【トライアスロン】4大会連続五輪の田山寛豪氏、次代に贈る「人生タイムマネジメント」両立支援

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2025年01月23日 11:00  日刊スポーツ

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トライアスロン男子で五輪4大会連続出場の田山寛豪(左)とテクノアーク甲賀和生社長(撮影・木下淳)

トライアスロン男子でオリンピック(五輪)4大会連続出場を誇るレジェンド田山寛豪氏(43=流通経大職)が、安心して競技できる環境づくりに奔走している。


海外転戦が主となるスポーツで、活動資金の確保などが積年の課題となっている中、建築・建築設備・プラント設備に特化したエンジニア派遣会社テクノアーク(東京都港区)の甲賀和生社長(58)と対談。日本トライアスロン連合(JTU)を2023年から支援する同社と連携し、現役選手たちが“手に職”つけながら練習やレースに打ち込むことができないか、模索している。(以下敬称略)


◇  ◇  ◇  ◇ 


スイム1・5キロ、バイク40キロ、ラン10キロの3種目で総合順位を競うトライアスロン。昨夏のパリ五輪では、セーヌ川の水質問題が騒がれながら、男子50選手、女子51選手がアレクサンドル3世橋からシャンゼリゼ通りの石畳を駆け抜けた。


男子はニナー賢治(NTT東日本・NTT西日本)が15位、小田倉真(三井住友海上)が41位、女子は高橋侑子(相互物産)が40位の成績を残している。


田山も、かつて4大会連続で五輪の大舞台に立ったトップアスリートだ。04年アテネ(13位)08年北京(48位)12年ロンドン(20位)16年リオデジャネイロ(途中棄権)。日本選手権は11度の優勝を誇り、ワールドカップ(W杯)では07年に日本人初の金メダルに輝いた。


一方で「五輪を目指すレベルにある選手は、男女とも10〜15人くらいです」と田山はトライアスロン界の現状を明かす。大企業のサポートを受けて競技に専念できる選手もいれば「トップクラスの実力があってもスポンサーがつかなかったり、アルバイトしながら続けたりしている選手もいます」。日本オリンピック委員会(JOC)の就職支援制度「アスナビ」を活用してチャンスをつかむ選手も増えつつあるが「なかなか全員が全員、希望通りの環境とはいかないですね」と語る。


そんな難しい状況下、甲賀は反対に、支援強化を図ることを思い描いていた。JTUを協賛金で支えてきた次の施策として、雇用でも選手の背中を押せないか探っている。


「日本一、世界一を目指すトップ選手でも、愛好家として楽しむ社会人でも、いいんです。競技を続けながら、CAD(コンピューター支援設計)で図面を書いたり、施工管理をしたりする当社の仕事で手に職をつけてもらえば、金銭面や将来の不安がやわらぐと思いますし、引退しても、そのまま働けます。国家資格の取得も目指せる職場。より長くスポーツを続けてもらいたい気持ちと、うちで働いてもらいたい思いと。競技と生活を両立させたい選手をサポートしたいな、と考えているところです」


意気投合してJTUとのマッチングが成立。今回の対談も実現した。


田山「甲賀社長から『まずは五輪を目指して頑張ってもらって、しかしその挑戦が終わった時には、すぐセカンドキャリアを始められる場所、社会人になって力を発揮できる環境、を準備しておきたい』と言っていただきました。先ほど五輪を目指す層は男女で10〜15人ずつと言いましたが、その下の23歳以下には世界選手権やアジア選手権を狙える選手が30〜50人ずついます。彼らにも、甲賀社長の支援策は浸透していきそうだな、と感じています」


甲賀「卒業後の所属チームが決まっていない、けれども、競技は続けたい、夢を追いたい、という選手を支えたいんです。特にアマチュアスポーツでは、正社員にはならずアルバイトを選んで、運動を続けて、引退した瞬間、何も働く術がない…という選手が多いと聞きました。それでは報われないし、現役のうちから何か我々にできることはないか、JTUさんと話していきたいな、と」


