe sauce.” arXiv preprint arXiv:2501.00536 (2024).
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※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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