【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】
◆ヨーロッパ以外の馬には極めて魅力的な新機軸
アスコット、グッドウッド、ヨークという、イギリスを代表する3つの競馬場が、1月20日、共同で声明を発表。新たなボーナス制度が導入されることが明らかになった。
「ブリティッシュ・ミッドサマー・ボーナス」と銘打たれた新たな制度には、ヨーロッパ以外の地域を拠点としている馬たちにとって、極めて魅力的な新機軸が含まれている。
まず、アスコット競馬場で行われる12F路線の大一番G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y、今年の開催は7月26日)と、グッドウッド競馬場を舞台とする真夏のマイル路線最強決定戦G1サセックスS(芝8F、今年の開催は7月30日)に、欧州以外を拠点とする馬が参戦する場合、3歳馬ならばレーティング115以上、4歳以上ならレーティング117以上を持っていれば、輸送費は主催者負担となる。
なおかつ、関係者4名分のビジネスクラス往復航空券、現地におけるホテル宿泊5泊分、さらには、登録料も主催者負担となるから、G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSとG1サセックスSは、ほぼ「招待競走」として施行されることになるのだ。
3歳馬ならばレーティング115以上、4歳以上ならレーティング117以上という条件も、そもそも、それぐらいはなければハナから勝負にはならないという辺りに引かれたラインだ。2024年ワールド・ベストレースホース・ランキングがまもなく発表になるが、おそらくは30頭を超える日本調教馬が有資格馬となるはずだ。
日本調教馬の海外遠征が日常化している中、日本馬にとっていささかハードルの高いものとなっているのが英国遠征だ。19年にディアドラがグッドウッド競馬場のG1ナッソーS(芝9F197y)を制するという快挙を達成しているものの、アスコット競馬場主催の競走に関しては、06年のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSで、ハーツクライが勝ち馬ハリケーンランから1馬身差の3着に入って以降は、残念ながら厚い壁に跳ね返される結果が続いている。
G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSは、前年まで125万ポンドだった総賞金も、今年は150万ポンド(約2億9094万円)に増額されることが決定している。
実質的に「招待競走」となるのを機に、イギリスにおける12ハロン路線の最高峰に挑む日本馬が、ぜひ現れて欲しいと願っている。
一方、サセックスSの舞台となるグッドウッド競馬場では、前述したようにディアドラがG1制覇を果たしている他、22年にはバスラットレオンがG1サセックスSに挑み、あのバーイードから3.1/2馬身差の4着と、悪くない競馬をしている。すなわち、日本調教馬が結果を残せる競馬場なのだ。
サセックスSの総賞金も100万ポンド(約1億9396万円)と、英国のスタンダードからすると悪いものではなく、ここもぜひ日本のマイラーに挑んで欲しいレースと言えよう。
「ブリティッシュ・ミッドサマー・ボーナス」には、さらにいくつかのインセンティブが網羅されている。
中でも画期的な試みと言えるのが、「キングジョージ6世&クイーンエリザベスS/サセックスS連覇ボーナス」だ。キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、及び、サセックスSを、同じ馬主さん、もしくは、同じ調教師さんの馬が勝てば、100万ポンド(約1億9396万円)のボーナスが支給されるのだ。
勝てないまでも、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、及び、サセックスSを、同じ馬主さん、もしくは、同じ調教師さんの馬が入着すれば、25万ポンド(約4849万円)のボーナスが支給されるのである。
多くの手駒を抱える大手馬主さんや有力厩舎にとっては、視野に入るボーナスである。さらに、ヨーク競馬場を舞台としたG1インターナショナルS(芝10F56y、今年の開催は8月20日)を絡めたボーナスも設定されることになった。
キングジョージ6世&クイーンエリザベスS勝ち馬、及び、サセックスS勝ち馬がヨークのインターナショナルSに出走した場合、25万ポンド(約4849万円)の出走手当が支給される他、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS入着馬、及び、サセックスS入着馬がヨークのインターナショナルSに出走した場合、15万ポンド(約2909万円)の出走手当が、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS出走馬、及び、サセックスS出走馬がヨークのインターナショナルSに出走した場合、5万ポンド(約970万円)の出走手当が支給されるのである。
また、インターナショナルSも、日本調教馬に関して、登録料が主催者負担となる。
今年の夏は、日本のトップホースがイギリスに集結することを期待したい。
(文=合田直弘)