田山「ありがたいお話です。実際に五輪を目指すとなれば、トップ選手は海外転戦が常で、直前になれば拠点を海外に置いて競技力を上げる時期も増えてくるので、本当に五輪のメダルを取るという志があるのであれば、やはり会社を休む時期が長くなってしまうんです。仮に、夢には届かなくても、五輪を目指した努力が次のステージに生きるような仕組みを用意したいという甲賀社長の考えを聞いた時、すごく選手にとって心強い会社だなと思いました」


甲賀「うちは、まずはバスケットボール女子の支援から始めました。現在、実業団でプレーする選手が5人います。平日は働いてもらいながら、練習や試合には出てもらう生活。春(25年4月)には、さらに2人が増える予定です。一方でチーム全体の予定というものがあって、各人が合わせなければいけない団体競技よりも、トライアスロンのような個人競技の方が、より個別のサポートをしやすい面もあるのではないか、と思っているんですが、いかがでしょうか」


田山「本当にありがとうございます。確かに、我々には居酒屋でアルバイトしていた仲間もいますし、コンビニエンスストアで働きながら、合間に練習していた選手もいました。スポーツクラブのトレーナーなども多いんですが、強くなるために最も大切な時間を、実際はバイトのシフトでつぶしてしまった、働かざるを得なかった、という選手も実は数多くて。そうではなく、甲賀社長がおっしゃってくださった国家資格の取得に向けた勉強など、大変かもしれないですけど、現役を終えてからの方が人生は長いですし、次代を担う選手たちに悩みがあったり、行き場がなかったりした時には、非常に頼りにしたいなという思いです」


甲賀「会社の方針として資格をしっかり取ることにしています。しかも業態がエンジニアの『派遣』ですから、練習や大会のスケジュールに合わせて社内で調整できますし、競技力だけでなく、仕事のスキルも上がるようにしていきたい。その点、トライアスロンの選手たちは3種目の練習時間などを自分で決めているので、セルフマネジメントが得意、と聞いたことも魅力的でした。何とか形にしければ」


田山「おっしゃる通り、泳ぎと走りと自転車の3種目ありますので、基本的には1週間のうちオフが1日として、あとの6日間で3種目の練習をしています。午前中だけトレーニングする日もあれば、週に何回かは終日、朝から晩までという日もあります。空き時間の捻出も含め、タイムマネジメントが得意な選手が、やはり競技力も高くなっていく傾向にあって、そういった選手たちが自分の人生もタイムマネジメントしながら『ここに仕事を入れられるな』とか考えながら、やっていければ、より人生も豊かになるのかなと。そういう柔軟性を持たせてくれる会社だと、お話をうかがっていて思いました。ぜひ一緒にチャレンジの可能性を探れましたら」


甲賀「うちは発信力がないもので、反対に、ぜひお力を貸してください。技術の前に、現場で最も大事なことはコミュニケーション能力だと思っていて、建築のように多くの人間が力を合わせる職場にとっては、真剣にスポーツに向き合ってきた方々は本当に貴重な存在ですので、よろしくお願いします」


田山「どうしても、お金の面で苦労する選手が多いので、テクノアークさんと組むことができれば、競技を基本的には優先しつつ、空いた時間に仕事ができると、今の若い選手たちにもしっかり浸透させていきたいと思います。競技の特性上、やはりストイックというか、スイム、ラン、バイク全てで競争するので、誰よりも自分自身のことを知らないといけないし、力を発揮する方法を突き詰めないといけないし。世界を転戦するために求められる対応力も、トライアスロンでしか培うことができないものがあるのかな、と思っています。戦略的に、同じ思いを持って成長していければ、うれしいです」


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自国開催でNF(国内競技団体)が最大限の助成を受けられた東京五輪、そこに向けた強化の延長線上で勝負できたパリ五輪が終わった。既に強化交付金も減額されている中、アマチュア競技を取り巻く環境は厳しさを増すが、五輪で夢を膨らませた有望株は今後も出てくる。両者の取り組みは、次代のアスリートの受け皿にもなる。【木下淳】

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