格安SIMでも海外ローミングを JCOMが「Airalo」と提携した狙い、J:COM MOBILEはシェア4位に躍進

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2025年01月22日 11:31  ITmedia Mobile

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JCOMがAiraloと提携し、海外ローミング用のeSIMを10%割引で提供している

 料金の安さで支持を集めるMVNOだが、ほとんどの会社がデータ通信の海外ローミングを提供できていないことが弱点の1つだった。渡航時に自身のスマホを使うには、現地のプリペイドSIMを購入したり、空港などで海外用のWi-Fiルーターをレンタルしたりする必要がある。こうした状況の中、J:COM MOBILEを提供するJCOMはトラベル用eSIMサービスを提供するAiralo(エアロ)と提携。同社の回線を利用するユーザーに向け、10%の割引価格でAiraloのサービスを提供している。


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 Airaloは、シンガポールに拠点を構えるeSIM専業の通信事業者。世界200の国や地域を対象にしたeSIMを提供している。アプリから簡単にサービスを申し込むことができ、使い勝手もシンプルなのが特徴だ。例えば、米国であれば1GB/7日間のデータプランを4.5ドル(約711円、1月8日時点のレートで換算)で提供している。24時間あたり約1000円の料金がかかる大手キャリアの国際ローミングと比べ、割安といえそうだ。


 こうした海外用のサービスを自社のユーザーにきちんと提供しているMVNOは、思いのほか少ない。一方で、海外で通信するための手段や、トラベル用eSIMサービスを提供する事業者は他にもある。J:COMは、なぜAiraloとの提携を決めたのか。JCOMでMVNO事業を担当する商品企画本部 モバイル事業部 部長の山部裕司氏と、副部長を務める田中勇基氏に、その理由を聞いた。日本でAiraloのパートナー開拓を行うHead of Partnerships(Japan)の西林祥平氏もインタビューに答えた。


●eSIMを一向にうまく活用できていなかった


―― まず、AiraloのeSIMをJ:COM MOBILEのユーザーに提供することになった理由を教えてください。


山部氏 MVNOだとデータローミングができないという話は以前からありましたが、コロナ禍で海外渡航が減り、そのままになっていました。とはいえ、MNOが提供している海外ローミングも、決して安くなっているわけではありません。家族で行くと人数分の料金がかかり、結構な金額になってしまいます。1日ざっくり1000円だとしても、人数が多いとそこそこの額になります。ですから、ローミングをするよりも、違う形態がいいということが念頭にありました。


 一方で、われわれもeSIMをやり始めていますが、一向にそれをうまく活用できていないということも背景にあります。eSIMに関しては、MNPで割引を得るために使われるケースなど、どちらかといえば、あまりよくない話も増えてきてしまっています。「iPhone Xs」のころから対応しているので、対応機種は既に多くあるにもかかわらず、ほとんどの人が使わずに眠っている。そこに対してもう少しポジティブな使い方はないんだろうかということを考えていました。


 そのようなときに、たまたまAiraloとの話がありました。eSIM専用でサービスをしているのは、われわれがあまり想定していなかったことですが、これってeSIMの正しい使い方ですよね。われわれもサービスを使っていましたが、純粋に便利で、価格的にもかなりリーズナブルです。日本は陸続きではなく、海外に行くときには基本的にどこに行くかを意識します。行くところに対しての準備もきちんとするので、どちらかといえば、われわれに合っているのではないか。そんなこともあって、Airaloと話をすることになりました。


―― ローミングができないのは不便というユーザーの声もあったのでしょうか。


山部氏 パラパラと挙がってきていました。これから先、MVNOでもある程度主回線で使われるようにならなければいけない。ローミングできないのは、あまりいいことではありません。だからといって、Wi-Fiルーターを空港で借りてくださいというのも不親切です。レンタルだと時間を取られたり、返したりするのが大変ですからね。


