新しいPixelやiPhoneは“売れていない”? 店員が語るその理由

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2025年01月22日 12:21  ITmedia Mobile

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新モデルの売れ行きが、ランキングほどに良くないように見えるのはなぜ?

 携帯電話の販売に携わっていると、1年の数え方は4月にスタートする「年度」で考えることが多い。販売から身を引いてしばらくたつが、今でもその癖は抜けていない。


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 2024年4月から始まった2024年度も、既に4分の3を消化した。ちょうど年度の中間に来るタイミングでGoogleの「Pixel 9シリーズ」やAppleの「iPhone 16シリーズ」がリリースされた。今回のPixel 9シリーズは外観にやや大きな変化があった。iPhone 16シリーズも、いわゆる無印モデル(iPhone 16)とその大画面モデル「iPhone 16 Plus」についてはカメラの並びが変わり、見た目の印象が大きく変わった。


 これら2つの人気シリーズだけでなく、モトローラ製の廉価なフォルダブルスマホ「motorola razr 50s」「motorola razr 50d」を始め、12月までの間に特徴的なAndroidスマートフォンも複数登場した。携帯電話ショップの端末コーナーを見ると、2024年度に入ってから発売されたスマホが主力となっており、ここ数年の中でも“新鮮味”が強めな状態で1〜3月の「春商戦」に突入することになる。


 端末の販売ランキングを見てみても、2024年度に入ってから発売されたモデルが上位に入っており、人気モデルは確かに売れてはいるようだ。しかし、携帯電話ショップの店頭の様子を見ていると、スマホがそれほど売れているようには見えない。実際に店頭で接客をしているスタッフに話を聞いてみても、スマホが売れているという実感はあまりないようだ。


 ランキングとは裏腹に、新モデルがそれほど売れていないように見えるのはなぜなのか――現役店員から話を聞いた。


●新モデルの売れ行きは“微妙”?


 新モデルが発売されると、店頭に長蛇の列ができ、端末の手続きや受け取りに何時間も待たされる――それは、もはや過去の光景といえる。


 最近では各キャリアの「オンラインショップ」を使えば新しいスマホを家で受け取れるし、店頭で買う場合も「来店予約」をすることで待ち時間を極小化できる。ゆえに、店がごった返すような“祭り”が起こりづらくなっているのだ。


 しかし、祭りにはならないとはいえ、先述の通り販売ランキングを見ると、新モデルは“売れている”。携帯電話ショップから以前のような繁忙さを感じられないのは、なぜだろうか。店員はこう語る。


 (携帯電話端末は)売れていないことはありません。しかし、「売れてる!」と大きく実感できるほどではないことも確かです。 新モデルでも人気のあるものは、発売直後のタイミングで指名買いをするお客さまもいます。ただ、昔と比べると指名買いは確実に少なくなりました。TVやネットで新モデルの登場を知って、出かけたついでにふらっと触りに来るお客さまもいるんですが、肌感覚では店まで来て触るお客さまは半減したように感じます


 指名買いを除くと、見て触って買おうというお客さまは減ったように感じます。新モデルが発売されたタイミングだと、以前は「在庫あり」が強い訴求になっていたんですが、最近は「在庫あり」もあまり刺さらなくなってきました。 機種やカラー、ストレージ容量など、人気/不人気の理由はいろいろありますが、新しい機種が出たことを知ってやってきたお客さまが、「予定外だけど、今日買い替えてしまおう」という行動をしなくなったので、結果的に売り場で「売れていない」ように見えるようになったことは確かですね。


 台数ベースで見ると、機種によってはもちろん売れています。(売り場の)見かけ以上に数は出ています。 でも、以前のように「新機種が出るから、今月は忙しくなるぞ!」とか「新機種も出たし、これから年度末までは売りまくるだけ」という雰囲気にはならないですね。良くも悪くも、落ち着いているように思えます。


 店頭の様子とは裏腹に、端末は着実に売れているが、「売れているか?」と聞かれると微妙な情勢――総じて、そのような状況にあるようだ。


 しかし、なぜ実態と見た目(あるいは現場の感触)に乖離(かいり)が生じてしまっているのだろうか。


●売れ行きが“微妙”なのはなぜ?


