「年末年始は『40度以上熱があるので受診したい』という急患の電話が朝から鳴り続けていました。結果的に、1日あたり100〜130人のインフルエンザの急患を診ましたね。こんな経験は医師になって初めて。まさに異常事態でした」
そう明かすのは、公平病院(埼玉県戸田市)の院長・公平誠さん。昨年12月23日から29日までに全国の医療機関から報告されたインフルエンザの患者数は、1医療機関あたり64.39人。統計を取り始めた’99年以降で最多となった。
これを受け、入院先が見つからない“救急困難事例”も各地で急増。報道によると、名古屋市では12月の救急出動件数が過去最多の1万6千79件に。仙台市内でも1月6〜12日に236件の救急困難事例が発生し、コロナ禍を上回った。
「救急搬送を10件、20件断られてやっと受け入れ先が見つかった、というケースも多くありました。例年、インフルエンザでの入院は数人なのですが、今回の年末年始は10人にものぼっています」(前出・公平さん)
インフルエンザ肺炎のほか、食事が取れず動けなくなってしまった高齢者も多かったという。
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「年明けは、感染者が1日あたり30〜40人と落ち着いてきましたが、新学期も始まり、再び感染が拡大する可能性もあり、油断はできません」(前出・公平さん)
ひなた在宅クリニック山王(東京都)の院長・田代和馬さんも「特に高齢者は注意」と警鐘を鳴らす。
「往診していた80代の方が、年末にインフルエンザで亡くなられました。急激に体力が落ち、肺炎を併発して呼吸器症状が悪化したまま回復しなかったのです。その方に目立った基礎疾患はありませんでしたが、高齢者の場合はインフルエンザが命取りになることもある」
例年に比べて重症化率が高いというわけではないが、「感染者が増えると、それだけ重症化する患者の数も増える」(前出・田代さん)のだ。
例年流行するインフルエンザは主にA型とB型の2種類。沖縄県では年末年始の感染者のうち、77%がA型、2.3%がB型と報告されている。症状の違いについて田代さんは次のように解説する。
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「両型ともそれほど大きな違いはありませんが、挙げるとすればA型は39度近い高熱が3〜4日続きます。B型は、A型ほど熱は出ない印象ですが、倦怠感が長引くケースが多い。また、下痢や吐き気などの消化器症状を訴える方も」
葛西医院(大阪市)の院長を務める小林正宜さんは、「現在、(医院のある)大阪市内ではA型が多い」として、こう続ける。
「発熱や咳、倦怠感、喉の痛みなどが基本症状ですが、A型は特に強い関節痛や倦怠感が目立ちます。じつは私も年末、20年ぶりにインフルエンザに感染して、腰の左右が強烈に痛かったんです」(前出・小林さん)
葛西医院では、発熱外来の患者が年末のピーク時には1日約20人だったが、1月中旬現在では7〜8人と減少傾向にあるという。たしかに、1月12日までの1週間に、全国の医療機関から報告されたインフルエンザの患者数は、1医療機関あたり35.02人と、年末年始に比べれば減少している。
「ただし、異常な感染爆発が起きているなか、インフルエンザB型の流行が拡大する可能性もあり、まだ油断はできません」(前出・公平さん)
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インフルエンザの流行は「少なくとも2月中旬くらいまで続くのでは」(前出・田代さん)というのが現場の医師たちの見方だ。
過去に例を見ない感染爆発のなか、“薬不足”も深刻化している。コロナ禍以降、せき止めや切り薬など、基本的なかぜ薬の出荷制限が続いているが、1月からはインフルエンザの切り札である「タミフル」にまで制限がかけられたのだ。
「当院でも、1月3日に入院や救急外来の患者に使用するタミフルと、ラピアクタという点滴の抗インフルエンザ薬が切れました。ゾフルーザという飲み薬で代用しましたが、点滴しか受け付けない方は、ラピアクタがないので厳しい状況でした」(前出・公平さん)
例年以上の入院患者数や薬不足を受け、医療ひっ迫はしばらく解消されそうもない。症状が出てもすぐに受診できない場合や、処方薬が手に入らない場合に備えておくべき市販薬はあるのか。
まずは、市販の検査キットで感染の有無を確認するのが望ましいが、手に入らない場合、「近しい人にインフルエンザ陽性者がいれば“みなし陽性”と考えて対応を」と、小林さんは話す。そのうえで必須なのが解熱鎮痛剤だ。
「特に子どもや腎臓の悪い方の解熱鎮痛剤は『カロナール』などアセトアミノフェン成分のものを選びましょう。子どもの場合、ジクロフェナク(ボルタレンなど)やアスピリン系(バファリンなど)の服用が、脳症のリスクと関連しています」(前出・小林さん)
服用のタイミングも重要だ。
「なるべく解熱剤は使わないほうがいい、と考えている方もいるのですが、『寒気がしてきたな』『熱が上がりそうだな』という段階で飲んでかまいません。高熱が出てしまうと、体力が奪われて食事も取れなくなってしまいます」(前出・小林さん)
次に備えたいのが“漢方薬”だ。
「麻黄湯は、抗ウイルス作用があるので当クリニックでも処方しています。感染直後に服用すると、体が温まって症状の緩和が期待できます」(前出・田代さん)
小林さんも、「麻黄湯か葛根湯を基本としつつ、鼻炎症状が強ければ麻黄湯の代わりに麻黄附子細辛湯を。さらに、症状に合わせてもう1種類加えると効果的」だと続ける。
「痰絡みの咳や鼻汁がひどいときは小青竜湯を使いましょう。のどの症状がつらいときは、桔梗湯か桔梗石膏をプラスしてください。唾液をのみ込むのもつらいほど喉が痛いときは、桔梗石膏を3口くらいの水に溶かしてうがいをし、そのままのみ込むという方法がおすすめです。スッと痛みが緩和されます」(前出・小林さん)
ただし、同時に3種類以上の漢方薬は使わないようにしよう。漢方以外にも、下痢などの消化器症状が出た場合に備えて、「ビオフェルミンなどの整腸剤を用意しておくとよい」(田代さん)そうだ。
「鼻水や鼻づまりなどアレルギーのような症状が長引く場合には、アレグラなどの抗ヒスタミン薬の服用も効果的です」(前出・小林さん)
そのほか、食欲がないときにでも栄養・水分補給できる経口補水液やゼリーなども忘れずにストックを。
もうひとつ重要なのが、自宅での療養法だ。
「発熱時に冷感シートをおでこに貼る方がいますが、解熱効果はありません。保冷剤をハンカチなどに包み、脇の下や首の付け根に当てて休むのがいいでしょう」(前出・小林さん)
ただし、市販薬を利用しつつ自宅療養が可能なのは、「あくまで、ふだん健康で体力がある人だけ」と、いうのが医師たちの意見。高齢者や基礎疾患のある人のほか、食事ができなくなった、自力で動けないといった場合は、せずに受診しよう。
まだ続くインフルエンザの感染爆発。“いざ”への備えを確認しておいたほうがよさそうだ。
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