 海外ではGoogle マップや翻訳を使いたいのであって、動画のストリーミングをガンガン見たいという方は少ないと思います。Airaloはその辺の容量設計もよく考えられているように感じました。一緒にやらせていただければ、旅行者の方にはプラスになると思います。


●eSIMをJ:COM MOBILEだけのサービスにしようとは思っていない


―― Airaloはシンガポールに拠点がありますが、日本でパートナーを探していたのでしょうか。


西林氏 ちょうど日本で事業をがんばって進めていこうと力を入れ出していたタイミングだったので、JCOMさんからのご連絡は非常にうれしかったです。山部さんからお話があったように、大体1年ぐらい前にご連絡をいただき、お話をしてきました。もともとそのタイミングだったので「もちろんです」と思っていましたし、お話を進めていく中でもローミング(海外での通信)ではお役に立てると実感することができました。


―― こういった座組は海外でも進めているのでしょうか。


西林氏 はい。基本的には全世界で進めています。似たような事例としては、例えば海外の航空会社や旅行会社との取り組みがあります。


―― 10%割引というのは、JCOMからの送客効果を踏まえて決まった話だったのでしょうか。


山部氏 今回のサービスは、J:COM MOBILEという観点ではなく、J:COM加入者であれば誰でも特典を受けられます。MVNOでローミングが使えないというところからスタートしてはいますが、J:COM MOBILEだけのサービスにしようとはまったく思っていません。J:COM全体であれば顧客ベースとして500万世帯になりますし、そこに住まわれている方の人数ではもっと多い。ぜひその方々には使っていただきたいですね。


 Airaloのサービスはそもそもいい値段ですが、そこからさらに一段、何かアプローチできればという思いがありました。ただ、10%割引に関してはAiralo側から先にお話をいただき、「そこまでやっていただけるんですか」という形で話が進んでいきました。


田中氏 Airaloの中にも、さまざまな提供方式があります。卸のような形もありましたし、割引もある。いろいろな形を検討した結果、今の割引に決まりました。


―― Airaloとしても、J:COMの顧客基盤でユーザーを広げられるのはメリットがありそうですね。


西林氏 はい。すごく大きいですね。まさにわれわれが求めていたパートナーでした。知名度の部分は、われわれが感じている課題でした。これまで使っていたユーザーと、これから使うことになるユーザーはだいぶ違うと思っています。これまでは、例えばバックパッカーやデジタルノマドのような方や一部の留学生でした。共通しているのは、比較的テクノロジー的なリテラシーが高いことです。


 また、一部の方は英語に関しても怖がらずに使っていただける層でした。一方で、夏ぐらいから、ユーザーが広がっている感触があります。お問い合わせの内容を見ていると、そこがちょっとずつ変わってきている印象があります。


●日本語でのサポート体制を強化 その中で「電話対応をやめた」ワケ


―― その意味だと、サポート体制の強化が重要になりそうです。


西林氏 日本語でのサポート体制を強化する話は進めていたのですが、今回の取り組みはかなり強い動機になりました。一方で、サポートに関していうと、日本だけでなく、海外でもとんでもない質問は来ます(笑)。われわれはそういったことに慣れている事業者なので、その辺のことは大丈夫だと思っています。


山部氏 お客さまが必ずしもこういったことを得意としているわけではないので、われわれも日本語でのサポートはお願いしていました。早い段階から日本語で対応していただくような動きをしていただけたので、そこに対する心配はまったくなく、話はスムーズに流れていきました。日本市場で、日本の方に使っていただきたいと思っていることは強く感じることができました。


―― 実際に多いのは、どういう問い合わせでしょうか。


西林氏 全体的に見て一番多いのは、「設定がこれで正しいのか」というものですね。過去によく受けていた問い合わせは、(eSIMのことを)ちょっとは知っているような質問が多かったです。「この設定のここは大丈夫か」といった形で、具体的なポイントが挙げられていました。


 一方で、最近は前提知識のないフワッとした質問も増えています。例えば、「つながらないけどどうしたらいいのか」といった質問で、これに答えるのは非常に難しい。ただ、難しいと思いつつも、いくつかのパターンはあります。そういった蓄積があるので、感覚として、これを送ればほとんどの人が分かる文面を送ることができます。