 続いて、「売れていない」という実感(肌感覚)の根拠をもう少し踏み込んで聞いてみた。


 さっきも言った通りで、「指名買い」と「ふらっと見に来る」というお客さまは減ってしまっています。ただ、ここ数年は指名買いの台数はおおむね横ばいで、それほど減っていません。 問題はふらっと見に来るお客さまです。このようなお客さまは、発売日やその直後の週末を過ぎるてしまうと「在庫があるなら買おう」とはならなくなりました。その場で買えるなら買う、というお客さまが本当にいなくなったのです。


 売れていない理由を求めると、やっぱり「端末価格」でしょうね。  最近であれば、話題姓のある新モデルは10万円超が当たり前です。今使っている機種が「3〜4年前の上位モデル」だとすると、その系譜を受け継ぐモデルを買おうとすると15万円超で、場合によっては20万円を超えてしまうこともあります。「ダウングレード」は避けたいという心理ゆえに、買い換えを見送ってしまうお客さまが多いのです。 最近では、手頃な価格で良い性能のスマホも増えました。私も「こちらの機種ならお手頃です」と勧めることも多いのですが、実はその「性能が良い」は3〜4年前の上位モデルと同等か、少し上くらいだったりします。お客さまから「あまり性能が変わらないなら、買い換えなくてもいいよね」と言われて、私も個人的に「そりゃそうですよね」と思ってしまうこともあります。


 価格に注目すると、やっぱりキャリアを通さないで販売されるモデル(販路)との価格差を気にするお客さまが増えています。 端末を手元に残さない前提で考えると、24カ月(2年)ごとに機種変更する場合は、キャリアの販売プログラムを適用して分割払いで買った方が安上がりになるケースも多いです。私もそのことをお客さまにお伝えするのですが、実は買い換えること自体が“重労働”と考えるお客さまもそれなりに多く、そのような場合は24カ月で手放した場合の「実質価格」よりも、「その場で支払う価格」が安いものを選びたいと考える人が増えているようです。あえて言い方を選ばなければ、計算するのが面倒なので、ぱっと見の購入総額が安い方を選ぶということです。 あと最近、価格面でいうと「どうせそのうち『月々1円』になるんでしょ?」みたいな声も多いです。2024年12月26日のガイドライン改正では「お試し割」の導入や「ミリ波対応端末の割り増し割引」も可能になりますから、その辺の動向をよく知っているお客さまは、あえてそれを待つこともあります。総じて、発売直後に買うと「損」であると思うお客さまが増えたのだと思います。 こういうお客さまを想定してか、キャリアも無理せず「月々1円」にできる手頃な端末を用意してはいますが、そういうのに限ってストレージの容量が少ないなど、売れ線の(客に勧めやすい)スペックではないんですよね……。「上位モデルを少しでも安く買いたい」という心理もあってか、繰り返しですが“待ち”なお客さまが本当に増えています。


 「なぜ売れないのか?」という理由を求めると、やはりスマホ(端末)の“価格”に行き着くようだ。


 総務省の政策もあって、昨今は条件付きでも「一括0円」「一括1円」といった販売施策を実施することは難しい。スマホの本体価格が年々高騰していることもあり、「新機種は高い」という観念も定着してしまっている。


 「なら分割払いで買えば?」という意見もあるだろうが、その点でいうとキャリアの分割払いを組み合わせた購入プログラムの認知もある程度は進んでいる。ゆえに購入自体を“重労働”と考える人が増えた反面、逆に少しでもお得に買いたいという人はプログラムを使って低価格で使える(買える)タイミングを狙う傾向も見受けられる。購買意欲の高い「指名買い」を行う人を除くと、新機種が“新しいうちに”に買うことはない人が大勢を占める状況になっているのだ。


 加えて、販売プログラムを考慮に入れなければキャリアを通さない方が安く買えることも、広く知られるようになってきている。このことも、店頭での購入意欲を“そぐ”一因となっているようにも思える。


●それでも客は「新機種を選びたい」


 ある店員は、以下のようにも語っていた。


 昔はハイエンド機種がタダ同然で買えていました。だからこそ、買い替え前の機種が良いモノだったら、次も良いモノを選びたいと思うのが普通です。「0円」が「15万円」はもちろんですが、「10万円」が「15万円」になるのも心理的インパクトは大きく、買い換えをためらってしまうのは当然です。 電気通信事業法が改正され、端末の値引きが制限されるようになってから数年たちますが、やはり今もお客さまからは「以前なら安く買えたのに」と言われます。法改正と端末価格の高騰が重なって、「安くはないけど高くもない」という感じで買えた時期があまりにも短く、結果的に端末が余計に高く感じて、新機種に興味はあっても買えないということで、店に足が向かないお客さまもいるのかもしれませんね。


 ここまでの話でもあった通り、新機種は売れていないわけではない。しかし、以前ならアーリーアダプター以下の客層も発売日の購入を望んでいたところ、端末の価格高騰がその意欲をそいでしまった――そんな状況が、売り場を一見すると「売れてないのでは?」と感じてしまう原因となっている。


 しかし、来店客が新機種に興味を示していないかというと、そうでもない。これまた端末の価格高騰が原因で、同じクラスのスマホに買い換えられなくなってしまっているのだ。以前ならキャンペーンで“後押し”もしやすかったのだが、今は法律やガイドラインの規制が厳しく、それも難しくなってしまった。


 「在庫あります!」「今なら買えます!」が、来店客の決めてにならないのが今の携帯電話市場の状況だ。



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