 サポートはeSIM事業者が苦労しているポイントで、サポートの仕方も電話、メール、チャットと乱立しています。Airaloも当初は電話でやりとりすることがありましたが、今はやめています。電話だと、そのままスクリーンショットを送ってもらうことができないからです。


 AiraloはeSIMストアを世界で最初にやってきた事業者で、歴史も長く、おかげさまで恐らく世界で一番利用者も多い。あまり詳しくは公表できませんが、カスタマーサポートの満足度もひどい点数がつくかと思いきや、常に90%を超えています、


●UIが分かりやすく、日本人の渡航エリアをカバーしている


―― 個人的にも、Airaloは海外旅行や出張のときに活用しています。今のところサポートに頼るようなトラブルになったことはありませんが、都度プロファイルをインストールするだけで使い勝手がシンプルだと思いました。


田中氏 UI、UXがシンプルで分かりやすいですよね。われわれもさまざまなサービスを比較した際に一番いいと思いました。


山部氏 日本人が渡航しそうなエリアをちゃんとサポートしていたのも大きいです。北米やハワイもありますし、欧州、東南アジアも対応しています。


―― 卸での提供もあるということでしたが、よりJ:COMのサービスのように見せることもできたと思います。今のようにAiraloを直接利用してもらう形になったのはなぜでしょう。


山部氏 どこまでやるかよりも、早く手軽にやれる形でスタートしたかったからです。12月にローンチできましたが、これは年末年始に海外旅行に行く方が増えるからで、時期的に当てなければということもありました。時期やタイミングを重視した部分はあります。


 ただ、実際にはAiraloのサイトにもJ:COMのロゴは入れていただけたので、完全にセパレートになっているわけではありません。完全に融合しているわけでもありませんが、弊社のカスタマーセンターでAiraloのやっているようなことができるかというと、現実的には難しい。分かりやすくしなければいけないところとのバランスを取った結果、今の形を選択しました。J:COM色があまり出すぎると、Airaloに嫌われてしまうかもしれませんし(笑)。


西林氏 そんなことはありません(笑)。


―― 先ほどeSIMが眠ったままになっているというお話がありましたが、J:COM MOBILEでもau回線のeSIMは提供していますよね。あまり使われてないのでしょうか。


山部氏 徐々にしか使われてないですね。感触として理由だと思っているのが、物理SIMであってもeSIMであっても受けられるサービスが一緒だということです。eSIMの方がいいというユースケースを世間に打ち出せていないのが、広がっていかない要因だと思っていました。利用者視点だと関係ないことですからね。その点、AiraloはサービスとeSIMがちゃんとひも付いているところがよかったと思います。


●「データ盛」を導入してからJ:COM MOBILEの定着率が伸びた


―― J:COM MOBILEは今、シェアも伸びています。(2024年)12月に発表されたMM総研の調査では、独自サービス型SIMの事業者でシェア4位になっていました。


山部氏 ここ数年が強かったですね。2年ぐらい前に始めた「データ盛」でパケットをプレゼントし、1GBの料金で5GBまで、5GBの料金で10GBまで使えるようにしてから、定着率が上がっていきました。たまたまなのか、それが効いているのかまでは何ともいえないところですが、事実として、そこを境に定着率がよくなり、結果的に長く使っていただけるようになりました。ある時期から、過去に契約した人にも適用するようにしましたが、それもよかったと思います。


 MVNOはどの会社も、長く定着するユーザーが少ないところに苦労していると推測しています。われわれも同じような悩みを抱えていましたが、それをうまく解決できました。まだまだ数は微々たるものといえるかもしれませんが、そういったところはきちんと(ユーザーに)刺さっています。


田中氏 最近各社がデータ容量を増量していますが、その走りになったのではないでしょうか。


山部氏 料金プランを変えるのは結構ハードルが高いので、ある程度作っていたプランに追加する形にしました。J:COM MOBILEの場合、他のサービスを併用している方が90%を超えているので、適用されやすかったと思います。


―― モバイル単体で使っている人はほとんどいないんですね。


山部氏 いないですね。単体の料金だと他社と劇的な差がないですから。われわれは、J:COMを利用している方に向けてサービスをしていくというところからスタートしています。先ほどのAiraloとの話にも通じますが、モバイルに閉じずJ:COM利用者全体に、というのはそういったことも理由です。


●大手キャリアの30GBプランの影響は「あまりない」


―― ユーザーのデータ利用量は年々増えていて、大手キャリアもオンライン専用プラン/ブランドを30GBにしました。そういった大容量化の影響はないでしょうか。


山部氏 あまりないですね。もともと30GBに増量されても2728円でやっていたことは(影響として)あると思います。5Gでつながらないという声もあまり聞かないですし、ネットワーク品質が安定しているところも乗り換えの衝動が起きない1つの理由になっています。


―― データ使用量の増加で、ARPUが上がっているようなことはありますか。


山部氏 そういう意味だと、徐々に上がっています。ただ、MVNOを利用される方はまだそこまでデータ使用量が多くありません。5GBに収まっている方が多いのは事実です。もう少し使い方のブレークスルーが起きれば、1つ上のプランにしようという発想になってくる気がしています。大容量プランはデータ盛で30GBまでしかありませんが、使い方が変わってくれば、その上を用意しなければいけないと考えています。


―― その意味だと、J:COMには映像サービスがあるので環境は作りやすいような気もします。


山部氏 J:COMは映像が得意ですし、組んでいる会社もたくさんあります。そういうところが、次の話になってくるのだと思います。データ使用量を増やすには、どうしても動画がないといけない。SNSだけでデータ使用量が増えることはまずありません。使っていただきやすい環境を用意することが事業者側の義務なので、ここは使いやすくしていきたいですね。


―― 契約数ですが、6月に70万回線を突破したという発表がありました。現状はどの程度でしょうか。


山部氏 11月末で77万になっています。今年度(2024年度)中には80万には行きたいな、と。ただ、数だけを追うのではなく、品質もよくしていきたいですね。MVNOは遅いといわれることがありますが、J:COM MOBILEはそこまで速度が絞られません。


田中氏 その部分はかなり頑張っています。


―― グループとしてはKDDI傘下になりますが、送客のようなことはあったりするのでしょうか。


山部氏 まったくないです(笑)。むしろもう少し考えてほしい(笑)。ただ、J:COM MOBILEは、J:COMのお客さまに合った形でサービスを変えてきています。データ盛などのサービスも、J:COMのお客さまのためという発想でできたもので、独自路線は確立できました。


―― 自社のサービスや顧客基盤を生かすという点では、ある意味MVNOの王道のようにも聞こえました。


山部氏 逆に他のMVNOからは異質に見られているかもしれませんし、うちを参考にしようとしても、参考にならないかもしれない。お互いにいいところを出していくのは、あるべき形だと思っています。


●取材を終えて:価格を含めたローカライズをいかに徹底できるか


 Airaloとの提携は、データローミングの代替という側面に加え、eSIMの普及を促進する狙いがあった。サービスがシンプルなことや、日本語でのサポート体制が整えられていることも、導入の決め手になったようだ。一部のユーザーに知られているAiraloだが、一般層にまで広く普及しているかといえば、そうではない。日本のユーザーを増やしたいAiraloにとっても、メリットが大きそうな提携といえそうだ。


 一方で、Airaloはドル建てでサービスが提供されているため、日本円で価格がいくらになるのか、直感的に分かりづらい側面もある。為替レートの影響も直撃するため、渡航のたびにコストが変わってしまうところも少々使いづらいと感じている。J:COMを介したサービスでも、この部分は変わっていない。サポートに加え、こうしたローカライズをいかに徹底できるかが日本での成否を左右することになるかもしれない。



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